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聖女ではない女

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「どうした?怖くて何も言えないのか?首を切り落とされるのは、そんなに恐ろしいか?」

ユースレスが煽ると、群衆から野次や笑い声が飛んだ。

ディアは黙ったまま、眉を寄せている。

「オイ、これが最後のチャンスだぞ。心を入れ替えて王家に仕えるなら、特別に命を助けてやる。死ぬのは嫌だろう?どうだ?」

このままディアの返事をいつまでも待つわけにいかず、ユースレスから提案する。

しかし、ディアはちょっと考えたあと、あっさり首を振った。カッとなって、ユースレスはディアに掴みかかる。

「なんだとッ!どこまで私の慈悲を無碍にすれば――」

「はわわわッ!?」と、胸倉を掴まれたディアは悲鳴を上げた。

「いえ、あの!ユースレス様が悪いんじゃなくて!、わたしはもうここにいられないのッ!」

「……は?」

ユースレスは言葉を失う。

「せ、聖女じゃ……ない?」

なら、あの癒しの力は?その手の印は?本当の聖女には違いないはずなのに、今更なにを言い出すんだ?

しかも、この女は自分がもうすぐ処刑されるというのに、いつも通りヘラヘラして、いつも通り頭の悪そうな喋り方で――

ふと、もうひとつの異変に気付いた。

処刑台に屋根などない。天幕のある王族の席以外は、どこもかしこも雨で濡れている。ディアの服を掴んでいた手を離し、まじまじと見つめた。乾いた手のひら。

……なんで、全然雨に濡れてないんだ……?

聖女じゃない。しかし、癒しの力が使えて、印がある。……いや、

「おまえは……一体……」

ユースレスの驚きが冷めぬ間に。

「う~ん、バレちゃって残念……せめて、ちゃんと残していくね!」

偽物聖女ディアは、白い歯を見せて微笑んだ。



「――愛しい『人の子』たちに、女神ディアマンティアナより最後の祝福を!」


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