清い心が魔力になる世界で邪な心を持った魔術師

見習い神官の日常③

　礼拝が終わったら朝食の時間です。
　僕は下っ端なので先輩神官たちにパンを配って歩きます。
　このときにいじわるな先輩、特にヤイルとかいう男は執拗に僕の邪魔をしてきます。
　一度そいつに足を引っ掛けられてパンを床にばらまいたときは、なぜか彼ではなく僕が怒鳴られて本当に最悪の気分でした。
　ちなみにこの朝食のパンは、パサパサでとても食べられたものじゃありません。

　朝食の片付けが終わると掃除と洗濯の時間です。
　僕はまだ見習いで神殿内の掃除は任せてもらえません。
　最近はもっぱら、神官たちの部屋をまわって洗濯物を集めて洗う仕事をしています。
　父上、知っていますか？
　洗濯物って、洗剤というものを使うと綺麗に洗えるんです。
　僕は魔術の才能はありませんが、もしかしたら洗濯の才能があるかもしれません。

　午後は神殿にたくさんの参拝者がやってきます。
　僕は彼らを案内したり、残った雑用をして過ごしています。
　最近はこの時間によく王子の姿を見かけます。
　神子様のご様子を頻繁に見に来られているようですが、僕は神子様とお会いしたことがありません。
　いったいどんな方なのか、少し気になっています。
　父上はなにかご存知ですか？

　夕方には礼拝堂に集まり、日が沈むのを眺めながら祈りを捧げます。
　その後にはみんなで夕食をとります。
　この夕食も最悪で、パサパサの固いパンと何が入ってるのかよくわからないスープしか出ません。
　このままじゃ僕は、実家に帰る頃には飢えてガイコツになっているかもしれません。
　それに、配膳係を任されている僕は毎回ヤイルに邪魔されています。
　あいつはそろそろくたばってほしいです。

　夜になると神殿は明かりが消されて真っ暗になります。
　なんの楽しみもないので、僕はこの手紙を書き終わったらすぐに寝る予定です。

　ところで父上、さっき洗剤の話をしたと思うのですが、あれはとある男から教わりました。
　その男は近衛隊員のセノというらしいのですが、父上はご存知でしょうか。
　なんでも最近になって、王子が自ら入隊させた男らしいです。

　セノはいつも王子と共に神殿へやってきます。
　彼は仕事をしている僕を見かけると、決まってこちらをニヤニヤ見てきます。
　なんだか気持ちが悪いです。
　僕が彼をにらみつけていると、やがて王子もこちらに気付いてやってきます。
　そして毎回、僕にセノを押し付けて帰ってしまうのです。

　洗剤は、そんなことがあった日に、たまたまセノが教えてくれました。
　生意気な男だけど、親切でいいヤツです。
　今度、父上にも紹介したいと思っています。

　ところで僕はいつ実家に帰ることができるのでしょうか。
　それとも今すぐ帰ってもいいのでしょうか。
　返信待っています。

　エルスより