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October
03
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文化祭の手伝いが終わり、図書室に向かうにはいつもより遅い時間。
他の生徒はもう帰宅しており、図書室にはただ1人。
椅子に座り、静かに本を読む姿は見慣れていても息を飲むくらい綺麗だった。
「要先輩」
「…湊。お疲れ様」
「お疲れ様です」
俺に気が付いた要先輩は本から視線を外して読んでいた本に栞を挟んで閉じる。
こうして会うのはテスト明け初めて。机の上に鞄を置いて、要先輩の隣の席に座ると早速今回のテスト結果について聞かれた。
「テストどうだった?」
「お陰様でいい点取れました。要先輩は?」
「僕もバッチリ。流石に1位は無理だったけどね」
その口ぶりから今回もまた会長が1位だったんだろう。
要先輩はよく久石副会長と僅差で競ってるイメージだったから、バッチリということは今回勝つことが出来たのかもしれない。
3年生の成績上位者を見る度に俺は2年生でよかったと心の底から思う。絶対3年生だったら今の順位はキープ出来てない。白木レベルの人が複数もいると思ったら想像するだけで胃が痛くなってきた。
「そういえば、凌とお見舞い行ったんだってね」
「ああ、そうなんですよ。要先輩にも話そうと思ってたんですけど……テストですっかり忘れてて…」
要先輩から突然紫さんの話題を出され、俺は思わず嘘を吐く。
テストで忘れていたのなんてのは嘘。あの日の出来事を思い出したくなくて、テストを理由に話すのを先延ばしにしていただけだ。
本当は今だってあまり触れたくない。
そんなこと言えるはずもなく、ただひたすらこの話題を切り上げてくれることを願った。そのお陰か、要先輩は暫く自分が手に持っている本の表紙に注目したまま何も話さない。
会話はこれで終わったのだと安堵し、別の話題に切り替えようと口を開きかけた瞬間。
要先輩が本をそっと撫でながら、目を細めて尋ねた。
「凌とはあれからどう…?」
「…どうって、」
「何もなかったの?」
少し伏せていた顔を上げて手元の本から視線を移し、見つめられ、何もかも見透かされているような眼差しについ目を逸らしてしまう。
「無い、ですよ…別に」
「…そっか」
明らかに震えた声と動揺している視線に気付いている筈なのに要先輩はそれ以上何も言わなかった。
誰もいない図書室で時計の秒針だけが鳴り響く。気まずさにじんわりと手汗が滲む。
先程まで何か話そうと思っていたのに忘れてしまって、なかなか口を開くことが出来ない。
それでも頭を必死に動かしてようやく話そうとしていたことを思い出し、震えないように「勉強教えてもらったお礼、何がいいですか?」と問い掛けると要先輩は困ったように笑った。
「毎回律儀だなぁ。いいよお礼なんて」
「良くないですよ。逆に気になりますし」
「…うーん、そうだなぁ…」
前回は半年前だからお礼がなんだったか忘れてしまったが、大体はお昼ご飯を奢るか、本をプレゼントするかの2パターン。今回も例外はなく、恐らく結局その2つのどちらかになるだろう。
目を伏せていつもの調子で悩む要先輩の姿に俺はやっと平常心を取り戻し、この2つ以外に他にいい案がないか考える。
「…今回は違うものにしようかな」
必死に考えている間、珍しく先に口を開いたのは要先輩だった。
要先輩がこうして何かを提案してくるのは珍しい。
毎回自分の気が済まないからと半強制的にお礼をしているだけで本のプレゼントもお昼ご飯奢りも提案したのは俺。だから何をお願いされるのか全く検討もつかない。
でも人柄から無茶なことを頼まれるかもしれないという不安はなく「何にするんですか」と聞き返そうとして口を開きかけるも、それは出来ずに消えた。
「お礼これでいいよ」
一瞬重なった影は離れ、要先輩の顔が睫毛の数まで数えられそうなくらいの距離。まだ微かに残る唇の感触。
そこでようやく自分が今何をされたのか知る。
「…な、んで…」
「随分と野暮なこと聞くんだね」
気付いてたくせに。
そう言って笑われると何も言い返せなかった。
何がずるいのかと聞けずに終わった放課後。
あれから互いに掘り返すこともなく有耶無耶で終わった筈だったのに。先程の行動であの日言われた言葉の意味を確信せざるを得ない。
「…あの、俺…」
「まだ答えなくていいから」
夕暮れはすっかり消え、窓の外は真っ暗。
気が付けばもう7時前で不気味なくらい静かな部屋にチャイムが響き渡る。
開きかけた台詞は要先輩によって遮られ、行き場を無くす。
