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August
03
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外に出ると空はすっかり夕暮れ。
待ち合わせした時とは違い、駅で解散するのではなく帰り道が別れるまで一緒に歩いた。
「今日はありがとね」
「こちらこそありがと。これお土産」
別れ間際、先程買ったストラップを水島に渡すと驚いたような顔をして受け取る。「開けてもいい?」と尋ねられ、頷くと袋を開けて中身を確認するなり声を上げた。
「かわいい…!」
「今日のお礼にと思って」
「ありがと、絶対大切にする!」
嬉しそうに微笑んでストラップを握りしめる姿にホッと胸をなでおろしたのも束の間。
彼女は気まずそうに視線をさ迷わせると小さく唇を震わせた。
先程まで歩いていた道とは違い、人が1人歩いていない道でセミの鳴き声だけが響く。
「…あ、のね…もう気付いてるかもしれないけど…」
その切り出し方でなんとなく今から話す言葉が分かる。
会長から話を聞いていたせいもあるだろう。
そこでやっと自分の行動が水島の今からの行動の手助けしてしまったのだと今更気が付いた。でももう後悔しても遅い。
「私、橘くんのこと…中学の時からずっと好きだったの…」
ああ、やっぱり。
そう言わざる得ない言葉に俺はやはりここに来るべきではなかったと悟る。
確かに水島と遊んだのは楽しかった。
でも水島をそういう風に意識したことはないし、現状自分のことで手一杯で、会長の様に告白されたから付き合いますなんて言えるほど器用さもない。
そうなれば今から言うべき答えはただひとつ。
「ーー…ごめん。俺、今勉強に忙しくて…そういうのあんまり考えられない…」
そう口にすると水島の瞳は一瞬大きく見開かれる。そしてその後すぐに俯けば、綺麗に伸びた睫毛が静かに影を落とした。
「そ、だよね…特待生だもんね…」
「…こんなこと聞くのもあれだけど…なんで俺なの?」
水島とはあまり話した記憶がないし、別に顔も良くなければ、運動音痴。性格も取り立てて面白い訳でもなく、他の人より出来ることといえば勉強くらいで特に他の取り柄もないのに。
とにかく思い当たる節が無さすぎて何がきっかけなのか全く検討がつかず、つい気になってしまう。
「…橘くんさ、昔学級委員長してたでしょ」
「ああ、2年生の時1回だけ…」
「その時どうして学級委員長になったかって覚えてる?」
中学2年生、といったら3年前。
忘れていた記憶を一生懸命思い起こす。
確かあの時はなかなか学級委員長が決まらず、だんだんクラスの中で押し付け合いになった気がする。
その結果、最終的に大人しい水島が標的となってしまい、泣きそうな顔で承諾する彼女を見ていられなくて、思わず手挙げたんだっけ。
ぼんやりとした記憶だったが、当時の状況を思い出すとだんだん鮮明になってきた。
そしてそれと同時に水島が俺を好きになった理由がなんとなく分かってくる。
そんな心情が顔に出ていたのか、水島は「覚えててくれたんだね」と安心したような顔でこちらを見つめて
目を細めた。
「私ね、あの時橘くんのこと好きになったんだ」
「…なるほど…」
そう言った水島は俺に背中を向ける。
「また遊びに誘ってもいい?」
「水島がいいなら…」
「あと彼女できたら教えて欲しいな。それと…」
夕暮れが染まり、オレンジ色に輝く道の真ん中。
振り返った水島は思い出したように振り向くとそっと耳打ちをして悪戯っぽく笑う。
「メッセージ、今度はちゃんと橘くんが返してね」
一瞬なんの話か分からなかった。
それでもなんとか言葉の意味を探って、ようやく答えに辿り着いた時。
帰り道を走った水島は随分と遠くで「じゃあ、またね」と手を振っていて、ただ1人佇む俺は独り言のように小さく呟く。
「…バレてたのか」
会長が俺の代わりに返した返信。
彼女はいつ確信したのだろう。
いくら考えたところで水島と別れた今、答えはわからない。
