「桜の下の禁じられたメロディ」

第4章: 未来への一歩：友情と恋の境界線

話５：香奈の心の決断と新たな始まり

香奈は学校で奏が具合が悪く早退したことを聞いた。心配の念が一瞬で心を駆け巡るが、椎名が奏と一緒にいることを知り、少しその心配を和らげることができた。しかし、香奈の心の中には、もう一つの懸念が浮かんでいた。「奏の料理は残念ながら…そして冷蔵庫に食べ物があるのかどうか…」という疑念だ。

「きっと食べるものないな」と直感した香奈は、学校を早退し、スーパーに向かった。スーパーの中で、香奈は献立を慎重に考え始めた。病人の定番であるおかゆを作ることは決まっていたが、「おかゆだけじゃ寂しいし、栄養が取れるものを」と考え、バランスの良い食材を選んでいった。

その過程で、香奈は自分の中に新たな発見をする。「栄養バランスの良い食事を手軽に摂れるような、そんな開発をする仕事に就きたいかもしれない」という思いが、心の中で芽生え始めた。食に対する彼女の興味と情熱が、未来のキャリアへのヒントとなっていた。

食材を買い終え、奏の家に向かう道すがら、香奈は新たな自分の可能性に心を躍らせていた。しかし、奏の部屋の前に着いた時、彼女の心は一瞬で躊躇に包まれた。部屋の中には奏と椎名がいるはずで、少しドアを開けることにためらいを感じた。

その瞬間、ドアが開いた。香奈は、その先に待ち受ける奏と椎名の姿にどのように対峙すべきか、心の中で迷っていた。しかし、彼女の手には、奏のために心を込めて選んだ食材が握られており、その行動は彼女の心の温かさと深い友情を物語っていたのだった。

ドアを開けた椎名の前に立つ香奈は、持ってきた食材を手に、「食べ物いるでしょ」と言い、部屋に入った。その言葉に、椎名は心からの感謝を込めて「ありがとう」と応えた。

香奈は、やはりと思いながら空っぽの冷蔵庫を開け、「やっぱり」とボソッと呟いた。その呟きに、椎名は苦笑いを浮かべつつ「あはは」と乾いた笑いを返した。

その後、香奈は手際よくおかゆを作り始めた。その動作は、慣れた手つきであり、椎名はその様子を見ていて、「手際良いよね、いつもやっているの？」と尋ねた。香奈は、何気ないように「う～ん、いつも家で作ってるからかな」と答えながら、引き続きおかゆを作り続けた。

会話を交わしながらも、香奈の手は止まることなく動いていた。そして、しばらくすると、栄養を考えた優しいおかゆが完成した。香奈はそのおかゆを椎名に渡し、「看病はよろしくね」と言って、さりげなく部屋を後にした。

香奈のその行動は、彼女の心遣いと友情の深さを象徴していた。そして、椎名はその香奈の行動に、ただただ感謝の気持ちを抱きつつ、奏のそばに戻っていった。香奈の去った後の部屋には、静かな空気が流れ、椎名と奏に残された時間が、二人の絆をさらに深めていくのだった。

奏の部屋を後にした香奈は、一人静かに外の空を見上げた。冬の空気は冷たく、しかし、その空の広がりは何かを解放するような気持ちを彼女にもたらした。奏のことは心配だが、椎名と二人きりにしてきたことに対する特別な感情はもう湧かなかった。

心の中で、香奈は自問自答した。「吹っ切れたかな…」奏への思い、長い間心の中に温めていた感情が、いつの間にか変わりつつあることに気づいた。そんな自分の心の変化に、少しの驚きと共に新たな自己理解を感じていた。

そして、その時に香奈の頭に浮かんだ顔は、奏ではなく、美雪だった。その事実に、香奈は自分の心の中に新たな感情が芽生えていることを確信した。歩きながら、香奈は携帯を取り出し、何気なく美雪に電話をかけた。

電話越しに今日の出来事を話し、そのまま二人の会話は自然と盛り上がっていった。香奈は美雪と話すことで、心が安らぎ、同時に強い絆を感じていた。

そして、会話の最後に香奈は大きな決断をする。勇気を出して、美雪に自分の本当の気持ちを伝えた。「美雪、好きだよ」その一言は、香奈にとって新たな始まりを告げる言葉だった。

電話の向こうからの美雪の反応はまだ分からない。しかし、香奈の心はすでに前に進む決意を固めていた。新たな一歩を踏み出した香奈の胸中には、不安と期待が入り混じりながら、新しい未来への希望が広がっていたのだった。