今から何を言うか分かっていた様に先延ばしされてしまい、俺はこれ以上は何も言うことが出来なかった。
他の生徒はもう帰宅しており、図書室にはただ1人。
椅子に座り、静かに本を読む姿は見慣れていても息を飲むくらい綺麗だった。
「要先輩」
「…湊。お疲れ様」
「お疲れ様です」
俺に気が付いた要先輩は本から視線を外して読んでいた本に栞を挟んで閉じる。
こうして会うのはテスト明け初めて。机の上に鞄を置いて、要先輩の隣の席に座ると早速今回のテスト結果について聞かれた。
「テストどうだった?」
「お陰様でいい点取れました。要先輩は?」
「僕もバッチリ。流石に1位は無理だったけどね」
その口ぶりから今回もまた会長が1位だったんだろう。
要先輩はよく久石副会長と僅差で競ってるイメージだったから、バッチリということは今回勝つことが出来たのかもしれない。
3年生の成績上位者を見る度に俺は2年生でよかったと心の底から思う。絶対3年生だったら今の順位はキープ出来てない。白木レベルの人が複数もいると思ったら想像するだけで胃が痛くなってきた。
「そういえば、凌とお見舞い行ったんだってね」
「ああ、そうなんですよ。要先輩にも話そうと思ってたんですけど……テストですっかり忘れてて…」
要先輩から突然紫さんの話題を出され、俺は思わず嘘を吐く。
テストで忘れていたのなんてのは嘘。あの日の出来事を思い出したくなくて、テストを理由に話すのを先延ばしにしていただけだ。
本当は今だってあまり触れたくない。
そんなこと言えるはずもなく、ただひたすらこの話題を切り上げてくれることを願った。そのお陰か、要先輩は暫く自分が手に持っている本の表紙に注目したまま何も話さない。
会話はこれで終わったのだと安堵し、別の話題に切り替えようと口を開きかけた瞬間。
要先輩が本をそっと撫でながら、目を細めて尋ねた。
「凌とはあれからどう…?」
「…どうって、」
「何もなかったの?」
少し伏せていた顔を上げて手元の本から視線を移し、見つめられ、何もかも見透かされているような眼差しについ目を逸らしてしまう。
「無い、ですよ…別に」
「…そっか」
明らかに震えた声と動揺している視線に気付いている筈なのに要先輩はそれ以上何も言わなかった。
誰もいない図書室で時計の秒針だけが鳴り響く。気まずさにじんわりと手汗が滲む。
先程まで何か話そうと思っていたのに忘れてしまって、なかなか口を開くことが出来ない。
それでも頭を必死に動かしてようやく話そうとしていたことを思い出し、震えないように「勉強教えてもらったお礼、何がいいですか?」と問い掛けると要先輩は困ったように笑った。
「毎回律儀だなぁ。いいよお礼なんて」
「良くないですよ。逆に気になりますし」
「…うーん、そうだなぁ…」
前回は半年前だからお礼がなんだったか忘れてしまったが、大体はお昼ご飯を奢るか、本をプレゼントするかの2パターン。今回も例外はなく、恐らく結局その2つのどちらかになるだろう。
目を伏せていつもの調子で悩む要先輩の姿に俺はやっと平常心を取り戻し、この2つ以外に他にいい案がないか考える。
「…今回は違うものにしようかな」
必死に考えている間、珍しく先に口を開いたのは要先輩だった。
要先輩がこうして何かを提案してくるのは珍しい。
毎回自分の気が済まないからと半強制的にお礼をしているだけで本のプレゼントもお昼ご飯奢りも提案したのは俺。だから何をお願いされるのか全く検討もつかない。
でも人柄から無茶なことを頼まれるかもしれないという不安はなく「何にするんですか」と聞き返そうとして口を開きかけるも、それは出来ずに消えた。
「お礼これでいいよ」
一瞬重なった影は離れ、要先輩の顔が睫毛の数まで数えられそうなくらいの距離。まだ微かに残る唇の感触。
そこでようやく自分が今何をされたのか知る。
「…な、んで…」
「随分と野暮なこと聞くんだね」
気付いてたくせに。
そう言って笑われると何も言い返せなかった。
何がずるいのかと聞けずに終わった放課後。
あれから互いに掘り返すこともなく有耶無耶で終わった筈だったのに。先程の行動であの日言われた言葉の意味を確信せざるを得ない。
「…あの、俺…」
「まだ答えなくていいから」
夕暮れはすっかり消え、窓の外は真っ暗。
気が付けばもう7時前で不気味なくらい静かな部屋にチャイムが響き渡る。
開きかけた台詞は要先輩によって遮られ、行き場を無くす。
今から何を言うか分かっていた様に先延ばしされてしまい、俺はこれ以上は何も言うことが出来なかった。
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