上 下
52 / 58
第4章

13 ミリオネア(13) -アレスside

しおりを挟む
「全く、夜の海に飛び込むなんて何を考えてるんだ」
「ちょっと間違えたんだ」

 カリーナが海に突き落とされた時、何も考えずに自分も海に飛び込んでいた。
 それがどれだけ無謀な事かという事も、何の意味も無い事だという事も、冷静になればちゃんと分かっている。

 おかげで何も出来ずみっともなく海から引き上げられ、部屋に戻って着替えているのだから、言い返す言葉も見当たらない。

 カリーナと自分が海の中に落ちて、一瞬船上が大騒ぎになったようだが、結局、ヒューイがその場を収めてくれたらしい。

『大丈夫だよ、ここは僕たちの領域だからね』

 そう言って周囲と何か話していたかと思うと、海の中からフワフワと何かに運ばれた二人が現れたのだから船に残った者達が驚いたのは言うまでも無く、これで後日、ヒューイが何者か説明を求められる事になるだろう。

 当の本人は、気が付いているのか気にしていないのか、着替えが終わったアレスに文句を言い続けている。

「もう僕達の海域だと分かっているだろう? カリーナだけならともかく、キミを海の中から連れ出すのは大変だったと精霊達がブツブツ言っているよ」
「すまん」

「それでカリーナを突き落とした娘はどうするのさ」
「ミリオネアに着いたら他の船に頼んで、ロートアまで連れ帰って貰う」

「ミリオネアに残しても精霊達が見ているから大丈夫だと思うけど」
「カリーナの近くにいて欲しく無い」

「過保護だなぁ~」
「当たり前だろう。今回の様な事があったらどうするんだ!」

「そうかな、僕はカリーナに嫌な思いをさせたく無いだけに見えるけど」
「それは、、、仕方ないだろう」

「今回の事にカリーナは関係ないだろう? あの子が現実をしっかり見る事が出来なかっただけの話だよ」
「知っている」

「カリーナが罪悪感を持つ必要など無い」
「もちろんだ」

「カリーナだってその位分かっているさ」
「、、、それも分かっている」

「アレス、本当に分かっているのかい? 彼女はいつ迄も小さな女の子では無いよ」
「ヒューイ」

「それにキミ、ちょっと飲み過ぎだよ」
「問題ない」

 眠れない日が続いているのだから仕方がない。

「キミらしく無いなぁ、ちゃんと現実を見ていないのはあの子だけでも無いのかな?」

 そんな事は無い。
 ここ数日、現実を見ているからこんな気分になっている。

 彼女は若くこれからどんどん綺麗になって行くのに、自分は反対に歳を取っていくだけなのだ。

 相応しい相手が居ないならともかく、そうで無いのならこんな事を考えている方が間違っている事には気が付いている。



 甘い匂いがする。
 ずっと欲しかったものだ。

 柔らかく温かいものを腕に抱いて、ずっと欲しかったものを味わう。
 唇を重ね、隙間から舌を差し入れ、身体を押さえつけ、もっと深く繋がりたいと言うように自身を押し付ける。

「アレス様?」

 声が聞こえる? 誰の? っと思った時、自分が何をしていたのか気が付く。

 一体何をしているんだ?
 礼を言いに来たカリーナを無理矢理押さえつけて、自分は一体何をしているんだ!

「あの、、、」

 怯えたようなカリーナの声が聞こえる。

「出て行ってくれ」

 カリーナを危険にさらしただけで無く傷つけるなんて、許される事では無い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

(完結)親友の未亡人がそれほど大事ですか?

青空一夏
恋愛
「お願いだよ。リーズ。わたしはあなただけを愛すると誓う。これほど君を愛しているのはわたしだけだ」  婚約者がいる私に何度も言い寄ってきたジャンはルース伯爵家の4男だ。 私には家族ぐるみでお付き合いしている婚約者エルガー・バロワ様がいる。彼はバロワ侯爵家の三男だ。私の両親はエルガー様をとても気に入っていた。優秀で冷静沈着、理想的なお婿さんになってくれるはずだった。  けれどエルガー様が女性と抱き合っているところを目撃して以来、私はジャンと仲良くなっていき婚約解消を両親にお願いしたのだった。その後、ジャンと結婚したが彼は・・・・・・ ※この世界では女性は爵位が継げない。跡継ぎ娘と結婚しても婿となっただけでは当主にはなれない。婿養子になって始めて当主の立場と爵位継承権や財産相続権が与えられる。西洋の史実には全く基づいておりません。独自の異世界のお話しです。 ※現代的言葉遣いあり。現代的機器や商品など出てくる可能性あり。

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

言葉にしなくても愛情は伝わる

ハチ助
恋愛
二週間前に婚約者のウィルフレッドより「王女殿下の誕生パーティーでのエスコートは出来なくなった」と謝罪と共に同伴の断りを受けた子爵令嬢のセシリアは、妊娠中の義姉に代わって兄サミュエルと共にその夜会に参加していた。すると自分よりも年下らしき令嬢をエスコートする婚約者のウィルフレッドの姿を見つける。だが何故かエスコートをされている令嬢フランチェスカの方が先に気付き、セシリアに声を掛けてきた。王女と同じく本日デビュタントである彼女は、従兄でもあるウィルフレッドにエスコートを頼んだそうだ。だがその際、かなりウィルフレッドから褒めちぎるような言葉を貰ったらしい。その事から、自分はウィルフレッドより好意を抱かれていると、やんわりと主張して来たフランチェスカの対応にセシリアが困り始めていると……。 ※全6話(一話6000文字以内)の短いお話です。

処理中です...