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人間×人間 軍人×騎士 ④
しおりを挟む部屋の中には、ソファの上で見つめ合う2人が居た。
「俺、は…言ってなかった?」
「直接的には言ってなかったよ。俺も、とか勿論、とかなら聞いたけど」
「そっか…ごめん」
何に謝っているのか分からず、頭を傾げた。
別に言って欲しいわけじゃ無かったし、気にしなくてもいいのに。
「なぁ、フィ。そんな事どうでもいいだろう?何をそんなに考え込んでるんだよ?」
「…今更、遅いって、わかってる。イズミ…な、イズミ。俺はイズミを愛してる。だから結婚を申し込んだし、ずっと傍に居たいから誓ったんだ」
「うん?うん」
「俺の、所為だって、分かってる」
眉を下げ、悲しそうな顔のフィに、俺がしてやれる事は何だろうか。
「でも…気持ちを消さないで欲しかった。一言、言って欲しかった」
「フィ、俺は…」
お前の為に、何が出来る?
「お願いだ、イズミ。魔結晶を吐き出してくれ。昨日の…昨日までのイズミに、戻ってくれ」
縋る声に、俺は選択を間違えたのだと、今更気付いた。
「むり、だ。魔結晶は、もう…ああ、いや、ひとつ分なら…でも…」
頭を振り、最善の選択を選び直す。
「イズミ…頼む…」
今にも泣き出してしまいそうな震えた声に、俺は頭をフル回転させる。
1つ目は既に溶けきり俺の1部になってしまっている。
2つ目はまだ…間に合う、けれど。
「なぁ、フィ」
「なんだ?」
「今から、元に戻す…戻せる所まで。でも、でもな」
深呼吸をひとつし、フィの目を見る。
「感情が、不安定なんだ。今みたいに、話せる余裕が無いかもしれない。怒ったり、泣いたり…何がどうなるか、分からないんだ」
魔結晶の効果を得た後には、押さえ込んだ全ての反動が表れる。
戦争の時は、戦争が終わるその時まで飲んでいた。
今まで飲んでいた反動で4人同時に倒れ込み、死ぬ、そう思った時、この世界に来た時以来に戦争が怖く残酷な物だと認識出来た。
俺達は感情を消し人格を創り出す為の手段として用いたが、この世界ではただの猛毒であり取扱には細心の注意が必要な代物だ。
そんな物を無理矢理身体から抜くと、消化するよりも強い反動に襲われる。
「俺が、俺で無くなる…かも、しれないんだ」
「…イズミ…」
「フィ。俺は…選択を、間違えたのか?」
「俺の所為だ。イズミの所為じゃない」
ドロリ、と魔結晶を抜く時の独特な感覚に、目を閉じる。
必要だったのは、何も望まない俺ではなく…フィと喜怒哀楽を共に出来る俺だ。
「ごめん、なさい…ごめっ」
流れる涙を止める術を今の俺は知らない。
「っ、あ、うぅっ」
唇を噛み締めてしまう怒りの落ち着け方なんて忘れた。
苦しい、痛い、寂しい。
「イズミ、イズミ」
泣かないで、フィ。
俺、ちゃんと元に戻れるように頑張るから。
気持ち悪い、触らないで、どこにも行かないで、ここに居て。
纏まらない思考に、溢れ出る感情、暴れようとする身体。
「イズミ。俺はここに居る」
好きな人、だったんだ。
俺にとって、特別で、この偏った感情を向けられる、大事な人だったはずなんだ。
歪んだ想いを持ってしまってから、無理矢理繋げた筈の、失いたくなくなった元敵。
初めて会った時、中途半端な奴だと思った。
数ヶ月経った時、優柔不断な奴だと思った。
帝国内では冷酷で残酷な奴に分類されるのだと、何時だったか言われた。
感情も人格も捨て去った俺等の目にはそんな奴には見えなくて、帝国の定義を疑った。
あの戦場には似つかわしくない、真っ当な奴だったと、終戦後に思った。
元の世界の生きていた時間軸に帰れなくなった俺等への誰かからの慈悲は、どんな世界にも行ける特殊能力だった。
別れを告げた仲間たちに会いに行った。
行った時もない様々な世界を見に行った。
その後に、この世界に戻ってきた。
それぞれの心に残った相手に会うため、後悔のない人生を歩むため。
手に入れたのは、幸福と贖罪。
…俺は、フィが好きで、フィと生きたくて、フィに全てを捧げようとしたのに…自分でその未来を踏み潰した、みたいだ。
「イズミ」
俺の好きな、声と、何か…。
ゲホリと息を強く吐き出し、出ない声で音を紡ぐ。
フィ、待っていて。
暗く落ちる意識の中、俺は確かに、フィへの感情を取り戻した。
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