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見世物の時間

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急に名前を呼ばれ、わたしはビクッと身を竦ませる。
目が合わないようにしていたけど無駄だったみたい。

恥ずかしいけれどよくあることだ。リリベルは『良い例』、わたしは『悪い例』。

階段を下りていくと、左右の席からヒソヒソ声がする。

「ああ例の奴か」「そうそう、ウェリタス侯爵家の『いらない』方のご令嬢」「出来そこないの姉を持つとリリベル様も大変だな」「やだなにあの恰好、古臭い」「ねえ知ってる?あの方って加護が弱すぎて精霊が分からないんですって」

わたしはますます小さくなりながら広場へ足を踏み入れ、おずおずと先生のそばへ立った。

「ライラ・ウェリタス侯爵令嬢、君の父君は水の精霊と大変相性が合った。緑豊かな我が国では喜ばれる加護だ。母君は隣国から来られた高貴な方だったな」

「は、はい」

「で、君の加護はなんだったかな?」

マルス先生はこのやりとりを何度もしているはずなのに、未だに覚えてくれない。

「……分かりません。加護の選定式でも分かりませんでした」

「それは何故だ?」

「加護の力が……弱すぎて」

マルス先生は満足そうに頷いた。
「精霊にも相手にされてないのね」と、あちこちから笑い声が上がる。

「あの、でも、たぶん火の精霊だろうと、大聖堂で王妃様が」

わたしが勝手にしゃべりだしたのが気に入らなかったのか、マルス先生は舌打ちをした。

「ああ、ああ、分かってる!おそらくそうらしいな。火は珍しいものが好きで、一番人間に協力的な精霊だ。余りものに手を差し伸べるくらい同情的でもある」

「リリベル様、余りものですって」と、どこかの女生徒のはしゃいだ声。そのあとから「そんなこと言っちゃダメよ。おねえさまだって一生懸命なんだから」と可愛らしい、でもどこか面白がるような声がする。

「おねえさまだって侯爵家の長女として、一流の勉強をしているのよ。わたくしよりも素晴らしい魔法を見せてくださるわよ」

それほど大きな声じゃないけれど、きっとみんなに聞こえている。わたしは顔が赤くなるのが分かった。リリベルより素晴らしいことなんてできるわけない。

「リリベル嬢もああ言っていることだし、とっておきの魔法魔術を見せてもらおう」

マルス先生が「さっさとやれ」と顎で示す。

わたしはゴクリと唾をのみこみ、声が震えないよう発音に気を付けながら、おそるおそる精霊に呼びかけた。

『こ、こんにちは、火の精霊様はいらっしゃいますか?もしいらっしゃるなら、わたしの指先に灯を付けていただけませんか?』

なにも起こらない。

周囲からの笑いは、もう抑えられないくらいに広がっている。

祈るような気持ちで、もう一度同じ言葉を繰り返す。でも手は震えるし、声はさっきよりずっと小さくなってしまった。

(ああ、やっぱりダメだ……こんな自信なさそうな論述じゃあ、精霊は力を貸してくれない)

諦めてマルス先生に向き直る。

「あ、あの、うまくできません……すみません」

「だろうな。フン、まあこのように精霊の加護や潜在魔力には身分の貴賤など関係ない。ダメな奴はなにをやってもダメということだ」

「なるほどな!勉強になる!」

(…………………………え?)

「でもちょっと話が長いぞ、マルマル先生!だからハゲるんだ!」
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