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October
遊園地
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金曜日の熱が消えないまま、土曜日が過ぎ、あっという間に地獄のような日曜日。
待ち合わせに指定された遊園地の最寄り駅は人が多く、既に帰りたいという感情でいっぱいだったが、遠くから久我先輩の姿を見て余計にそう思ってしまう。
「お、二人とも集合早かったな~。てかほんまに連れて来てくれたんや、流石」
「…可愛い女の子は?」
「…これには深い事情がありまして…」
待ち合わせ場所に着くなり、隣にいた理久はすごい形相で俺に迫った。
それもそうだ。俺はあの日可愛い女の子が来るだのなんだのと適当な嘘を並びに並べ、なんとか理久をここまで連れてこさせたのだ。
怒るのも仕方ない。しかも長年喧嘩していた久我先輩がいるとなると更に。本当にごめん。
原因は久我先輩なのだから仲裁してくれたらいいのに、当の本人はまるで他人事のようにキョロキョロと周りを見渡していた。そして誰かを発見した瞬間、「お、きたきた」といつもより一段と陽気な声で手を振る。
「ごめん、遅くなって」
「全然。むしろ時間ピッタリやし」
「…この2人は?」
やってきたのは全く今の状況を飲み込めていない会長。
俺は勿論理久も怒るのを忘れて、ポカンと口を開けたまま互いを見つめる。この場で状況を把握しているのは調子の良い笑みを浮かべる久我先輩だけのようだ。
暫く見つめあった後。
ようやく今何が起きているのか飲み込むことが出来て、今度は俺が久我先輩に迫る番だった。
「…どういうことですか、これ」
「あー…3人やと橘寂しいかなって思って…ダブルデート的な…いってえ!!」
「アホか!!」
嘘とはいえ元彼をこんな場所に連れてくるやつがいるか。
しかもこのタイミングで。最悪にも程がある。
ここ最近色々な出来事があったせいで余計に腹が立ち、思わず久我先輩の頭に本気で1発平手打ちをかました。会長と理久はそんな俺を特に止める様子もなく、ただ黙って見ている。きっと2人とも同じ気持ちだったに違いない。
「まあ折角やから4人で楽しもうや。な?」
「………」
周りの人は目の前に見える遊園地にはしゃいでいるにも関わらず、空気は最悪。久我先輩以外今から遊園地に行くという雰囲気ではなかった。
というか正直、ここに来るまでは駅まで行くだけ行って遊園地には行かずに帰ろうと思っていたのに。
楽しそうに歩き始めた久我先輩を仕方なく追うように後をついていくも皆の足取りは明らかに遅い。
段取りよくチケットを渡され、入場するとそこは本当に夢の国のようで今まで見ていた景色とは違い、洋風な街並みが広がっていた。
「人すごいね」
「日曜やからな、やっぱりどのアトラクションも並んでるわ」
そう言いつつも久我先輩は場内の地図見ることなくすんなりと歩き進めて、入口から少し離れたところにあるアトラクションの列に並んだ。見た感じ恐らく絶叫系だろう。
待ち時間は1時間近くあったが、その間ずっと喋り倒している久我先輩に3人で適当に相槌を打っていると暇をすることもなくいつの間にか順番が回ってきた。
乗り物の形状から2人乗り。4人の俺たちは2人2人で別れなければならない。
「俺は湊と…」
「ミヤマエくんは俺と乗ろうや」
「は、嫌だ!ちょ…!」
どう別れるか揉める暇もなく、久我先輩に強引に連れて行かれた理久は席に着くなり「バー降ろしますねー」と安全バーまで降ろされ、なすがまま状態。嘘をついてここまで連れてきたのは俺だが流石にどうすることも出来ないのでとりあえず心の中で謝罪だけしておく。
「絶叫系得意なの?」
「まあまあ。会長は?」
「苦手ではないけど、好きではない」
「なんですかそれ」
「疲れるから好んでは乗らないってこと」
そんな会話を繰り広げていた俺達にも安全バーが降ろされ、逃げ場がなくなったところで急に不安が過ぎった。
先程の会話でついまあまあだと言ってしまったが、よく考えたら中1以来こういう絶叫系のアトラクションに乗った記憶が無い。しかもその時は顔を青くしながらもう一生乗らないと誓った気がする。
久々すぎてそんなことすっかり忘れていた。
そんなこと今思い出しても遅く、無情にも乗り物は少しずつ音を立てて上昇を始めて、1番上に辿り着いた瞬間、物凄いスピードで加速して。
