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リリベル・ウェリタスの光魔法

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合同で行われる「魔法魔術」の実技は、月に2回程度ある。

あらゆる魔法魔術に通じている高名な先生を招くため、回数が少ないのが難点だ。だから大抵いくつかの学年がまとまって授業を受ける。

場所は、野外の円形教室。もともとは太古の闘技場で、小さな広場を中心として階段状の石段が整然と並んでいる。もちろん魔力の暴発があっても問題ないよう、教室棟からは十分に離れた場所だ。


魔法魔術協会【象牙の杖】から派遣されたマルス先生は、たっぷりとした口ひげを撫でながら、いかめしい口調で講義をする。

「さて、厳密に専門的に狭義的な区分では『魔法』と『魔術』は異なるものである。諸君らは混同して使いがちだから改めて説明しよう」

「『魔法』は精霊の力を使う方法。我が国は大変に魔法魔術学問が進んでいるから、5歳のときには精霊から加護を得る。精霊言語で力の使い道を示せば、望むように彼らの力を使うことができる。例えば、火の精霊の加護持ちであれば、フォティア語で『松明に火を付けてください』と頼めば、精霊はそのようにしてくれる。つまり『魔法』は初歩的な奇跡であり、加護を持ち、論術さえできれば誰でも使える」

「次に、『魔術』は精神力に呼応するとされる魔力――潜在魔力を術式に注ぎ込むことで、決まった現象を発動させる術だ。諸君のよく知るところなら、魔力を込めることで遠方とやりとりができる水晶球などがそれにあたる」

「そして上記どちらも極め、魔法と魔術を複雑に組み合わせ、練魔した到達点を『魔導』と呼ぶが……まあ、これに関しては選ばれた特別な者しか用のない言葉だ。この中でなら、そう……リリベル・ウェリタス侯爵令嬢!君になら関係があるかもしれないな」

みんなの前で名指しされ、リリベルはポッと頬を赤らめた。

「よければ、『魔導』の片鱗を見せてもらえるかね?いつもすまないが、いいお手本になるからな」

「お手本だなんて……でも、わたくしでよければ」

リリベルが中央の広場に進み出ると、石段に腰掛けていた全員がざわめいた。姿勢を正したり、興奮した表情で隣の者と囁きあったり。「うれしいわ、光魔法が見られる!」
わたしたちの下学年であるリリベルが指名されても、誰も不思議には思わない。

「では、はじめます」

リリベルが論述を始める。歌うように光の精霊へ呼びかける。言語は光の精霊が愛する聖ルミエラ語。内容はこんな感じだ。

『ごきげんよう、光の精霊さんたち。もしよかったら、ここにいるみんなにあなた方の力を見せてあげてほしいの。光の粒を雪みたいに降らせて』

なにもない中空で、蛍のような光が無数に瞬いた。残像をともなった光は流れ星のように、リリベルの周囲を舞い踊る。リリベルは自分のショールをほどき、布に指先で聖ルミエラ語の文字をなぞった。光、の文字。

「見て、ショールが!」「魔力で光ってる……きれい」

『光の精霊さん、手伝ってちょうだい』

リリベルが再び歌うと、光の粒がリリベルをくるみ、ショールはさらに煌々と光り始めた。光輝くリリベルは本当にきれいで神々しく、だれもが目を離せない。

たっぷり数分がたち、リリベルが精霊たちにお礼を言うと光は少しずつ消えていった。

「……いやあ、見事だよ。君の魔術はいつ見ても美しいね、リリベル嬢」

リリベルは「光栄ですわ先生」とはにかむ。マルス先生は笑顔で――こんなこと言っちゃダメだけどちょっぴりデレデレして――拍手をした。

周りからも自然と拍手が起こる。わたしも夢中で拍手する。歓声の中をリリベルは堂々と席に戻っていく。

(ああすごかった!あれが魔法と魔術の組み合わせかあ……さすがリリベル!)

庭園でのやりとりを思い出しても、やっぱりリリベルへの尊敬は変わらない。だって、自分ができないことをああも易々とされたら、差がありすぎて悔しがることもできないもの。

「このように、魔法と魔術は違う性質を持つが、使い手の力量次第で組み合わせることができる」

騒ぎが落ち着き、再びマルス先生の話が再開された。

「加護や魔力は、親子や姉妹でも同じ性質になるとは限らない。また血脈が影響するということもない。高貴な血から高貴な力が生まれるというわけではない。こちらもちょうどいい参考がある。

ライラ・ウェリタス、こちらへ来なさい」
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