混乱する頭が冷める頃にはすっかり家に着いてしまっていて、玄関のドアを開けると会長からお祭りの景品で貰った可愛らしいピンクの衣装を纏った愛梨が出迎えてくれた。
その後、晩御飯もお風呂も終えて、部屋で課題をしている最中。
不意にやけに壮大な着信音が部屋に鳴り響き、携帯を手に取る。人物はなんとなく着信音から予想出来た。
『どうだった?デート』
「…楽しかったですよ、お陰様で」
電話越しからほぼ一週間ぶりに聞く声は変わっていない。
急な電話ではあったが、なんとなく今日電話がある気がしていたので特に驚きもなかった。
『なんだ、結局断ったんだ』
「…何がですか」
『告白』
俺の先程の一言で一体何をどこまで察したのか、まるで一部始終を見ていたかのようにそう言われてつい目を伏せる。話す手間が省けて助かるが、そこまで察しがいいと逆に怖い。
「…そんなことより会長はどうですか。寮生活」
『死ぬほど暇』
「でしょうね」
告白に関してはあえて何も触れず。というか触れても特に話すことも無いので話を逸らすように近況を聞けば、相当暇なのか間髪入れずに答えた。
寮でやることなんて限られるから学校がない今、受験勉強か生徒会の仕事くらいしかやることがなく暇なんだろう。1人でフラフラどこか出掛けるタイプでもなさそうだし。
『いつこっち帰ってくるの?』
「明後日帰る予定です」
『明後日か、長いな』
「そんなに寂しいですか」
『うん』
わざとからかったように返したつもりだったが、会長に更に上手な言葉で返されて会話が途切れた。
この後、何かオチがあるんだろうなと思っていると予想通り言葉が続く。
『体育祭の仕事溜まってるから早く帰ってきて』
「…暇って言いましたよね?さっき」
『そうだっけ?』
惚ける会長に溜め息しか出ない。
というか夏休みでも忙しいのかよ、この人。
2日後、嫌になるほど顔見なきゃいけないんだろうと思うとこれ以上電話で話すのが嫌になってきて、適当なところで会話を切り上げると目の前には広げられた課題が目に映った。
先程までのやる気はどこへやら。
ペンを握る気にもなれず、俺はそっと問題集を閉じると早めにベッドに身体を潜り込ませたのであった。
待ち合わせした時とは違い、駅で解散するのではなく帰り道が別れるまで一緒に歩いた。
「今日はありがとね」
「こちらこそありがと。これお土産」
別れ間際、先程買ったストラップを水島に渡すと驚いたような顔をして受け取る。「開けてもいい?」と尋ねられ、頷くと袋を開けて中身を確認するなり声を上げた。
「かわいい…!」
「今日のお礼にと思って」
「ありがと、絶対大切にする!」
嬉しそうに微笑んでストラップを握りしめる姿にホッと胸をなでおろしたのも束の間。
彼女は気まずそうに視線をさ迷わせると小さく唇を震わせた。
先程まで歩いていた道とは違い、人が1人歩いていない道でセミの鳴き声だけが響く。
「…あ、のね…もう気付いてるかもしれないけど…」
その切り出し方でなんとなく今から話す言葉が分かる。
会長から話を聞いていたせいもあるだろう。
そこでやっと自分の行動が水島の今からの行動の手助けしてしまったのだと今更気が付いた。でももう後悔しても遅い。
「私、橘くんのこと…中学の時からずっと好きだったの…」
ああ、やっぱり。
そう言わざる得ない言葉に俺はやはりここに来るべきではなかったと悟る。
確かに水島と遊んだのは楽しかった。
でも水島をそういう風に意識したことはないし、現状自分のことで手一杯で、会長の様に告白されたから付き合いますなんて言えるほど器用さもない。
そうなれば今から言うべき答えはただひとつ。
「ーー…ごめん。俺、今勉強に忙しくて…そういうのあんまり考えられない…」
そう口にすると水島の瞳は一瞬大きく見開かれる。そしてその後すぐに俯けば、綺麗に伸びた睫毛が静かに影を落とした。
「そ、だよね…特待生だもんね…」
「…こんなこと聞くのもあれだけど…なんで俺なの?」
水島とはあまり話した記憶がないし、別に顔も良くなければ、運動音痴。性格も取り立てて面白い訳でもなく、他の人より出来ることといえば勉強くらいで特に他の取り柄もないのに。
