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運命の出会い③
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王子はログレース家の長兄と同い年で、幼い頃から家族ぐるみで仲が良かった。
エルスにとって王子は憧れのお兄様であり、自分を慕ってくるエルスを王子もまた溺愛していた。
王子は礼をするエルスに微笑んで話しかけた。
「やあ可愛いエルス。どうして君がこんなところで水をくんでいるんだい?」
「実は今日からこの神殿で見習い神官として働くことになったんです。今日は新しく住む部屋の掃除をしようと思って水を汲みに来たのですが、王子はなぜ神殿に?」
「僕はこの神殿に住んでいる神子様の様子を見に来たんだ」
それを聞いて、エルスはたしかにそんな話を耳にしたような気がすると思い出した。
聖剣シルドヘッドの偉業を讃えて行う年に一度の祭りの日、神殿の祭壇に不思議な魔術陣が現れ、そこに神の御使いである神子様が現れたという。
エルスはそんな馬鹿な話があるかと言って、神子様の存在など信じていなかったが、どうやら王子の様子を見るに本当に実在するらしい。
「そうだセノ、この可愛いエルスにバケツなんて重いものが持てるはずがない。君が代わりに部屋まで運んで、ついでに掃除も手伝ってやると良い」
王子の指示を受けて、彼の脇に控えていた近衛隊員の一人が前に出てくるとバケツを受け取った。
その男はおそろしく地味な印象で、暗い茶髪に暗い茶色の瞳というありふれた容姿をしていた。
背はひょろりと高く、たくましいというよりは頼りないという言葉がぴったりだ。
王家の近衛隊といえば見目麗しく、腕も立つイメージがあるが、この男はどう見ても容姿が周囲のワンランク下だ。
そんな見た目のハードルを飛び越えるほど腕が立つのだろうか。
エルスは失礼なことを考えながらも、バケツ持ちが出来たのは素直に嬉しかったので王子に感謝した。
「ありがとうございます王子。では彼を少しだけお借りいたします」
「好きなだけこき使ってやってくれ。セノ、私の可愛いエルスに傷でも作ったらどうなるかわかっているだろうな。今日の仕事はもういいから、エルスの手伝いが終わり次第直帰しろ。また会おう、可愛いエルス」
王子は物騒なセリフを吐きながらエルスの頭を撫でると、近衛隊を引き連れ神殿の奥へと消えていった。
エルスはバケツ片手に置いていかれたセノを見た。
「それ、僕の部屋までよろしくね」
相手の返事も聞かずにエルスは自室に向かって歩き始めた。
彼の後ろをセノは水の入ったバケツとともに無言で付いていった。
それがエルスとセノ、二人の運命の出会いであった。
エルスにとって王子は憧れのお兄様であり、自分を慕ってくるエルスを王子もまた溺愛していた。
王子は礼をするエルスに微笑んで話しかけた。
「やあ可愛いエルス。どうして君がこんなところで水をくんでいるんだい?」
「実は今日からこの神殿で見習い神官として働くことになったんです。今日は新しく住む部屋の掃除をしようと思って水を汲みに来たのですが、王子はなぜ神殿に?」
「僕はこの神殿に住んでいる神子様の様子を見に来たんだ」
それを聞いて、エルスはたしかにそんな話を耳にしたような気がすると思い出した。
聖剣シルドヘッドの偉業を讃えて行う年に一度の祭りの日、神殿の祭壇に不思議な魔術陣が現れ、そこに神の御使いである神子様が現れたという。
エルスはそんな馬鹿な話があるかと言って、神子様の存在など信じていなかったが、どうやら王子の様子を見るに本当に実在するらしい。
「そうだセノ、この可愛いエルスにバケツなんて重いものが持てるはずがない。君が代わりに部屋まで運んで、ついでに掃除も手伝ってやると良い」
王子の指示を受けて、彼の脇に控えていた近衛隊員の一人が前に出てくるとバケツを受け取った。
その男はおそろしく地味な印象で、暗い茶髪に暗い茶色の瞳というありふれた容姿をしていた。
背はひょろりと高く、たくましいというよりは頼りないという言葉がぴったりだ。
王家の近衛隊といえば見目麗しく、腕も立つイメージがあるが、この男はどう見ても容姿が周囲のワンランク下だ。
そんな見た目のハードルを飛び越えるほど腕が立つのだろうか。
エルスは失礼なことを考えながらも、バケツ持ちが出来たのは素直に嬉しかったので王子に感謝した。
「ありがとうございます王子。では彼を少しだけお借りいたします」
「好きなだけこき使ってやってくれ。セノ、私の可愛いエルスに傷でも作ったらどうなるかわかっているだろうな。今日の仕事はもういいから、エルスの手伝いが終わり次第直帰しろ。また会おう、可愛いエルス」
王子は物騒なセリフを吐きながらエルスの頭を撫でると、近衛隊を引き連れ神殿の奥へと消えていった。
エルスはバケツ片手に置いていかれたセノを見た。
「それ、僕の部屋までよろしくね」
相手の返事も聞かずにエルスは自室に向かって歩き始めた。
彼の後ろをセノは水の入ったバケツとともに無言で付いていった。
それがエルスとセノ、二人の運命の出会いであった。
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