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第3章

17 収穫祭

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 人々が街の広場に集まってくる。
 トレポレの街とは比べものにならないが、中央には焚火が用意され、周りには沢山の食べ物が準備されている。

 サイラス様はマリと一緒にセレスティナにトルテの作り方を教え、イグルス様は街の住民と焚火の準備に余念がない。

「これは楽しそうだ」
「ふふっ、楽しんで下さいね。ザイード様達が手伝って下さったので、今年の収穫はとっても助かりました。
 明日からは、イリノアの街でもお祭りが開かれます。
 祭が始まって、夜はこうして焚火に火が付き人々が集まりますわ、焚火に火がつかなくなると、ウエストリアに冬がやってくるのです」

 ザイード様と話をしていると、ジャルドが街に入ってきて欲しくない人達がいると教えてくれる。
 そのせいなのかザイード様がいつもよりずっと側にいて、商人達の店を一緒に見て回っては見かけぬ商品の説明を聞いている。

 そのまま歩いていると、サイラス様がトルテをセレスティナに食べさせようとしているのが目に入る。

「ザイード様、以前獣人の方にとって、食事は求婚の意味があると言われていましたが、、、」
「サイラスに止めさせます」

 ザイード様に渡された食事を安易に食べてはいけないと言われているし、サイラス様の様子をみれば、それがどういう意味なのか想像できる。

「これはサイラスが、あなたに結婚して欲しいと申しんいるのと同じ意味がある」

 ザイード様がサイラス様の行動の意味を教えると、セレスティナも驚いて逃げ出してしまう。

 側に戻って来た人が、私が話して欲しいと思っているのを察したのか、トルテについて教えてくれる。

「食事の中で、トルテは獣人にとって特別なのです」

「どんなふうに特別なのですか?」
「自分が作った物を食べて貰える事は、自分を受け入れてくれたのと同じ意味を待ちます」
「それだけで、ですか?」

「我々は匂いに敏感なので、嫌いな物、苦手な物、危険な物が入っていればすぐに気がつきます。自分が作った物を手ずから食べて貰える事は、とても大切なことなので」

「では、先程サイラス様のトルテをセレスティナが食べていたら、セレスティナはサイラス様の番になるのですか?」
「いいえ、番になる事を考えても良いと返事をした事になりますが、そうなると我々は少したがが外れるので。」
たがが外れる?」

「そうですね、婚約しているのと同じような関係になると思って頂けると、、、、」
「確かに食事で、婚約している事になるとは思いませんでした」

 驚いていると、ザイード様がまた困った顔で先を続ける。

「それに、我々は番を奪われたくないので、相手に自分の“あと”を残したくなるので」

 意味が解らずしばらく考えて、先日も同じような間違いをトレポレの街でした事を思い出して真っ赤になる。

 本当に嫌になるわ、私は彼にこんな姿を見せてばかりいる。


 しばらくすると、ジャルドが、祭りの中心から離れて街門の方に行くように示す。
 最近は無かったのに、、、と溜息がもれる。

 父のゾルド教嫌いは筋金入りだ。

 先王イズル王の治世、その第一后妃がゾルド教の力を使って、自分の息子を皇太子にするため、タリム皇太子に毒を盛ろうとした事件があった。

 その時、皇太子の代わりに毒を飲んだのが、父の兄であり、フレリア様の夫であった人だ。
 強い魔力を持ち、本来であれば毒で亡くなるとは考えられない人であったが、ゾルド教の教祖が作った妙な毒は、結局、彼の命を奪うことになった。

 その時から、父は表でも裏でも、ゾルド教を排除することに躊躇がない。

 その彼らが、父の考えを変えるため、リディアに興味を持つのは必然の様なもので、幼い彼女にどうにかして近づこうとし、それが難しいとなると強引な手段を取る事さえあった。

 リディアが森で育てられたのは、ゾルド教の使途が決して森に入ることが出来なかったからだ。
 
 わずわしいと思っても、こうして手を出して来る事のであれば、こちらからチャンスを与えた方が良い、危険はあっても、ジャルドの事は良く分かっているし、その方が他人を巻き込む事も無い。

 アルフレッドに殿下の事を頼んだ後、近くにいたザイード様にも少し離れる事を告げる。

 街の人々とも離れ、街門に行くように歩いていると、左手の方からいきなり人が飛び出して来る。

 思ったより近く、驚いた瞬間、襲って来た人が横に飛ばされ、前に立った人が蹴り飛ばされる。
 何が起こったのか考える前に、自分は誰かの腕の中にいた。

 少し離れた所でジャルドが残りの人の意識を奪うのが見えたので、自分を守ってくれた人は誰なのかと見上げると、見慣れた銀髪が目に入り、菫色の瞳が見下ろしている。

「ザイード様、どうして?」
「すみません、彼を信用していない訳では無いのですが、、、」と申し訳なさそうに答える。

「いいえ、ありがとうございます。私の方こそごめんなさい、せっかく楽しんでいらしたのに」
「これは我々にとっては当たり前の事なので」

 こうして危険から人を守ることが?

 確かに今までも年配の人や子ども達を守るような仕草は見受けられた、あの子ども達と同じ様に扱われているのだろうか?

 自分がまだ彼の腕の中にいる事も思い出し、「あの」と少し離れようとするが、びくともしない。

 なんだか気恥ずかしく顔が熱くドキドキし始めると、彼の方がすっと離れるが、視線は自分に向けられている。

 自分は彼にとって特別な相手になっているのだろうか? 
 ザイード様がウエストリアに来てからは、そんな風に感じる時もあれば、全く気のせいのように思う時もある。

 私は一体どちらであって欲しいのだろう。
 こうして彼が離れて行くのをさみしいと感じるのは何故なのだろう。
  
 考えのまとまらないまま、街の中央広場に戻ると、

「リディア様、“ニコ”を弾いて下さい」と焚火の方に連れて行かれる。

 今は収穫祭なのだから、考えるのは後にしよう。
 自分でもよく分からない事を考えてみても仕方ない。
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