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October
04
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それから暫くは平和な日々が続いた。
クラスの手伝いを少しした後、図書室で本をチェックしながら展示レイアウトや当日の当番なんかも決める。
そうこうしている内に文化祭まであと1週間。
決まったことを全てまとめた書類を生徒会に提出しなければならず、今現在俺は少し豪華な扉の前でドアノブを握ったまま静止していた。
(まあ、前来た時は会長いなかったし…)
前回来た時はいなかったので今回もいるとは限らない。
会長と二人きりは絶対避けたかったので今回は時間帯も生徒会メンバーがクラスの手伝いが終わって生徒会室にいるだろうという帰宅時間ギリギリを選んだ。
扉の前で耳をすましても誰の声も聞こえず、扉が厚いからなのか、皆が黙って集中しているからなのか、はたまた人数が少ないからなのか分からない。
どっちにしろ提出しないとチャイムが鳴ってしまうのでノックをしてから握りすぎて生温くなったドアノブを思い切り引くと見事予想は外れた。
「…他の人は?」
「全員クラスの手伝いしてそのまま帰った」
「そうなんですか…」
目の前はパソコン画面と睨めっこしている会長ただ1人。
予想していた中でも1番最悪な状況だった。
思わず引き返したくなったが、引き返すことも出来ず、中に入って扉を閉めると会長の机の前まで行って書類を目の前に差し出す。はやく渡して帰る他この場を去る方法はない。
「これ、よろしくお願いします」
「確認するから待ってて」
そう言って書類を受け取ると会話は無く、静寂に包まれる。時計の秒針だけが響いている室内に逃げ出したいという気持ちでいっぱい。
どうにか数分間を誤魔化してくれる出来事はないだろうかと願っていると丁度よく自分の電話が軽快な音楽も共に震えた。
嬉しさのあまり、会長に電話に出ることを伝えて現在の場所から離れて、扉の前で携帯を画面を確認すれば、要先輩の文字。
今日はクラスの手伝いで委員会に顔を出していなかったから恐らくその事について電話してきてくれたに違いない。この間の久我先輩の時といい、本当にタイミングのいい人である。
『ごめんね、今日顔出せなくて』
「いえ、大した作業もなかったので大丈夫です」
『そっか、良かった。湊、まだ学校?』
「はい。要先輩もまだ学校ですか?」
『うん』
案の定謝罪から始まって、思わず笑みが零れる。
電話越しから聞こえる優しい声が今の自分に染み渡った。これを切る頃にはきっと会長の書類の確認も終わって、チャイムも鳴って寮に帰れるだろう。
『一緒に帰らない?俺今終わったから』
「いいですよ。俺今書類提出しに来てるんで、それが終わったら…」
そう信じていた俺の言葉は会長に「橘」と呼ばれ、全て言うことが出来ず消える。
顔だけ振り向くと先程と同じまま、深くもたれかかるように椅子を鳴らしてそのまま言葉を続けた。
「書類にミスあったから直してくれる?」
「あ、はい…分かりました」
会長が言った台詞に後10回は確認しておけば良かったと深く後悔。
一応来る前に何度も確認したけど、忙しかったから見落とした部分があったかもしれない。なんにせよ要先輩を待たせるわけにもいかないので、一緒に帰ることは諦めるしかなかった。
「すいません、やっぱりもう少しかかりそうなので先に帰ってください」
『そっか、分かった。また明日ね』
「はい、また明日」
振り向いていた顔を元に戻して、再び電話に戻って誘いを断ると要先輩は残念そうな声を最後に通話終了ボタンを押す。
どうしよう、会長と会話したくない。
でも会話しないと帰れない。
すごく嫌だったが、とにかく早く終わらせたかったので一瞬で深呼吸し、会長の机まで行くため、身体の向きを変えようと顔をあげた瞬間だった。
(…なに、)
肩に重いものが乗っかる感覚がして振り向けなかった。すぐには状況を把握すること出来ず、目の前に広がる扉を見つめる。
少し視線を落とすと会長の手が扉に添えるようにあって。頬を擽るように会長の髪の毛が当たって。微かに会長の匂いがする。
「書、類は…」
「…ごめん、見間違い、」
俺の声も酷く掠れていたが、会長の声も掠れていた。
部屋は静かなのに心臓の音がうるさい。顔が熱い。手が震える。
お互いそれ以上は何も喋らなかった。
ただそうしたままもうすぐ鳴るであろうチャイムを待つ。
そしてやっと鳴り響いたチャイムで止まっていたように思えた時が進んで、何事も無かったかのように会長は扉に添えていた手を滑らせた。そのままドアノブに移動させると扉を開ける。
「気をつけて」
早く帰るように俺の背中を押して会長が発したのはその一言だけ。
俺がやっと後ろを振り向いた頃には、既に閉じられた扉だけが広がっていて、夢でも見ていたのかと思った。
でも肩越しに残る熱と提出するはずだった書類が消えているのを見て、先程の出来事は現実だったということが分かる。
(意味が、わからない…)
会長は俺のことが好きなのだと言った久我先輩の言葉が頭の中を回る。
いや、だって、拒絶するように振ってきたのは向こうで、たまたまあんな事を言う人じゃなくて、だから、会長の言葉が全て答えなのだとそう思っていて。
じゃあ、さっき行動はなんだったのか。
その答えは明白だが、今の俺は確信まで持てない。
まずこれから俺がどうするべきなのかも、会長がどうして欲しいのかもわからない。
