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『水辺』の談話室
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クレデリア・ヴェルデ公爵令嬢は、優雅に迷いなく廊下を進んでいく。
目指す先は、中等部の総会構成員が集まる、『水辺』の絵画がかけられた談話室だ。
開いたままの戸口から、足を踏み入れる。
「クレデリア様!」
早速クレデリアを見つけてくれたのは、中等部総会の補佐を務めるリリベル・ウェリタスであった。彼女は顔をほころばせ、嬉しくてたまらないような表情で駆け寄ってきた。
「まあ!今日も朝露をたっぷりあびた白百合のようにお美しいですわ。あんなに離れていてもすぐにクレデリア様のお姿が飛び込んでまいりました。昨日に続いてお会いできてうれしいです」
「うれしすぎて、つい走ってしまいました」とはにかむリリベル。クレデリアは鷹揚に微笑み、可愛らしい後輩をまっすぐ見つめた。「ごきげんよう、リリベル」
「今日はどうなさったんですか?ご用があるなら、わたくしが参りましたのに」
「ええ、実はね」と言いかけ、クレデリアは談話室を見渡した。
「あら、めずらしい。今日はあなただけ?」
「はい、クラージュ殿下はまだ学院に来ていらっしゃらないですが、ノイマン様とジェネラル様は新しく入学される方をご案内するとおっしゃってました」
秀才の側近ノイマン・インテリゲントと、クレデリアの兄ジェネラル・ヴェルデ。
ジェネラルはクレデリアよりひとつ上の19歳だが、わざわざ入学時期をずらし、17歳のクラージュ殿下と同じ中等部3回生に所属している。高等部にいるクレデリアは兄の方が下級生になるので、なんだか変な気分だ。
「そういえばお兄様がそんな話をしていたわ……ねえリリベル、入学者というのは例の」
リリベルは気まずそうに視線を下す。
「あ、そうです。昨日おねえさまと、その」
「なるほどね、今日はそれについてお話したかったの」
リリベルはこてんと首をかしげる。
「昨日あなたからご相談されたでしょう。ライラ・ウェリタスの素行について。私もね、一度はあなたの言うように見過ごそうと思っていたのだけど我慢できなかったの」
「え……」
「ごめんなさいね、リリベル。ライラ嬢には私からお話させていただきましたわ」
息をのむリリベルの肩をクレデリアは優しく撫で、近くのソファに腰掛けさせた。
「……謝るのはわたくしの方ですわ、クレデリア様。わたくしがもっとおねえさまを気にしてあげていればあんなことには」
「なにを言うの!あなたは悪くないでしょう!」
菫色の瞳に、じんわりと涙が浮かぶ。
「だって……わたくしが先に魔法を見せたせいで、おねえさまはすごくやりづらかったと思うんです。クレデリア様にだけお話しますと、わたくしは先生に褒められていい気になってたんです。『お手本になる』って言っていただけて舞い上がって……いつもはおねえさまのお手伝いばかりだけど『自分にもできることがある』ってうれしくなってしまったんです。立場も弁えずに」
クレデリアは、リリベルに寄り添うように隣へ座った。「そんな……」
「立場だなんて、そんなの……あなたはとても素晴らしい子よ。ライラ嬢なんかよりずっと。何度も言うけど、あなたがあんな方の犠牲になることないの。本来なら総会の仕事だって、殿下のお相手だって、あの方が自分からしなくてはいけないことなのだから」
「いいえ、わたくしにはこれくらいしかできませんもの。だからこそ、もっとわたくしが頑張らないと……おねえさまにはできない分、わたくしがウェリタス家の娘としてしっかりしないと……」
リリベルの頬を一筋、涙が滑り落ちた。
目指す先は、中等部の総会構成員が集まる、『水辺』の絵画がかけられた談話室だ。
開いたままの戸口から、足を踏み入れる。
「クレデリア様!」
早速クレデリアを見つけてくれたのは、中等部総会の補佐を務めるリリベル・ウェリタスであった。彼女は顔をほころばせ、嬉しくてたまらないような表情で駆け寄ってきた。
「まあ!今日も朝露をたっぷりあびた白百合のようにお美しいですわ。あんなに離れていてもすぐにクレデリア様のお姿が飛び込んでまいりました。昨日に続いてお会いできてうれしいです」
「うれしすぎて、つい走ってしまいました」とはにかむリリベル。クレデリアは鷹揚に微笑み、可愛らしい後輩をまっすぐ見つめた。「ごきげんよう、リリベル」
「今日はどうなさったんですか?ご用があるなら、わたくしが参りましたのに」
「ええ、実はね」と言いかけ、クレデリアは談話室を見渡した。
「あら、めずらしい。今日はあなただけ?」
「はい、クラージュ殿下はまだ学院に来ていらっしゃらないですが、ノイマン様とジェネラル様は新しく入学される方をご案内するとおっしゃってました」
秀才の側近ノイマン・インテリゲントと、クレデリアの兄ジェネラル・ヴェルデ。
ジェネラルはクレデリアよりひとつ上の19歳だが、わざわざ入学時期をずらし、17歳のクラージュ殿下と同じ中等部3回生に所属している。高等部にいるクレデリアは兄の方が下級生になるので、なんだか変な気分だ。
「そういえばお兄様がそんな話をしていたわ……ねえリリベル、入学者というのは例の」
リリベルは気まずそうに視線を下す。
「あ、そうです。昨日おねえさまと、その」
「なるほどね、今日はそれについてお話したかったの」
リリベルはこてんと首をかしげる。
「昨日あなたからご相談されたでしょう。ライラ・ウェリタスの素行について。私もね、一度はあなたの言うように見過ごそうと思っていたのだけど我慢できなかったの」
「え……」
「ごめんなさいね、リリベル。ライラ嬢には私からお話させていただきましたわ」
息をのむリリベルの肩をクレデリアは優しく撫で、近くのソファに腰掛けさせた。
「……謝るのはわたくしの方ですわ、クレデリア様。わたくしがもっとおねえさまを気にしてあげていればあんなことには」
「なにを言うの!あなたは悪くないでしょう!」
菫色の瞳に、じんわりと涙が浮かぶ。
「だって……わたくしが先に魔法を見せたせいで、おねえさまはすごくやりづらかったと思うんです。クレデリア様にだけお話しますと、わたくしは先生に褒められていい気になってたんです。『お手本になる』って言っていただけて舞い上がって……いつもはおねえさまのお手伝いばかりだけど『自分にもできることがある』ってうれしくなってしまったんです。立場も弁えずに」
クレデリアは、リリベルに寄り添うように隣へ座った。「そんな……」
「立場だなんて、そんなの……あなたはとても素晴らしい子よ。ライラ嬢なんかよりずっと。何度も言うけど、あなたがあんな方の犠牲になることないの。本来なら総会の仕事だって、殿下のお相手だって、あの方が自分からしなくてはいけないことなのだから」
「いいえ、わたくしにはこれくらいしかできませんもの。だからこそ、もっとわたくしが頑張らないと……おねえさまにはできない分、わたくしがウェリタス家の娘としてしっかりしないと……」
リリベルの頬を一筋、涙が滑り落ちた。
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