ペットになった

アンさん

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クロとの予定

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一騒ぎあったが特に問題無く調書も終わり、他店を見て回ってから旅館に戻った。


クロ用の防寒具も揃ったし、クロの実技も素晴らしかったし、何よりクロの体調が良好で今は昼寝を再開し、夢の中で何かを食べているのかモゴモゴと口を動かし頬を弛めている。


…プリンでも食ってるんだろうな。


ホットドールを抱き締め、時折寝返りをうちながら寝ている光景を見るのは久々だ。


暫くその様子を見ていると不意に携帯が振動し、驚いて画面に目をやると母さんの文字が映っていた。


「はい」


『あ、リュルーシ?私だよ。元気にしてた?』


「ああ。何かあったのか?電話なんて珍しい」


『いやぁ、それがね。近々そっちで大きな祭りがあるじゃない?夏以外の祭りなんて行った時ないからさ、行きたくなっちゃって。でも、もうホテルはどこも満員で取れなくて困っててね…リュルーシ少し泊めてくれない?』


「祭りか…」


クロなら大量に屋台飯を食いそうだ。


りんご飴や綿菓子、カステラにチョコバナナ…きっと気に入るだろうな。


「泊めてやりたいんだが…」


『やっぱりダメ?』


「いや、あー…母さんは、ヒト大丈夫だったか?」


『ヒト?何よ急に』


「俺今ヒトを飼ってるから」


『え、うっそ。リュルーシが?ヒトを?はぁー、変わるもんだねぇ…ああ、私は全然平気だよ。何だったらヒトを飼いたいって言ってたのは私だし』


「そういえば…昔そんな話したな」


結局、俺と弟のライージュはどっちでもいいって言ったが、父さんが全面的に否定して飼わない事になったっけな。


母さんはその後ヒトを飼っているママ友の所に行っては楽しんでいたらしいけれど。


『どんな子なの?』


「名前はクロだ。まだ小さいニチ種で……」


色々と口頭でクロの事を教えていたが中々伝わらず、エミュウのアドレスを教えてそちらで確認してもらった。


『やーだ、知ってるわこの子。だって有名よ?飼い主も変わり者、なんて言われてるもの』


「は?」


『ヒトに蹴り技は教えないわよ、普通。柵無し飼育も保護個体の引き取りも、普通ならしないの。リュルーシは普通に収まれない子だから、私は納得しちゃったわ』


電話越しで笑う母さんは、でも、と話を続けた。


『時折動画にリュルーシの顔が見えるけれど、とても顔色がいいわ。今聞いてる声も落ち着いているし…本当に元気にしていてくれて、とっても安心した。クロちゃんのお陰かしら?』


「かもな」


『あらあら、素直なのはいい事ね。最近のライージュはまっっっっったく部屋から出てこないのよ?推しは推し通すべし、なーんて意味わからないこと言って…はぁ…』


俺とは違い型に嵌らず自由に生きていたが、今は引きこもっているのか。


「ライージュが何かに打ち込めているならいいじゃないか。昔から奔放気味で適当にいなして来たのに」


『それよ。打ち込み過ぎて逆に心配なの。でも、この一週間は何故か気落ちしてたわね。推し不足、とか言って』


「じゃぁ、ライージュも祭りに参加させるか?確かヒトも嫌いじゃなかっただろ?」


『あら、名案。聞いてみるわ。また連絡するわね』


「ああ。また」


暗くなった画面にふっ、と笑みが浮かぶ。


母さんは相変わらず思い立ったら吉日だな。


ライージュは何をしているのか不明だが、気晴らしでも出来れば少しはマシになるだろう。


「んー、ぷるー、ぷい、んゆぅ、ぷー」


寝言を発するクロに笑みを深め、母さんとライージュの2人と仲良くなれるといいなと思いながらクロの頭を撫ぜた。


多分父さんは一人留守番だろう。


ヒトが苦手、と言っていたし。





「りゅーる」


クロの呼ぶ声が聞こえ目を開けると、上向きに寝転がったクロと目が合った。


部屋の中が暗くなっている所を見るに、俺も寝落ちたようだ。


欠伸をしてからクロを撫で、電気をつけようと立ち上がる。


暗闇になっても見えなくはないが、クロは夜目が効かないからな。


転んで怪我でもしたら可哀想だ。


電気をつけると、すぐにクロは俺の元へとやってきた。


…そういえば。


クロは夜中はピクリとも動かないな。


元々ヒトは昼行性で夜は活動しないからクロもそうだと思っていたが…どうなのだろう?


クロを抱き上げて目線を合わせ目を見る。


怒ると開く瞳孔は、今は普段と変わらない程度だ。


暗闇から明るくなったすぐの今なら、普通開いていてもおかしくないのだが…眩む事無く歩いてきたし、ヒトは普段一体どういう風に景色が見えているのだろうか?


頭を傾げるクロを一旦下ろし、リモコンで電気を消す。


リモコンを持ってベッド淵へと座りクロを呼ぶが、クロは鳴く事も振り返る事も無く動かない。


電気をつけクロを呼ぶと、クロはすぐさま此方へとやってきた。


やはり暗闇だと夜行性の生き物から身を守る為に動かない様本能が働いているのかもしれないな。


夕飯の時間になり配膳の者が食事を持ってきてくれたので、クロを昨日と同じ席に座らせた。


「本日は魚を主としたお食事をご用意させて頂きました。ヒトの方は卵がお好きな様でしたので、魚卵も準備済みです。どうぞ、ごゆるりと」


「ああ、ありがとう」


「きゅあ、るーあ」


卵料理に目を輝かせたクロは、今日も腹が張るほど食べて満足気に腹を撫でていた。


…ちゃっかりデザートもオカワリして…本当、卵料理に目がないな。


ふぐふぐ鳴くクロを撫でながら、俺は少し度数の高い酒を肴と共に味わいゆっくりとした時間を過ごした。







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