上 下
42 / 74
第四章 ミリオネア

07 ヒューイ(1)

しおりを挟む
「船の“精霊使い”がいるな」
「何もしないでよ」

「何かあっても、これ以上状況が悪くなることはないぞ」
「エルメニアに、帰る必要があるんだからね」

「嫌な奴ならサッサと帰って欲しいだろう?」
「単に嫌がらせをする人もいるさ」


***


「困っていない?」
 
 “そう!”
 “全然~”

「どうして?」

 “子ども達が助けているから”
 “楽しいよ!”
 “みんな喜んでる”

 周囲の精霊が我先にと答える。

 ミリオネアで精霊の力が使えないという事は、火や水など本当に基本的なものが使えないので、生活する上で大変なはずだった。

 それを夜は、灯りが無いならと暗くなればサッサと眠り、水が無くて水浴びが出来ないなら、外で子ども達と一緒になって水浴びをしていると言う。

 それを面倒だとも思わず楽しんでいるようだと言われてしまうと、一体自分は何をしているのかと思えてしまう。

 おまけにその様子を見て精霊達まで楽しくなっている様で、今では彼の周囲に沢山の精霊が集まっている。
 ヒューイの言葉より、彼の願いを叶えたいと思っている精霊もいるようで、片時も離れず彼の様子を伺っている。

「なぜ彼の側に集まる」

 “彼が楽しんでいるから!”
 “面白い!”

 こちらの世界にいる時は、本来見えない者達がヒューイには見えるので、瞳を開いているより閉じている方が都合がいい。

 精霊達はヒューイの視界に入ろうと常に集まってくるので、こうして瞳を閉じていれば気配を感じ、声が聞こえてもそれほど鬱陶しいとは感じない。

 その分、近づいてくる人に気が付かない場合もあるけれど、、、


「おい、誰と話をしてる」

 彼がヒューイに近づきながら話しかけてくる。

「何の事です」
「話をしていただろ?」
「気のせいですよ」
「ふ~ん」

「貴方は、いつまでイビサにいるんですか?」
「気になるのか?」
「別に、、、」
「あと十日はここにいる事になるな」

「他の島に行かないのですか?」
「行って欲しいのか?」
「そうではありませんが、、、毎日、意味もなくぶらぶらするばかりで、退屈しているようだったから」
「へぇ」

 彼がヒューイを見て、とても楽しそうに笑う。

「なんです」
「誰に聞いた」
「何の話です」

「俺が、毎日ぶらぶらしてるって事をさ」
「見ていれば分かりますよ」

「だがお前は、俺達が船を下りてから島にいなかっただろ?」
「、、、いましたよ」
「いや、いなかったさ」
「何を根拠に、、、」

「一度会った事がある人間なら、オルがこの島のどこにいたって探せないはずが無い」
「それは、、、」

 確かに黒い瞳を持つオルと呼ばれている人は、“地の力“に長けているはずだった。

「俺が何をしていたか分かるほどお前が近くにいて、オルが分からない訳が無いだろう」
「周りの人達から聞いたんですよ」

「それも違うな。この国の人達は、他人の行動など気にしない」
「、、、貴方は本当に嫌な人だな」

「何を言う、お前も結構、意地が悪いだろう」
「僕がどうして」

「俺は、精霊達に嫌われているみたいなんだ」
「そうなんですか」

「お前、精霊達に何かしただろう」
「突然、何を、、、」

「"精霊使い"にそんな事が出来るとは思わなかったが、船で関わったのはお前だけだし、お前が何かしたとしか考えられん」
「"精霊使い"は、精霊に何か命じる事など出来ませんよ」

「つまり"精霊使い"は無理でも、"お前"は出来るんだ」
「勝手に決めないで下さい」

 これ以上話すと、段々話せない事まで聞かれそうなので席を立って彼から離れる。
 
 自分の瞳の事や、精霊の事など、数えるくらいしか会っていない人に、これほど的確に問い詰められるとは思っていなかった。

 島に着いてから三週間。
 会いたくないとこの島から離れていた方法まで聞かれては、こちらの世界に遊びに来ることまで出来なくなってしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...