上 下
69 / 72
第5章: 卒業への軌跡 - それぞれの道へ

話21:突然の連絡

しおりを挟む
椎名が心待ちにしていた翌日、突然の出来事が起こった。彼女の携帯電話に、奏からのメッセージが届いた。「会いたい」という短い文章が画面に浮かび上がった。

そのメッセージを見た瞬間、椎名の心は高鳴り、喜びに包まれた。彼女は何度もそのメッセージを読み返し、その意味を確かめるように感じた。奏からの連絡が来るなんて、彼女は思ってもみなかった。

椎名はただちに返信を準備し、奏との待ち合わせ場所や時間を確認するためにメッセージを打ち込んだ。彼女の指先は興奮と期待に震えながら、メッセージを送信した。

そして、待つこと数分。椎名の携帯電話が再び振動し、奏からの返信が届いた。彼女は手に取り、その内容を熱心に読み込んでいった。

奏と椎名が待ち合わせ場所で会った。奏は穏やかな笑顔を浮かべつつも、その表情には不安と疲労がにじんでいた。彼女は椎名に対して家庭の事情や自身の怪我の状況を詳細に語り始めた。

「椎名、実はね…家庭の事情で、この数ヶ月間は一人暮らしをしているんだ。親との関係が複雑で…」

奏の声は次第に小さくなり、その言葉からは苦しさや悲しみがにじみ出ていた。彼女はしばし沈黙し、次に口にした言葉はより深い悲しみを伴っていた。

「そして、この怪我のせいで…医者からは長期の療養が必要だって言われているの。けがの回復の見通しが立っていなくて…」

椎名は奏の言葉に心を痛めながらも、彼女の辛い状況を理解しようと努めた。彼女の心には、奏が抱える不安や苦しみが重くのしかかっているのを感じた。

「でも、私はこれからも頑張るつもりよ。ただ…少し時間が必要かもしれない。」

奏は少し弱々しい笑顔を浮かべながら、自身の状況を打ち明けた。彼女の言葉からは、今後の生活が不透明であることが伝わってきた。

椎名は奏に対して、「私はいつまでも待っているから」と伝えた。その言葉に奏は涙を流し、椎名に対して何かを伝えようと口を開いたが、言葉が詰まってしまう。

「ごめんね…」

奏の言葉に、椎名は戸惑いを覚えた。彼女は奏の真意が分からず、不安を募らせながらも、卒業式には奏が参加できることを伝えた。

「卒業式は来れるんだよね?」

奏は小さな声で「うん…」と答えるだけだった。椎名はその声から不安を感じ取った。

しばらくして1台の高級車がやってきた。奏はおびえたような目でその高級車を見つめ、立ち上がり椎名に伝える。

「ごめんね…」

奏は一言告げ、その場を後にするために車に乗り込んだ。椎名は奏の様子に戸惑いを隠せず、彼女の去り行く姿を見送った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話

フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談! 隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。 30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。 そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。 刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!? 子供ならば許してくれるとでも思ったのか。 「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」 大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。 余りに情けない親子の末路を描く実話。 ※一部、演出を含んでいます。

処理中です...