上 下
4 / 39

ひとりぼっちのお誕生日

しおりを挟む
(クラージュ殿下、リリベル……)

花園で笑いあうふたりは、世界中から祝福された恋人同士みたい。
そのまま絵として美術館に飾れそうなほど美しい、お似合いのふたり。陽射しも、あの場所だけひときわ柔らかくきらめいて見える。

すぐに離れようとしたが先に気付かれてしまった。「そこにいらっしゃるのは、おねえさま?」

(あぁ、どうしよう)

びくびくしながら振り返ると、ふたりはゆっくりこちらに歩いてきた。

クラージュ殿下は嫌そうな顔――まるで服についたホコリを見るような目つきで、わたしを睨む。
せっかくの楽しい時間をわたしが台無しにしてしまったみたいだ。これが初めてのことではないけれど、憧れの人にそんな顔をされるとやっぱり胸が痛い。

「なんだ、おまえか」

「あ、あの、殿下におかれましては、本日も」

「うっとうしい」と一蹴された。

リリベルが殿下に寄り添ったまま、聖女の微笑を浮かべる。

「ねえ、おねえさまも一緒に観劇に行かない?今夜殿下が連れていってくださるんですって」

クラージュ殿下はリリベルに目を移し、愛おしそうに微笑む。

「リリーは優しいな。だが僕はリリーとふたりだけで行きたいんだ。それに、こんな陰気な女が隣にいたのではどんな喜劇も楽しくなくなってしまう」

「殿下ったら!」

リリベルが頬をふくらませて殿下をつつく。彼は声を上げて笑い、リリベルの肩を抱き寄せた。その仕草があんまり優しくてわたしは小さく息を漏らす。

わたしなんて殿下に手を握っていただいたこともない。当然か。だれだってわたしの手なんか触りたくない。
観劇にだって誘われたことはないし、一緒にお庭を散歩したこともない。

(名ばかりの婚約者……)

わたしのうらやましそうな視線に気づき、リリベルが口角を上げる。

「おねえさまはランチの途中だったのではなくて?お邪魔しちゃったかしら」

「ランチ?その粗末な食事が?」

恥ずかしくなって、ジャムが挟んであるだけのパンを隠す。

「おまえは本当にリリーと同じ侯爵家の娘なのか?辛気臭い顔、貧相な体型、みすぼらしい恰好、おまけに残飯を食い漁ってる。少しは僕の身にもなってくれ。おまえみたいな奴が婚約者だなんて野良犬にも紹介できやしない」

殿下は自分の冗談に笑っている。

「おねえさま、勘違いしちゃってごめんなさい。それランチじゃなくて小鳥のエサなのよね。地面にまいておいた方が小鳥たちが食べやすいわよ」

リリベルは優しくそう言うと、わたしの手からパンをひったくり地面に落とした。

「あ……」

「なあに?わたくしなにかいけないことした?」

「い、いえ……気が付かなくてごめんなさい。どうもありがとうリリベル」

「どういたしまして、おねえさま」

歩いていこうとしたリリベルが足を止めた。「あ、そうだ忘れてた」
クラージュ殿下を先に行かせて、わたしに向き直る。

「お誕生日おめでとうございます、ライラおねえさま」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

君は、妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは、婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でも、ある時、マリアは、妾の子であると、知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして、次の日には、迎えの馬車がやって来た。

捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」 パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。 夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる…… 誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

余命わずかな私は家族にとって邪魔なので死を選びますが、どうか気にしないでくださいね?

日々埋没。
恋愛
 昔から病弱だった侯爵令嬢のカミラは、そのせいで婚約者からは婚約破棄をされ、世継ぎどころか貴族の長女として何の義務も果たせない自分は役立たずだと思い悩んでいた。  しかし寝たきり生活を送るカミラが出来ることといえば、家の恥である彼女を疎んでいるであろう家族のために自らの死を願うことだった。  そんなある日願いが通じたのか、突然の熱病で静かに息を引き取ったカミラ。  彼女の意識が途切れる最後の瞬間、これで残された家族は皆喜んでくれるだろう……と思いきや、ある男性のおかげでカミラに新たな人生が始まり――!?

処理中です...