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第4章

02 ミリオネア(2) -エマside

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 カリーナ様の侍女は、楽しい仕事だった。

 始めは公爵家の令嬢を聞いて緊張していたが、決して無理を言わず、ほとんど他人の手を煩わせない彼女の身の回りを整えるのは、逆にエマの意欲を刺激した。

 彼女の髪を整え、ドレスを選び、華美にならない程度の宝飾品を身に付けさせる。

 ノアの主人が手配したそれらの品々は、いかにもカリーナ様の為に用意されたもので、彼女がとても美しい女性だと周囲に気付かせる事にもなった。

『他の男性の目を惹いて欲しくないアン様には申し訳ないけれど、これでは仕方がないわ』

 それにしても不思議だった。
 アン様ほどでは無いが、エマもノアに仕えて八年になる。
 その間、主人が女性と気楽な付き合いをしていたのは知っているし、その後、それらの関係を断った事も、レオーナ様との話も聞いている。

 何事も器用にこなし、どんな時でも理性的で相手の事が良く見えているはずの主人の様子が、何時もと違っている。

 カリーナ様を特別に思っているのは明らかなのに、本人は妹として接する事に必死になっていて、相手の事が全く見えていない。

『これではアン様が心配になる気持ちも分かるわね』

 とは言え他の男性がライバルになるかと言えば、それも難しい様に見える。

 ファリス様は、奥手で気持ちをそれほど表に出すことが出来ていないし、ミュールから来たダナー様は、逆に言葉に出し過ぎて、気持ちがそれほど伝わっていない。

 おまけにカリーナ様本人も、まだ幼く男性からの好意に全く気が付いていない。

 彼女のそうした所も可愛らしく、その身の回りを整える仕事は楽しいものだったが、アン様に頼まれたもう一つの仕事は、そう簡単にはいきそうに無い。

 ラナと言う少女を育てるのは、骨が折れる仕事になりそうだった。

『はい』
『分かりました』

 彼女の返事は基本、この二つしかない。

 困っているなら助けるし、分からない事があればいくらでも教える。
 しかし分かっていると言われれば、任せてみるしか無いのだが、これが全く出来ていない。

 おまけにいつ迄もカリーナ様に向かって、友人の様に話しかける。

 使用人として一緒に働いていたと聞くし、確かに歳の違い主人に仕えるとその辺りを間違える者もいるが、この娘は敢えてそうしている様に見えてどうも好きになれない。

 ついつい口調も厳しくなってしまうが、それさえも気づかないのか、同じ返事が返ってくる。

『アン様には申し訳ないけれど、これでは侍女になど、とてもなれないわ』

 それでも頼まれた仕事なのだからこの旅の間にやれるだけはやってみよう。
 少し厳しくなるかも知れないが、それでこの娘が変わる事が出来れば、後々この娘の為にもなる。

 それにアン様に頼まれた仕事を、途中で諦めてしまう方がエマにとって問題なのだから、頑張ってみるしかない。
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