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第5章

10 決着

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 ゾルド教は、帝国から入ってきた宗教の一つであったが、彼らの教えは単純でかつたちの悪いものだった。

 彼らは、自分の望みを叶えるために神に祈る。
 その事に異を唱えるつもりはないが、多くの貢物を寄進した教徒の望みを叶えるため、手段を択ばないのは問題だ。

 自分たちの都合の良いように物事を解釈し、自分たちの敵になるものを排除しようとする。

 おまけに数十年前に教祖になった男は、妙な薬を使って人の意思を奪ってしまうような男だった。
 この使徒と呼ばれる狂信的な信者は、教祖の望みを叶える為だけに行動する。

 自分がまだ弟と呼ばれていた頃、教祖の力を借り、先王の第一后妃が自分の息子を皇太子にするため、既に皇太子であったタリム王子を毒殺しようとした事件があった。

 その時、皇太子の代わりに毒を飲んだ兄が犠牲になった。

 ウルフレッドの目の前にいるのは、ゾルド教で使用されている毒を作り出した本人だ。

 ゾルド教の教祖の前に立ち、二十五年前、一度だけ近づいた事のある男に向って話す。

「僕はね、怒っているんだよ。あの時、君を殺すことができたはずなのに、そうしなかった自分にね」

「あの中から、私を探すことなど出来なかっただろう?」
「そうだね。だがあの中にはいただろう? 全てを灰にしてしまえば、君を葬ることが出来たさ」

 数百人の町の中に逃げ込んだ男を、結局、逃がすことになったのは自分の弱さの象徴のようなものだ。

「だが、出来なかっただろう? 結局、お前はその程度の人間さ」
「そうだね、私には出来なかった。そのために、今、自分の娘を危険な目に合わせている」

「私なら助ける事が出来るぞ」

 嬉しそうに目の前の男が話す。

 そう、だから彼はここにいるのだろう。
 何十年も探し続けて、何人もの影武者を捕らえることは出来ても、決して本人を捕らえることは出来なかった。

「そうかも知れないね。だが、私は父親である前に領主でなくてはならないからね。私に選択の余地はないよ」

「娘を見捨てるつもりか」
「彼女は、領主の娘がどう言うものかよく分かっているよ。それに、僕が自分勝手な選択をして、娘に軽蔑されたくは無いね」

「ではなぜここに来た」
「出来なかった事をするためかな」

「そんなはずは無い。お前は、、、」
「だから言っただろう? 僕はとっても怒っているんだ、あの時、決断する事が出来なかった自分にね」

 そう言って剣を抜き、目の前の男の腹を刺す。
 そのまま魔力を込めて、剣を刺した相手が緋色の炎に包まれるのを確認しながら、相手に告げる。

「感謝して欲しいね。彼ではなく、僕がここに来た事に。聞こえていないかもしれないけど、僕の方がずっと感情を制御できるし、大人だからね」

 そのまま目の前の炎の中に自分の魔道具を投げ入れて燃やしてしまう。
 自分の感情に従って人を殺めた魔道具をこのまま使い続ける気にならない。

 ゾルド教の使徒が使っていた建物内に、火炎の魔石を仕掛けていたオルグが戻って来る。

「建物の中は確認しました。あと二分もしたら跡形もなくなります」

「毒や解毒薬はあったか?」
「毒はここに」

 手の中にあった小瓶を炎の中に投げ入れる。

「解毒や作り方は無いですね、調べていた間に毒を作れたのも、彼だけのようですしね」

「先に行かせた使徒が持ち出した可能性は?」
「何人かつかせていますが、他人を信用するような男でもありませんでしたから」

「師匠、そろそろ外に」

 エリスに声を掛けられて、外に出ると同時に建物のあちこちから火炎が上がる。

 街の中心から多少離れているとはいえ、これだけ火炎を燃やして大丈夫かと思うが、炎が広がらないようセルトが周辺に霧を張っているのを感じる。

 エリスはともかくセルトまで王都に来ているとは。
 相変わらず自分の部下達は、リディアに甘い。

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