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August
02
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それから1週間。
俺が病院に行く時間と相手の散歩の時間と合うのか、お見舞いに足を運ぶ度に紫さんと偶然会い、休憩室で話をするようになっていた。
話す内容は基本は最近の出来事や本の話、最近のニュース等様々。
年代は違うが本の趣味は結構合うのでなんだか年の離れた友達が出来たような不思議な気分だ。
「そういえば最近、病院で綺麗な女の人と仲良くなったんです」
「へえ、ドラマみたいじゃん」
「女の人って言っても30後半くらいの人で。特に約束してないんですけど、毎回お見舞い行く度に会うんですよね」
会長の部屋で勉強を教えてもらった休憩中、暇潰しがてら最近あった出来事を話せば会長は興味なさそうな顔で携帯から顔をあげることも無く答えた。
「それ本当に人間なの?」
「…どういう意味ですか」
返答の意味が分からず、眉を顰めるも会長は1度もこちらに視線を寄越さない。軽快な音楽が微かに聞こえるのでどうせいつもの暇潰しのパズルゲームでもしているんだろう。
「湊が病院行く度にタイミングよく会うんでしょ?しかも毎回」
「そうですけど…」
「その人が誰かと話してるところ見た事ある?」
「…ないですけど…」
そこまで質問されてようやく言葉の意味に気が付く。
やっと言いたいことに気がついた俺に対して、ようやく携帯画面から視線を外した会長が笑った。
「幽霊って本当にいたんだ」
「なわけねーだろ。そういうこと言うのやめてください」
結構本気で言ってるのに、と再び画面に視線を戻す会長を横目に氷が溶けて薄くなったコーヒーを少し渦巻き始めた不安と共に流し込む。
会長が言っていることは分かる。
確かに毎回偶然会うなんておかしいし、他の誰かと話す姿も見たことない。幽霊なんて馬鹿げた話だがそう言われたら妙に信憑性があるというか、なんというか。
部屋に帰る準備をしながら色々考えてしまったせいで、少し明日の病院が憂鬱になっていくのを感じた。
そして次の日。
それでも行かない訳にはいかない俺は気持ちが落ち着かないまま病院へと足を運んだ。
(いや、今日は会わないかもしれねーし…)
そうであって欲しい。
この幽霊疑惑を打ち消すためにも今日だけは会わないでくれ。
そんな俺の願いも虚しく、いつものように要先輩の病室へ向かうと「湊くん」と透き通った声で話しかけられた。
「…紫さん、こんばんは」
「こんばんは。今日もお見舞い?」
いつも通り綺麗な顔で目を細める紫さんだったが俺は内心少し怯えていた。
透けてないかとチラチラと足元を気にしてみたりしたのがいけなかったのかもしれない。
紫さんはすぐ俺の不審な態度に気が付いたようで不思議そうな顔で尋ねた。
「どうかした?」
「え!いや、…なんでもないですよ」
「嘘おっしゃい。様子変よ…?調子でも悪い?」
俺の疚しい心とは裏腹に純粋に心配してくる紫さんを見ていると酷い罪悪感に襲われる。全部あんなことを言い出した会長のせいだ。
特に上手い言い訳も思い浮かばず、恐る恐る「実は…」と昨日言われたことを相手の気に障らない程度にオブラートに包みながら説明すると紫さんは大きく瞬きをした後、少し考えたような素振りで黙った。
少し長い沈黙。
2人しかいない休憩室は冷房が効いているのか少し寒い気すらしてくる。
何も話そうとしない紫さんに冷や汗が止まらなかった。いっそ失礼だと罵られた方がどれだけマシか。
「…もうバレたのね」
「え゛」
「その人の言う通り実は私ね…三年前に死んでるの」