まだ震える手で鞄を握り締めると頭の整理が出来ていないまま、俺はすっかり暗くなった廊下をゆっくりと歩いた。
クラスの手伝いを少しした後、図書室で本をチェックしながら展示レイアウトや当日の当番なんかも決める。
そうこうしている内に文化祭まであと1週間。
決まったことを全てまとめた書類を生徒会に提出しなければならず、今現在俺は少し豪華な扉の前でドアノブを握ったまま静止していた。
(まあ、前来た時は会長いなかったし…)
前回来た時はいなかったので今回もいるとは限らない。
会長と二人きりは絶対避けたかったので今回は時間帯も生徒会メンバーがクラスの手伝いが終わって生徒会室にいるだろうという帰宅時間ギリギリを選んだ。
扉の前で耳をすましても誰の声も聞こえず、扉が厚いからなのか、皆が黙って集中しているからなのか、はたまた人数が少ないからなのか分からない。
どっちにしろ提出しないとチャイムが鳴ってしまうのでノックをしてから握りすぎて生温くなったドアノブを思い切り引くと見事予想は外れた。
「…他の人は?」
「全員クラスの手伝いしてそのまま帰った」
「そうなんですか…」
目の前はパソコン画面と睨めっこしている会長ただ1人。
予想していた中でも1番最悪な状況だった。
思わず引き返したくなったが、引き返すことも出来ず、中に入って扉を閉めると会長の机の前まで行って書類を目の前に差し出す。はやく渡して帰る他この場を去る方法はない。
「これ、よろしくお願いします」
「確認するから待ってて」
そう言って書類を受け取ると会話は無く、静寂に包まれる。時計の秒針だけが響いている室内に逃げ出したいという気持ちでいっぱい。
どうにか数分間を誤魔化してくれる出来事はないだろうかと願っていると丁度よく自分の電話が軽快な音楽も共に震えた。
嬉しさのあまり、会長に電話に出ることを伝えて現在の場所から離れて、扉の前で携帯を画面を確認すれば、要先輩の文字。
今日はクラスの手伝いで委員会に顔を出していなかったから恐らくその事について電話してきてくれたに違いない。この間の久我先輩の時といい、本当にタイミングのいい人である。
『ごめんね、今日顔出せなくて』
「いえ、大した作業もなかったので大丈夫です」
『そっか、良かった。湊、まだ学校?』
「はい。要先輩もまだ学校ですか?」
『うん』
案の定謝罪から始まって、思わず笑みが零れる。
電話越しから聞こえる優しい声が今の自分に染み渡った。これを切る頃にはきっと会長の書類の確認も終わって、チャイムも鳴って寮に帰れるだろう。
『一緒に帰らない?俺今終わったから』
「いいですよ。俺今書類提出しに来てるんで、それが終わったら…」
そう信じていた俺の言葉は会長に「橘」と呼ばれ、全て言うことが出来ず消える。
顔だけ振り向くと先程と同じまま、深くもたれかかるように椅子を鳴らしてそのまま言葉を続けた。
「書類にミスあったから直してくれる?」
「あ、はい…分かりました」
会長が言った台詞に後10回は確認しておけば良かったと深く後悔。
一応来る前に何度も確認したけど、忙しかったから見落とした部分があったかもしれない。なんにせよ要先輩を待たせるわけにもいかないので、一緒に帰ることは諦めるしかなかった。
「すいません、やっぱりもう少しかかりそうなので先に帰ってください」
『そっか、分かった。また明日ね』
「はい、また明日」
振り向いていた顔を元に戻して、再び電話に戻って誘いを断ると要先輩は残念そうな声を最後に通話終了ボタンを押す。
どうしよう、会長と会話したくない。
でも会話しないと帰れない。
すごく嫌だったが、とにかく早く終わらせたかったので一瞬で深呼吸し、会長の机まで行くため、身体の向きを変えようと顔をあげた瞬間だった。
(…なに、)
肩に重いものが乗っかる感覚がして振り向けなかった。すぐには状況を把握すること出来ず、目の前に広がる扉を見つめる。
少し視線を落とすと会長の手が扉に添えるようにあって。頬を擽るように会長の髪の毛が当たって。微かに会長の匂いがする。
「書、類は…」
「…ごめん、見間違い、」
俺の声も酷く掠れていたが、会長の声も掠れていた。
部屋は静かなのに心臓の音がうるさい。顔が熱い。手が震える。
お互いそれ以上は何も喋らなかった。
ただそうしたままもうすぐ鳴るであろうチャイムを待つ。
そしてやっと鳴り響いたチャイムで止まっていたように思えた時が進んで、何事も無かったかのように会長は扉に添えていた手を滑らせた。そのままドアノブに移動させると扉を開ける。
「気をつけて」
早く帰るように俺の背中を押して会長が発したのはその一言だけ。
俺がやっと後ろを振り向いた頃には、既に閉じられた扉だけが広がっていて、夢でも見ていたのかと思った。
でも肩越しに残る熱と提出するはずだった書類が消えているのを見て、先程の出来事は現実だったということが分かる。
(意味が、わからない…)
会長は俺のことが好きなのだと言った久我先輩の言葉が頭の中を回る。
いや、だって、拒絶するように振ってきたのは向こうで、たまたまあんな事を言う人じゃなくて、だから、会長の言葉が全て答えなのだとそう思っていて。
じゃあ、さっき行動はなんだったのか。
その答えは明白だが、今の俺は確信まで持てない。
まずこれから俺がどうするべきなのかも、会長がどうして欲しいのかもわからない。
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