ペットになった

アンさん

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クロの未練

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大食い大会の後、満腹も満腹なクロを連れ色々な露店を見て回った。


まぁ、食い物は食べさせられないから本当に見るだけだったけれど。


卵を使った料理に反応しては腹を撫でクンクンと鳴き、何度も振り返るクロに笑みが漏れる。


ここまで食べ物に興味を示すなど、元気な証だ。


「んーゆゆ、ゆるるぁ」


ある程度見終わった後比較的人気が少ない場所でクロを下ろすと、クロは俺に手を伸ばしたまま動かなくなった。


………?


甘えているのか?


……いや、身長的に?


クロの高さだと周りは人しか見えないだろうし景色が見たいのか……仕方ない、もう一度抱き上げるか。


屈みクロを抱き上げようと脇下に手を入れようとすると、クロが後ろへと引っ張られきゅ?と驚いたように鳴いた。


「待ちなさい!この腐れ外道が!」


クロを引っ張ったのは見知らぬ女。


「クロを離せ」


「こんな子供にヒトの真似をさせる奴に渡すわけないでしょ!可哀想に…怖かったね?」


クロは数度瞬き、俺と女を交互に見てまたきゅ?と鳴いた。


「もうヒトの真似はしなくていいんだよ、おチビちゃん」


そう言ってクロの頭を撫でようと手を伸ばし、その事にかクロは半歩下がった。


「触るな。クロは紛う事無きヒトだ」


「はぁ?アンタ本当に最低ね」


「ぎゅ、るぅあ」


近寄ってきた手を払い除け、クロは小さく唸る。


どうもクロは嘲笑や卑下される言葉によく反応しているように見えるが、実際クロにはどう聞こえているのだろう?


耳障りなとして認識しているのだろうか?


「クロ、おいで」


腹が膨れかなり眠いだろうクロは、普段よりも気性が荒くなりやすい傾向にある。


これだけ周りに人が居る状況で騒動を起こせば、間違いなく無関係者を巻き込んでしまう。


「行かせない」


「ぎゅあ?ぎ、ぎゅ、うぅぅうう」


俺の元に来ようとしては後ろに引っ張られ、クロは必死に前に進もうとして戻される事にイラつき始めている。


「クロを離せ。ヒトから自由と飼い主を奪えばどうなるか分かるだろう?」


「この子は人!アンタみたいな馬鹿が居るから、この世はダメになっていくのよ!」


「耳を見ればわかるだろう!言葉だって通じない。合図以外は理解できないペットだぞ」


「はぁぁあ、そうやってすぐこの子を見下す。あのね、いい?ヒトっていうのはあーいうのを言うの。どう見てもこの子は当てはまらないでしょ」


そう言って指を指した先にいたのは地面で肉に食らいつき、その姿に唸って奪おうとする典型的なヒト二体。


コイツは個体差というものを知らないのか?


「グルルルゥゥ、ガアアァァアア!!」


「ひっ」


「ギャルルアァ!ルルゥ、グルルル」


堪忍袋の緒が切れたクロが吠え、女はクロから手を離して距離をとった。


「クロ。ダメだ。おいで」


ガァガァと興奮するクロは俺の声が聞こえないのか女を睨めつけ動かない。


「クロ」


「ギャルルルァ、ガァァァアア!!」


ダンダンと足を踏み鳴らし、威嚇するクロはこちらを見ない。


「クロ」


少し声を張って呼び掛けると、やっとこちらを見て駆け寄ってきた。


「きゅううん」


抱きついたクロは甘えるようにマーキングを始め、小さく鳴いている。


クロの耳にかかる髪を退けてやり、女を見る。


「これでヒトだと理解出来たか?」


「なんっ、は??」


「確かに大人しく子供のように見えるが、クロはヒトだ。所有物のヒトを気安く触るな。この様な催しの場で騒動を起こせば、怪我をするのはお前だけじゃないんだぞ」


「口輪を付けていないじゃない!」


「義務ではないし、クロは食物以外には興味が無い。お前みたいに勝手な妄想でヒトから自由を奪えば暴徒と化すかもしれないがな」


「紛らわしい格好までさせて!」


「ヒトに服を与えて何が悪い。飼い主である俺の自由だ」


「耳だって見えてなかったわ!」


「見ればわかると言ったはずだ。耳が見える髪型ではないといけない法は無い」


「アンタさっきから自分勝手ね!周りを見てみなさいよ!非常識すぎるわ!私はね、ディエータなの!私が正しいのよ!」


そうか、階級を持ってくるか。


階級が高くなればなる程自己中心的になりやすいと言うが、あながち間違いでは無い。


実際俺だって自己中心的だと理解している。


だが、それらは全て許される範囲の物であり、此奴みたいに傍若無人に振り翳していいものでは無い。


「お前には言われたくない」


「逆らってんじゃないわよ!」


「ディエータのお前と比べられるなど、片腹痛くて吐きそうだ」


「負け犬の遠吠え程虚しいものはないわ!」


騒ぎを聞き付けたのか、それとも誰かが通報したのか、警備隊がやってきた。


「すみませんが、そこまででお願いします」


「邪魔しないでちょうだい!」


騒がしい女だ。


ディエータで、よくここまで騒げるな。


「申し訳ありませんが、身分証の提示をお願いします」


目の前に立つ警備隊の一人に提示を求められカードを渡すと、あ、と言葉を落とした警備隊は他の警備隊に俺の身分証を見せ二人して慌てだした。


「御協力ありがとうございます」


「何か被害はありましたか?」


「特に無い」


「あちらの女性は警備隊が身柄を確保致しますので、どうぞフェスを最後までお楽しみ下さい」


「ああ、ありがとう。失礼する」


クロを抱き上げ煩い女の声を無視して来た道を戻る。


最近何かと巻き込まれてばかりな気がする。


お祓いにでも行くか?


クロなら神社や寺に行っても粗相はしないだろうし。


「うーゆー」


未だ卵料理に未練があるらしいクロはめげずに腹を撫で鳴いている。


撫でても消化が早まる事はないと思うぞ。




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