目を伏せて有り得ないことを真顔で話す彼女に言葉が出ない。嘘ですよね?と聞き返したかったのにそんなこと言える雰囲気でもなく、ただただ唇を震わせていると紫さんはクスクスと肩を震わせて笑った。
「なーんて冗談よ」
「な、…っ、びっくりしたじゃないですか!」
「まさかそんなに信じると思わなくて。ごめんなさい」
お茶目に笑う紫さんに心の底から安堵し、買ったお茶を口に含む。あんな話を信じてしまった自分が馬鹿らしい。
「湊くん大体14時くらいにここ通るから、毎回待ち伏せしてたの」
言われてみたらいつも午前中に図書室に顔を出し、仕事を終わらせてから寮に帰って昼ご飯。そして、着替えて病院へ。というルーティンでココ最近は生活していた。言われてみると自然と大体14時くらいに病院につくようになっていた気がする。
ようやく偶然会う理由が分かって、スッキリした。
「湊くんと話してると息子と話してるみたいで楽しくてねぇ」
「息子さんいたんですね」
「そうなのよ。湊くんと同い年くらいのね」
同い年くらいの息子ということはやはり年齢は母とそんなに変わらないのかもしれない。きっとその息子はいい子でイケメンなんだろうな。
「息子さんどんな人なんですか?」
「湊くんと似ててとっても真面目で優しい子よ。あと小さい頃からよく女の子にモテてたわね」
「それは羨ましいですね」
思った通りの息子像に特に驚きもなく、嬉しそうに息子の話をする紫さんを微笑ましく思った。
暫く紫さんの息子さんの話を聞いた後、今度は俺の交友関係の話に変わり「湊くんはその先輩と仲がいいのね」と微笑ましそうな顔で言われた。
「仲良いっていうか…生徒会の仕事手伝う代わりに勉強教えてもらってるっていうか…」
「生徒会?」
「えっと、その先輩、生徒会長なので…」
「へえ、すごい!」
いや、本当にスペックはすごい人なんですよ。ただその分性格悪いんですけど。
楽しそうに笑う紫さんの言葉に心の中でそう呟くとこの後は俺の学校生活の話で一頻り盛り上がった後、その日は解散となった。
俺が病院に行く時間と相手の散歩の時間と合うのか、お見舞いに足を運ぶ度に紫さんと偶然会い、休憩室で話をするようになっていた。
話す内容は基本は最近の出来事や本の話、最近のニュース等様々。
年代は違うが本の趣味は結構合うのでなんだか年の離れた友達が出来たような不思議な気分だ。
「そういえば最近、病院で綺麗な女の人と仲良くなったんです」
「へえ、ドラマみたいじゃん」
「女の人って言っても30後半くらいの人で。特に約束してないんですけど、毎回お見舞い行く度に会うんですよね」
会長の部屋で勉強を教えてもらった休憩中、暇潰しがてら最近あった出来事を話せば会長は興味なさそうな顔で携帯から顔をあげることも無く答えた。
「それ本当に人間なの?」
「…どういう意味ですか」
返答の意味が分からず、眉を顰めるも会長は1度もこちらに視線を寄越さない。軽快な音楽が微かに聞こえるのでどうせいつもの暇潰しのパズルゲームでもしているんだろう。
「湊が病院行く度にタイミングよく会うんでしょ?しかも毎回」
「そうですけど…」
「その人が誰かと話してるところ見た事ある?」
「…ないですけど…」
そこまで質問されてようやく言葉の意味に気が付く。
やっと言いたいことに気がついた俺に対して、ようやく携帯画面から視線を外した会長が笑った。
「幽霊って本当にいたんだ」
「なわけねーだろ。そういうこと言うのやめてください」
結構本気で言ってるのに、と再び画面に視線を戻す会長を横目に氷が溶けて薄くなったコーヒーを少し渦巻き始めた不安と共に流し込む。
会長が言っていることは分かる。
確かに毎回偶然会うなんておかしいし、他の誰かと話す姿も見たことない。幽霊なんて馬鹿げた話だがそう言われたら妙に信憑性があるというか、なんというか。