ーーーその辺りからもうあまり記憶がない。
待ち合わせに指定された遊園地の最寄り駅は人が多く、既に帰りたいという感情でいっぱいだったが、遠くから久我先輩の姿を見て余計にそう思ってしまう。
「お、二人とも集合早かったな~。てかほんまに連れて来てくれたんや、流石」
「…可愛い女の子は?」
「…これには深い事情がありまして…」
待ち合わせ場所に着くなり、隣にいた理久はすごい形相で俺に迫った。
それもそうだ。俺はあの日可愛い女の子が来るだのなんだのと適当な嘘を並びに並べ、なんとか理久をここまで連れてこさせたのだ。
怒るのも仕方ない。しかも長年喧嘩していた久我先輩がいるとなると更に。本当にごめん。
原因は久我先輩なのだから仲裁してくれたらいいのに、当の本人はまるで他人事のようにキョロキョロと周りを見渡していた。そして誰かを発見した瞬間、「お、きたきた」といつもより一段と陽気な声で手を振る。
「ごめん、遅くなって」
「全然。むしろ時間ピッタリやし」
「…この2人は?」
やってきたのは全く今の状況を飲み込めていない会長。
俺は勿論理久も怒るのを忘れて、ポカンと口を開けたまま互いを見つめる。この場で状況を把握しているのは調子の良い笑みを浮かべる久我先輩だけのようだ。
暫く見つめあった後。
ようやく今何が起きているのか飲み込むことが出来て、今度は俺が久我先輩に迫る番だった。
「…どういうことですか、これ」
「あー…3人やと橘寂しいかなって思って…ダブルデート的な…いってえ!!」
「アホか!!」
嘘とはいえ元彼をこんな場所に連れてくるやつがいるか。
しかもこのタイミングで。最悪にも程がある。
ここ最近色々な出来事があったせいで余計に腹が立ち、思わず久我先輩の頭に本気で1発平手打ちをかました。会長と理久はそんな俺を特に止める様子もなく、ただ黙って見ている。きっと2人とも同じ気持ちだったに違いない。
「まあ折角やから4人で楽しもうや。な?」
「………」
周りの人は目の前に見える遊園地にはしゃいでいるにも関わらず、空気は最悪。久我先輩以外今から遊園地に行くという雰囲気ではなかった。
というか正直、ここに来るまでは駅まで行くだけ行って遊園地には行かずに帰ろうと思っていたのに。
楽しそうに歩き始めた久我先輩を仕方なく追うように後をついていくも皆の足取りは明らかに遅い。
段取りよくチケットを渡され、入場するとそこは本当に夢の国のようで今まで見ていた景色とは違い、洋風な街並みが広がっていた。
「人すごいね」
「日曜やからな、やっぱりどのアトラクションも並んでるわ」
そう言いつつも久我先輩は場内の地図見ることなくすんなりと歩き進めて、入口から少し離れたところにあるアトラクションの列に並んだ。見た感じ恐らく絶叫系だろう。
待ち時間は1時間近くあったが、その間ずっと喋り倒している久我先輩に3人で適当に相槌を打っていると暇をすることもなくいつの間にか順番が回ってきた。
乗り物の形状から2人乗り。4人の俺たちは2人2人で別れなければならない。
「俺は湊と…」
「ミヤマエくんは俺と乗ろうや」
「は、嫌だ!ちょ…!」
どう別れるか揉める暇もなく、久我先輩に強引に連れて行かれた理久は席に着くなり「バー降ろしますねー」と安全バーまで降ろされ、なすがまま状態。嘘をついてここまで連れてきたのは俺だが流石にどうすることも出来ないのでとりあえず心の中で謝罪だけしておく。
「絶叫系得意なの?」
「まあまあ。会長は?」
「苦手ではないけど、好きではない」
「なんですかそれ」
「疲れるから好んでは乗らないってこと」
そんな会話を繰り広げていた俺達にも安全バーが降ろされ、逃げ場がなくなったところで急に不安が過ぎった。
先程の会話でついまあまあだと言ってしまったが、よく考えたら中1以来こういう絶叫系のアトラクションに乗った記憶が無い。しかもその時は顔を青くしながらもう一生乗らないと誓った気がする。
久々すぎてそんなことすっかり忘れていた。
そんなこと今思い出しても遅く、無情にも乗り物は少しずつ音を立てて上昇を始めて、1番上に辿り着いた瞬間、物凄いスピードで加速して。
ーーーその辺りからもうあまり記憶がない。
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