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第七章 アッタリア戦
04 戦いの前(2)
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一年ぶりに帰って来たウエストリアは、以前と全く変わりない様にみえた。
人々は陽気に働いているし、街にも活気がある。
三か月前、アッタリアで見聞きした事が伝わっていないのか? と不安さえ感じる。
「ダリウス様、街の方に向かいますか?」
荷馬車の隣に座っているニトが行き先を求める。
「いや、このままあいつの所に行こう。風呂と旨い飯が食いたい」
そのまま荷馬車を曳いてウルフレッドの屋敷に行くと、顔見知りの使用人たちに迎えられた。
風呂に入ってさっぱりし、相変わらず絶品の料理を食べていると屋敷の主が戻って来る。
「ダリウス、やっと戻って来たのかい?」
こちらも相変わらず変わりない。
「結構、急いだつもりなんだけどな」
「ハハッ、ごめん、ごめん。で、頼んでおいた物は手に入ったかい?」
「商人だからな、依頼があれば手に入れるさ、だがあれは油としては二級品だ、燃えるのが早すぎて灯りとして使えない」
「だが、水には混ざりやすいだろう?」
「まぁ、オラの実から出る残り粕だからな。いつも捨てていた物をこちらが買い取る話をしたら、あっという間に集まったよ」
「うん、助かるよ」
そう言うとニコニコ笑っている。
アッタリアに商売の為に赴いた時、 “サウロ”や“ドハ”の部族が武具を集めていると耳にした。
“サウロ”や“ドハ”は、今までにもウエストリアを手に入れようと兵を送っていた部族なので、嫌な予感がしてその事をウルフレッドには知らせておいた。
集められた武具の量を考えても結構な数になる、おまけに何時もなら手を結ばない部族が揃うとなると、兵士の数も相当になるという事だった。
ウルフレッドにその事を知らせ、アッタリアから“トラン王国”を経由して、やっとエルメニアに戻った港で、彼からの手紙を持った使者に迎えられた。
『オラの実から取れる油を樽十個分。一か月以内にウエストリアに持って来てくれ』
「これは?」
「ウルフレッド様からです」
「だろうな。こんな手紙を書くのはあいつくらいだ。回復薬や黒曜石が必要と言うならともかく、なぜオラの油なんだ?」
「私は存じ上げません。
私は、『ロートアの港に着いた商人ダリウスに、この手紙を必ず渡すように』と言われただけですので」
その使者が答える。
始めて会った時からあいつは全く変わらない。
自分がロートアの港に着くことも、こうして疑問を持つ事も知っていて理由を書いていないに違いないが、必要のない事をする男でもない。
「『承知した』と伝えてくれ」
「ありがとうございます」
使者にそう答えると、彼は契約や約束を求める事もなく、礼をして去っていく。
頼まれた物を揃え、ついでに戦に必要な物を手に入れて戻ってきても、彼は変わらず答えをくれそうにない。
「で、オラの油を何に使うつもりなんだ」
「もちろん、戦につかうのさ」
仕方ないので気になっている事を聞くが、笑って答えを教えないこの男は、本当に腹立たしい。
「しばらくはこっちにいて欲しいけど、どうかな?」
「俺は戦に向いてないぞ」
「知っているよ。食料をね、運んでほしくてさ」
「ウエストリアが不作だったとは聞いていないが、、、」
「人が集まれば必要になるさ、外から来る人間が、わざわざ食糧を持ってくるとは思えないからね」
「王都の貴族に援軍でも頼むのか?」
「頼まなくてもやって来るさ、あんまり来て欲しくないのだけど、こればかりは仕方がないね」
「で、食糧か」
「そうだね、その位はこちらでも用意できるからね」
「王都から来た貴族の分までお前が用意するのか?」
「まさか、そこはダリウスにお願いしたいと思っているよ」
「おれは商人だぞ。戦に来た貴族を相手にしても商売にならないだろう」
「硬貨は持っていなくても、魔具を持って来ているから大丈夫だよ」
「戦に行く軍から、魔具を奪うのか?」
「問題ないよ、手当たり次第、手に入れた魔具なんてどうせ役に立たない」
「魔具か、あれは値が面倒だな」
「僕が引き取ってもいいけど、今なら王都の魔具が品薄になっているだろう? 心配しなくても高く売れるさ」
「なるほどな」
彼にそう言われると、納得できる。
「で、俺はどうすればいい」
「戦が近くなったら領民には街の出入りを禁止する。街の外で何かあってもこちらに対応する余裕は無いからね。
だが、君たちは領民では無いし、領内に入って来た彼らを相手に商売して貰ってかまわないよ」
「俺たちは街の外にいて、他から来た奴らの相手をしろって事か」
「君達なら自分達の身の回りくらい、自分で守る事が出来るだろう?」
確かに一人の貴族が連れて来る兵は、歩兵を合わせれば百人以上になるだろう。
その兵たちの食糧は大量になる。
ここ数年エルメニアは、豊作が続いているから仕入れに問題もないし、直接買い手に売った方が、こちらの利益にもなるだろう。
なぜか釈然としないのは、目の前で笑っている男の思惑に乗せられている気がするからだが、利益が出るなら文句を言うのも可笑しな話だ。
「わかった、王都に向かっている連中も集めてしっかり商売させて貰うさ」
「ここにいる間は、自由に屋敷を使ってくれ。マルタにも伝えておくよ」
そう言ってこちらを向くと、
「ありがとう、ダリウス」
そう言い残して忙しそうに去っていく。
あいつの人たらしも相変わらずだ。
