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邪竜の血①
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神官たちが荒れ果てた図書室を前に呆然と立ち尽くしている中、一人の騎士がエルスの元へ走ってきた。
「怪我はないか!」
近衛隊の制服を着たセノだった。
「さっきまでここに人がいたんだ。爆発音が聞こえて、そしたら彼が消え去ってて……」
要領を得ない説明をするエルスの手が血に染まっていることに気付いて、セノは顔を青くした。
「説明はいい。事情はだいたい把握している。誰か治療魔術を扱えるものはいるか!」
セノは入り口でおろおろしている神官たちを振り返った。すると、一人の年老いた神官が手を挙げた。
「私が治療いたしましょう」
「彼のことは任せた」
そう言ってセノは神官にエルスを押し付けると、忙しなくまたどこかへ走っていった。
「待ってセノ! ……痛っ!」
エルスは彼を引き留めようとしたが、手のひらの傷が開いて慌てて抑え込んだ。
老いた神官はエルスの手を取って彼の手の上に魔術陣を描いた。
するとたちまち傷が閉じていき、痛みが引いていく。
「表面だけ傷を直しました。ですがまだ中は傷ついていますから、無理はなさらないように」
「ありがとう!」
神官に一言礼を告げ、エルスはセノを追いかけるように図書室を飛び出していった。
エルスは当てもなく神殿の中を走り回ってセノの姿を探した。
すると、図書室のある建物の裏側で誰かが言い争う声が聞こえてきた。
おそるおそる様子を伺うと、そこにはセノや王子、近衛隊員たちが一人の男を取り囲んでいた。
よく見ると、囲われている男はあの鼻持ちならない男・ヤイルだった。
「お前のせいでエルスが怪我をしたじゃないか! いい加減にチカの居場所を吐け」
セノはヤイルの腹を思いっきり蹴り上げた。
ヤイルは腹を抑えて地面にうずくまっている。
「セノ、乱暴はよくない。ここは私が尋問をしよう」
王子がセノを止めて前へ出る。
ヤイルの前にひざまずくと、彼の頭をつかんで懐からひとつの小瓶を取り出した。
「これは邪竜の血を混ぜて作られた王家秘伝の毒薬だ。飲んだらもう二度と君は魔術を使うことができなくなる。いつか魔術騎士団に移籍することを望んでる君にとっては、最高の拷問だろうね」
王子はにっこりと笑って小瓶の口を開けた。
「さあお飲み」
近衛隊たちがヤイルの顎を押さえて開かせる。
必死に抵抗しているヤイルの口元に小瓶を押し付けた時、ようやく彼は口を開いた。
「言う! 言うからやめてくれ! チカとかいう少年はある邪竜教徒のねぐらに連れて行かれた。そいつのねぐらの場所を教えるから放してくれ!」
「最初からそういえばいいのさ。地図を出してくれ」
王子の命令で、セノは市街地の地図を取り出した。
「酒場の裏にある厩舎の中に地下への出入り口が隠されている。そこを降りてまっすぐ進めばやつのねぐらにつながっているはずだ」
ヤイルは城下町の中でも治安が悪い北部を指差して言った。
セノはその場所を確認して王子を見た。
「では王子、約束のとおりに」
「ああ。だが本当に一人で行くのか?」
「そうしなければ間に合わない」
セノはヤイルや王子たちを置いて、こちらに走ってきた。
エルスは慌てて近くに積まれている木箱の影に隠れた。
どうやらセノは一人でチカとかいう少年を助けに行くらしい。
王子たちはヤイルを拘束して「我々も早急に準備を整えて出発するぞ」と言っている。
エルスはどうにか目の前を走っていくセノをやりすごすと、距離を開けて彼の後を追いかけた。
城下町北部にある酒場の裏についたセノは、厩舎に敷かれた藁をはらった。
するとそこには地下へつながる木の扉が現れた。
セノは躊躇せずその扉を開け、中に潜り込む。
慌ててエルスもその後に続いて地下へ降りていった。
しばらく薄暗い地下道を歩いていると、前のほうから何者かが戦っている音がした。
やがて彼らの決着がついたのか、地下道は再び静まり返る。
するとセノが誰かと喋り始めた。
『おい相棒~、なんだか様子が変じゃないか』
「シルドヘッドもそう思うか? 原作通りの展開のはずなんだが」
シルドヘッド――古の邪竜を滅ぼしたという伝説の聖剣・シルドヘッドと同じ名前か。
エルスは誰がそんな名前をつけたのかと思いながら、前を歩くセノに近づこうとした。
すると突然、誰かがエルスを背後から拘束して口に布を噛ませた。
「んん!?」
「おとなしくしてな」
エルスは口元の布に怪しい粉が含まれていることに気がついた。
