猫被りも程々に。

ぬい

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August

02

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「わー!すっごい綺麗!」

水族館は夏休みということもあり、デート中や遊びに来ている学生で大賑わい。
青く輝く大きな水槽に水島は瞳を輝かせて、ヒールを鳴らしながら引き寄せられるように駆け寄った。

今のところ前来た時と大きく変わった様子はない。
水槽の配置や展示されている魚は記憶の通りで懐かしさを感じながら水島の後ろを歩き進める。

暫く楽しそうにしている水島を横に魚の解説を読んでいるとペンギンのコーナーで「なんか橘くんに似てるね」と話し掛けられた。

「いや、似てねーよ」
「似てるよ。ほらあの子とか」

そう言って水島の指差したペンギンは1人でのんびり歩いている。どう見ても俺に似ている要素はない。一体どういう感性をしているんだろう、この子。

色々突っ込みたくなったが、口には出さずそのまま通路を歩くと次は熱帯魚のコーナーだった。

「綺麗な魚たくさんいるね」
「…この魚、水島っぽい」
「えー、どれ?」

仕返しがてら目の前を泳ぐクマノミを指せば、水島は水槽に近付き目を凝らす。魚の姿を確認するとすぐに眉を少し下げて目を細めた。

「全然似てないよ~」
「泳いでる感じとか似てるだろ」

水島が女の子の中でも小柄な方だからかもしれない。
特にちまちま泳ぎまわる姿が似ている気がする。

そんなくだらない会話を繰り返し、熱帯魚のコーナーを抜ければもう順路も終盤。

入口で見た夏休み専用イベントの魚と触れ合えるコーナーや写真を撮れるコーナーが見えてくる。触れ合えるコーナーは子供たちに大人気で人だかりが出来ていたが、逆に写真コーナーは割と空いていた。

「折角だから一緒に撮ろうよ」
「うん」

良かったら撮って貰えませんか?と水島がそこら辺の人に携帯を渡し、パネルの前に立つと少し緊張してしまう。
こんな風に写真を撮ることがないのでどうしたらいいのか分からない。

とりあえずピースを作ってカメラに構えるとシャッター音が鳴り響いた。その後、水島が駆け寄り写真を確認すると一緒に撮ってくれた人にお礼を言ってその場を離れる。

「楽しかったねー」
「うん、あっという間だった」
「ね。もうこんな時間だよ~」

その言葉で時間を確認すると既に17時を回っており、最後にお土産コーナーを見て帰ろうという話になった。

お土産コーナーにはぬいぐるみやらお菓子やら色々綺麗に並べられている。
その中で家族用に手早くクッキーの入った箱を手に取るとまだ水島は悩んでいたようで適当に暇つぶしがてら店内をぐるりと回った。

そしてそこで目に付いたのは海の生き物が可愛らしく描かれたマグカップ。
柄が5種類くらいあり、色がグラデーションになるように綺麗に並べられている。

(…一応会長にも買っとくか…)

夏祭りの時ゲームのカセット貰ったし、マグカップならあげても多分困らないだろ。

ダイオウグソクムシみたいな変な生き物がいたらそれにしてやろうと思ったが、並んでいるのはどれも定番の可愛い生き物で無駄に悩んでしまう。
無難にイルカにしとくかと思っていると後ろから水島に声を掛けられた。

「マグカップ買うの?」
「買おうと思ったんだけど、柄どうしようかなって」
「どれも可愛いもんね。誰にあげるの?」
「この前会った先輩。今回色々お世話になったから」

あの綺麗な先輩かぁーと思い出したように呟くと水島が手に取ったのは紺色でペンギンの描かれたマグカップ。

「これなんてどう?橘くんに似てるし」
「…そう言われると微妙だな」
「うそうそ。ほら、色が紺だから男の人使いやすそうだなって」

流石女の子。選ぶ観点が勉強になる。
そう言われると確かに薄く可愛い水色で描かれたイルカよりもペンギンのほうが良いかもしれない。

「じゃあ、それにするわ。サンキュ」
「うん。私、外で待ってるね」

どうやら水島は俺が悩んでいる隙に会計を済ませたらしかった。待たせるのも悪いのでペンギンのマグカップの箱を持つと素早くレジに並ぶ。

会計の順番が来る前にふとレジの付近に飾られている小さな白いイルカのストラップを目に入った。
値段も500円程度と手頃で今日は色々気使ってもらった水島へのお礼に丁度いいかもしれない、なんて考える。

ゆっくり悩む暇もなく順番が待ってきて、先程選んだものと一緒にストラップの会計も済ませると、俺は水島の待つ外へと急いで向かった。
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