おまけに胃袋まで掴まれているのだから、どんなに面倒の事を頼まれても嫌と言えないのだから仕方がない。
人々は陽気に働いているし、街にも活気がある。
三か月前、アッタリアで見聞きした事が伝わっていないのか? と不安さえ感じる。
「ダリウス様、街の方に向かいますか?」
荷馬車の隣に座っているニトが行き先を求める。
「いや、このままあいつの所に行こう。風呂と旨い飯が食いたい」
そのまま荷馬車を曳いてウルフレッドの屋敷に行くと、顔見知りの使用人たちに迎えられた。
風呂に入ってさっぱりし、相変わらず絶品の料理を食べていると屋敷の主が戻って来る。
「ダリウス、やっと戻って来たのかい?」
こちらも相変わらず変わりない。
「結構、急いだつもりなんだけどな」
「ハハッ、ごめん、ごめん。で、頼んでおいた物は手に入ったかい?」
「商人だからな、依頼があれば手に入れるさ、だがあれは油としては二級品だ、燃えるのが早すぎて灯りとして使えない」
「だが、水には混ざりやすいだろう?」
「まぁ、オラの実から出る残り粕だからな。いつも捨てていた物をこちらが買い取る話をしたら、あっという間に集まったよ」
「うん、助かるよ」
そう言うとニコニコ笑っている。
アッタリアに商売の為に赴いた時、 “サウロ”や“ドハ”の部族が武具を集めていると耳にした。
“サウロ”や“ドハ”は、今までにもウエストリアを手に入れようと兵を送っていた部族なので、嫌な予感がしてその事をウルフレッドには知らせておいた。
集められた武具の量を考えても結構な数になる、おまけに何時もなら手を結ばない部族が揃うとなると、兵士の数も相当になるという事だった。
ウルフレッドにその事を知らせ、アッタリアから“トラン王国”を経由して、やっとエルメニアに戻った港で、彼からの手紙を持った使者に迎えられた。
『オラの実から取れる油を樽十個分。一か月以内にウエストリアに持って来てくれ』
「これは?」
「ウルフレッド様からです」
「だろうな。こんな手紙を書くのはあいつくらいだ。回復薬や黒曜石が必要と言うならともかく、なぜオラの油なんだ?」
「私は存じ上げません。
私は、『ロートアの港に着いた商人ダリウスに、この手紙を必ず渡すように』と言われただけですので」
その使者が答える。
始めて会った時からあいつは全く変わらない。
自分がロートアの港に着くことも、こうして疑問を持つ事も知っていて理由を書いていないに違いないが、必要のない事をする男でもない。
「『承知した』と伝えてくれ」
「ありがとうございます」
使者にそう答えると、彼は契約や約束を求める事もなく、礼をして去っていく。
頼まれた物を揃え、ついでに戦に必要な物を手に入れて戻ってきても、彼は変わらず答えをくれそうにない。
「で、オラの油を何に使うつもりなんだ」
「もちろん、戦につかうのさ」
仕方ないので気になっている事を聞くが、笑って答えを教えないこの男は、本当に腹立たしい。
「しばらくはこっちにいて欲しいけど、どうかな?」
「俺は戦に向いてないぞ」
「知っているよ。食料をね、運んでほしくてさ」
「ウエストリアが不作だったとは聞いていないが、、、」
「人が集まれば必要になるさ、外から来る人間が、わざわざ食糧を持ってくるとは思えないからね」
「王都の貴族に援軍でも頼むのか?」
「頼まなくてもやって来るさ、あんまり来て欲しくないのだけど、こればかりは仕方がないね」
「で、食糧か」
「そうだね、その位はこちらでも用意できるからね」
「王都から来た貴族の分までお前が用意するのか?」
「まさか、そこはダリウスにお願いしたいと思っているよ」
「おれは商人だぞ。戦に来た貴族を相手にしても商売にならないだろう」
「硬貨は持っていなくても、魔具を持って来ているから大丈夫だよ」
「戦に行く軍から、魔具を奪うのか?」
「問題ないよ、手当たり次第、手に入れた魔具なんてどうせ役に立たない」
「魔具か、あれは値が面倒だな」
「僕が引き取ってもいいけど、今なら王都の魔具が品薄になっているだろう? 心配しなくても高く売れるさ」
「なるほどな」
彼にそう言われると、納得できる。
「で、俺はどうすればいい」
「戦が近くなったら領民には街の出入りを禁止する。街の外で何かあってもこちらに対応する余裕は無いからね。
だが、君たちは領民では無いし、領内に入って来た彼らを相手に商売して貰ってかまわないよ」
「俺たちは街の外にいて、他から来た奴らの相手をしろって事か」
「君達なら自分達の身の回りくらい、自分で守る事が出来るだろう?」
確かに一人の貴族が連れて来る兵は、歩兵を合わせれば百人以上になるだろう。
その兵たちの食糧は大量になる。
ここ数年エルメニアは、豊作が続いているから仕入れに問題もないし、直接買い手に売った方が、こちらの利益にもなるだろう。
なぜか釈然としないのは、目の前で笑っている男の思惑に乗せられている気がするからだが、利益が出るなら文句を言うのも可笑しな話だ。
「わかった、王都に向かっている連中も集めてしっかり商売させて貰うさ」
「ここにいる間は、自由に屋敷を使ってくれ。マルタにも伝えておくよ」
そう言ってこちらを向くと、
「ありがとう、ダリウス」
そう言い残して忙しそうに去っていく。
あいつの人たらしも相変わらずだ。
おまけに胃袋まで掴まれているのだから、どんなに面倒の事を頼まれても嫌と言えないのだから仕方がない。
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