とにかく思い当たる節が無さすぎて何がきっかけなのか全く検討がつかず、つい気になってしまう。
「…橘くんさ、昔学級委員長してたでしょ」
「ああ、2年生の時1回だけ…」
「その時どうして学級委員長になったかって覚えてる?」
中学2年生、といったら3年前。
忘れていた記憶を一生懸命思い起こす。
確かあの時はなかなか学級委員長が決まらず、だんだんクラスの中で押し付け合いになった気がする。
その結果、最終的に大人しい水島が標的となってしまい、泣きそうな顔で承諾する彼女を見ていられなくて、思わず手挙げたんだっけ。
ぼんやりとした記憶だったが、当時の状況を思い出すとだんだん鮮明になってきた。
そしてそれと同時に水島が俺を好きになった理由がなんとなく分かってくる。
そんな心情が顔に出ていたのか、水島は「覚えててくれたんだね」と安心したような顔でこちらを見つめて
目を細めた。
「私ね、あの時橘くんのこと好きになったんだ」
「…なるほど…」
そう言った水島は俺に背中を向ける。
「また遊びに誘ってもいい?」
「水島がいいなら…」
「あと彼女できたら教えて欲しいな。それと…」
夕暮れが染まり、オレンジ色に輝く道の真ん中。
振り返った水島は思い出したように振り向くとそっと耳打ちをして悪戯っぽく笑う。
「メッセージ、今度はちゃんと橘くんが返してね」
一瞬なんの話か分からなかった。
それでもなんとか言葉の意味を探って、ようやく答えに辿り着いた時。
帰り道を走った水島は随分と遠くで「じゃあ、またね」と手を振っていて、ただ1人佇む俺は独り言のように小さく呟く。
「…バレてたのか」
会長が俺の代わりに返した返信。
彼女はいつ確信したのだろう。
いくら考えたところで水島と別れた今、答えはわからない。
混乱する頭が冷める頃にはすっかり家に着いてしまっていて、玄関のドアを開けると会長からお祭りの景品で貰った可愛らしいピンクの衣装を纏った愛梨が出迎えてくれた。
その後、晩御飯もお風呂も終えて、部屋で課題をしている最中。
不意にやけに壮大な着信音が部屋に鳴り響き、携帯を手に取る。人物はなんとなく着信音から予想出来た。
『どうだった?デート』
「…楽しかったですよ、お陰様で」
電話越しからほぼ一週間ぶりに聞く声は変わっていない。
急な電話ではあったが、なんとなく今日電話がある気がしていたので特に驚きもなかった。
『なんだ、結局断ったんだ』
「…何がですか」
『告白』
俺の先程の一言で一体何をどこまで察したのか、まるで一部始終を見ていたかのようにそう言われてつい目を伏せる。話す手間が省けて助かるが、そこまで察しがいいと逆に怖い。
「…そんなことより会長はどうですか。寮生活」
『死ぬほど暇』
「でしょうね」
告白に関してはあえて何も触れず。というか触れても特に話すことも無いので話を逸らすように近況を聞けば、相当暇なのか間髪入れずに答えた。
寮でやることなんて限られるから学校がない今、受験勉強か生徒会の仕事くらいしかやることがなく暇なんだろう。1人でフラフラどこか出掛けるタイプでもなさそうだし。
『いつこっち帰ってくるの?』
「明後日帰る予定です」
『明後日か、長いな』
「そんなに寂しいですか」
『うん』
わざとからかったように返したつもりだったが、会長に更に上手な言葉で返されて会話が途切れた。
この後、何かオチがあるんだろうなと思っていると予想通り言葉が続く。
『体育祭の仕事溜まってるから早く帰ってきて』
「…暇って言いましたよね?さっき」
『そうだっけ?』
惚ける会長に溜め息しか出ない。
というか夏休みでも忙しいのかよ、この人。
2日後、嫌になるほど顔見なきゃいけないんだろうと思うとこれ以上電話で話すのが嫌になってきて、適当なところで会話を切り上げると目の前には広げられた課題が目に映った。
先程までのやる気はどこへやら。
ペンを握る気にもなれず、俺はそっと問題集を閉じると早めにベッドに身体を潜り込ませたのであった。
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