慌てて呼吸を止めようとしたが、もう遅い。
怪しい粉がエルスの体内に侵入し、やがて目の前は真っ暗になった。
「怪我はないか!」
近衛隊の制服を着たセノだった。
「さっきまでここに人がいたんだ。爆発音が聞こえて、そしたら彼が消え去ってて……」
要領を得ない説明をするエルスの手が血に染まっていることに気付いて、セノは顔を青くした。
「説明はいい。事情はだいたい把握している。誰か治療魔術を扱えるものはいるか!」
セノは入り口でおろおろしている神官たちを振り返った。すると、一人の年老いた神官が手を挙げた。
「私が治療いたしましょう」
「彼のことは任せた」
そう言ってセノは神官にエルスを押し付けると、忙しなくまたどこかへ走っていった。
「待ってセノ! ……痛っ!」
エルスは彼を引き留めようとしたが、手のひらの傷が開いて慌てて抑え込んだ。
老いた神官はエルスの手を取って彼の手の上に魔術陣を描いた。
するとたちまち傷が閉じていき、痛みが引いていく。
「表面だけ傷を直しました。ですがまだ中は傷ついていますから、無理はなさらないように」
「ありがとう!」
神官に一言礼を告げ、エルスはセノを追いかけるように図書室を飛び出していった。
エルスは当てもなく神殿の中を走り回ってセノの姿を探した。
すると、図書室のある建物の裏側で誰かが言い争う声が聞こえてきた。
おそるおそる様子を伺うと、そこにはセノや王子、近衛隊員たちが一人の男を取り囲んでいた。
よく見ると、囲われている男はあの鼻持ちならない男・ヤイルだった。
「お前のせいでエルスが怪我をしたじゃないか! いい加減にチカの居場所を吐け」
セノはヤイルの腹を思いっきり蹴り上げた。
ヤイルは腹を抑えて地面にうずくまっている。
「セノ、乱暴はよくない。ここは私が尋問をしよう」
王子がセノを止めて前へ出る。
ヤイルの前にひざまずくと、彼の頭をつかんで懐からひとつの小瓶を取り出した。
「これは邪竜の血を混ぜて作られた王家秘伝の毒薬だ。飲んだらもう二度と君は魔術を使うことができなくなる。いつか魔術騎士団に移籍することを望んでる君にとっては、最高の拷問だろうね」
王子はにっこりと笑って小瓶の口を開けた。
「さあお飲み」
近衛隊たちがヤイルの顎を押さえて開かせる。
必死に抵抗しているヤイルの口元に小瓶を押し付けた時、ようやく彼は口を開いた。
「言う! 言うからやめてくれ! チカとかいう少年はある邪竜教徒のねぐらに連れて行かれた。そいつのねぐらの場所を教えるから放してくれ!」
「最初からそういえばいいのさ。地図を出してくれ」
王子の命令で、セノは市街地の地図を取り出した。
「酒場の裏にある厩舎の中に地下への出入り口が隠されている。そこを降りてまっすぐ進めばやつのねぐらにつながっているはずだ」
ヤイルは城下町の中でも治安が悪い北部を指差して言った。
セノはその場所を確認して王子を見た。
「では王子、約束のとおりに」
「ああ。だが本当に一人で行くのか?」
「そうしなければ間に合わない」
セノはヤイルや王子たちを置いて、こちらに走ってきた。
エルスは慌てて近くに積まれている木箱の影に隠れた。
どうやらセノは一人でチカとかいう少年を助けに行くらしい。
王子たちはヤイルを拘束して「我々も早急に準備を整えて出発するぞ」と言っている。
エルスはどうにか目の前を走っていくセノをやりすごすと、距離を開けて彼の後を追いかけた。
城下町北部にある酒場の裏についたセノは、厩舎に敷かれた藁をはらった。
するとそこには地下へつながる木の扉が現れた。
セノは躊躇せずその扉を開け、中に潜り込む。
慌ててエルスもその後に続いて地下へ降りていった。
しばらく薄暗い地下道を歩いていると、前のほうから何者かが戦っている音がした。
やがて彼らの決着がついたのか、地下道は再び静まり返る。
するとセノが誰かと喋り始めた。
『おい相棒~、なんだか様子が変じゃないか』
「シルドヘッドもそう思うか? 原作通りの展開のはずなんだが」
シルドヘッド――古の邪竜を滅ぼしたという伝説の聖剣・シルドヘッドと同じ名前か。
エルスは誰がそんな名前をつけたのかと思いながら、前を歩くセノに近づこうとした。
すると突然、誰かがエルスを背後から拘束して口に布を噛ませた。
「んん!?」
「おとなしくしてな」
エルスは口元の布に怪しい粉が含まれていることに気がついた。
慌てて呼吸を止めようとしたが、もう遅い。
怪しい粉がエルスの体内に侵入し、やがて目の前は真っ暗になった。
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