部屋に帰る準備をしながら色々考えてしまったせいで、少し明日の病院が憂鬱になっていくのを感じた。
そして次の日。
それでも行かない訳にはいかない俺は気持ちが落ち着かないまま病院へと足を運んだ。
(いや、今日は会わないかもしれねーし…)
そうであって欲しい。
この幽霊疑惑を打ち消すためにも今日だけは会わないでくれ。
そんな俺の願いも虚しく、いつものように要先輩の病室へ向かうと「湊くん」と透き通った声で話しかけられた。
「…紫さん、こんばんは」
「こんばんは。今日もお見舞い?」
いつも通り綺麗な顔で目を細める紫さんだったが俺は内心少し怯えていた。
透けてないかとチラチラと足元を気にしてみたりしたのがいけなかったのかもしれない。
紫さんはすぐ俺の不審な態度に気が付いたようで不思議そうな顔で尋ねた。
「どうかした?」
「え!いや、…なんでもないですよ」
「嘘おっしゃい。様子変よ…?調子でも悪い?」
俺の疚しい心とは裏腹に純粋に心配してくる紫さんを見ていると酷い罪悪感に襲われる。全部あんなことを言い出した会長のせいだ。
特に上手い言い訳も思い浮かばず、恐る恐る「実は…」と昨日言われたことを相手の気に障らない程度にオブラートに包みながら説明すると紫さんは大きく瞬きをした後、少し考えたような素振りで黙った。
少し長い沈黙。
2人しかいない休憩室は冷房が効いているのか少し寒い気すらしてくる。
何も話そうとしない紫さんに冷や汗が止まらなかった。いっそ失礼だと罵られた方がどれだけマシか。
「…もうバレたのね」
「え゛」
「その人の言う通り実は私ね…三年前に死んでるの」
目を伏せて有り得ないことを真顔で話す彼女に言葉が出ない。嘘ですよね?と聞き返したかったのにそんなこと言える雰囲気でもなく、ただただ唇を震わせていると紫さんはクスクスと肩を震わせて笑った。
「なーんて冗談よ」
「な、…っ、びっくりしたじゃないですか!」
「まさかそんなに信じると思わなくて。ごめんなさい」
お茶目に笑う紫さんに心の底から安堵し、買ったお茶を口に含む。あんな話を信じてしまった自分が馬鹿らしい。
「湊くん大体14時くらいにここ通るから、毎回待ち伏せしてたの」
言われてみたらいつも午前中に図書室に顔を出し、仕事を終わらせてから寮に帰って昼ご飯。そして、着替えて病院へ。というルーティンでココ最近は生活していた。言われてみると自然と大体14時くらいに病院につくようになっていた気がする。
ようやく偶然会う理由が分かって、スッキリした。
「湊くんと話してると息子と話してるみたいで楽しくてねぇ」
「息子さんいたんですね」
「そうなのよ。湊くんと同い年くらいのね」
同い年くらいの息子ということはやはり年齢は母とそんなに変わらないのかもしれない。きっとその息子はいい子でイケメンなんだろうな。
「息子さんどんな人なんですか?」
「湊くんと似ててとっても真面目で優しい子よ。あと小さい頃からよく女の子にモテてたわね」
「それは羨ましいですね」
思った通りの息子像に特に驚きもなく、嬉しそうに息子の話をする紫さんを微笑ましく思った。
暫く紫さんの息子さんの話を聞いた後、今度は俺の交友関係の話に変わり「湊くんはその先輩と仲がいいのね」と微笑ましそうな顔で言われた。
「仲良いっていうか…生徒会の仕事手伝う代わりに勉強教えてもらってるっていうか…」
「生徒会?」
「えっと、その先輩、生徒会長なので…」
「へえ、すごい!」
いや、本当にスペックはすごい人なんですよ。ただその分性格悪いんですけど。
楽しそうに笑う紫さんの言葉に心の中でそう呟くとこの後は俺の学校生活の話で一頻り盛り上がった後、その日は解散となった。
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