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October
中間試験前
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あれから1週間が経過して、10月に入った。
そろそろみんなテスト2週間前を切ったのでぼちぼちテストモードに切り替わる。
あれから要先輩は先生に結構な頻度で呼び出されていてなかなか会えずじまい。それに加えてあと2人いる藤田のどちらにも話しかけることが出来ず非常に困っていた。
一応部活やクラスまでは分かったものの、二人とも学年が違う。1年生と3年生なので教室に行く勇気もなく、あまりに接点がなさすぎてなんて話しかけていいのか分からない。
先輩後輩相手に急に紫さんの話を持ち出して違った時のことを考えるだけで眉間にシワが寄ってしまった。こういう時にコミュ力があればいいんだろうが今の俺には難易度が高すぎる。
もたもたしている場合ではないのは分かっているが、他の協力者がすごく欲しい。
(やっぱりあの時会長に協力してもらえばよかった…)
夏休み最終日に会長からの申し出を断ったのは間違いだったと今更後悔する。
部屋のカードキーも返していないし、電話番号もわかる。確かに頼もうと思えば頼めるが、ほぼ毎日話していた会長とは当分まともに話していない。そんな状況で1度断ったはずの協力を頼むのは難しい。
さてどうしたものか、と考えながら、返却された本を棚に戻しているとよく聞き覚えのある声が後ろから俺の名前を呼んだ。
「湊、今ちょっといい?」
「理久が図書室来るなんて珍しいな。どうした?」
「それがさー、居眠りしてたら課題出されちゃって…」
「…なるほど」
その言葉で今日の現代文の時間で寝ていた理久が放課後呼び出されていたのを思い出す。
どうやら出された課題は読書感想文らしい。おそらく俺に話しかけたのは、読みやすくて感想を書きやすい本を教えてくれと頼みたかったからだろう。
「こういうのとか書きやすいと思うけど。ストーリーも面白くて読みやすいし」
「流石図書委員長!あざっす!」
早く課題を終わらしたいのかどんな話かも聞かず本を借りるためにカウンターに向かった理久の後ろ姿を眺めているとまた後ろから聞き覚えのある声。
「どーも、久しぶりやな」
「…久我先輩」
静かな図書室だったが久我先輩が現れた瞬間、周りの生徒がヒソヒソと声を立てる。来るなら人がいない下校時間の後にして欲しい。
「今本借りてきた…って…風紀委員長…?」
「どーも」
「あ、どーも…」
早速本を借りて戻ってきた理久は風紀委員長の姿を見るなり驚いた様な表情をした後、ぎこちなく挨拶を軽くだけ交わす。
「俺課題あるからもう帰るわ。湊、まじでありがとな」
「おーまたな」
この場から逃げるように図書室を出ていった理久を見送った後、なんの用か聞こうと久我先輩の方を振り向くと何か考え込むような表情で図書室のドアを見つめていた。
「今の子、名前なんていうん?」
「宮前理久ですけど…」
「…ミヤマエリク…」
そんな変わった名前でも容姿でもないと思うが、ドアを見つめていたのは理久に何か気になる部分があったらしい。久我先輩は暫く固まったまま動かなかった。
「理久がどうかしたんですか?」
「いや、どっかで見たことある顔やな~と思って」
「校内で見かけたとかではなく?」
「あー…そうかもしれへんな」
真剣な顔の割にこの話は軽く流され、話題を変えるように久我先輩に「そんなことよりも橘に聞きたいことがあってん」と手招きされる。
誰とでも基本距離が近いせいか比較的ファン層が緩い久我先輩とはいえ、あんまり近付いて話したくはなかったが、ここに滞在されてもめちゃくちゃ迷惑なので素直に耳を近付けた。
「キミら別れたん?」
「…どこの情報ですかそれ」
「俺の勘?ほら、橘と会長の雰囲気とか」
確かにかれこれ2、3週間は話していないが、まさか久我先輩にそんなこと聞かれるとは思わなかった。
普段から学園内で話している訳でもないし、久我先輩の前で話したことなんて会議以外では全くない。人間観察に長けているのか、勘が鋭いのか。久我先輩の場合は両方だろうな。
俺にわざわざこんなことを聞いてきたということはもう既に会長には同じ質問をしていると踏み、「会長はなんて言ってました?」と尋ねると久我先輩は眉間に皺を寄せて言った。
「会長は別れたって言うてた」
「もう答え出てるじゃないですか」
「そうなんやけど、なんか納得出来んなーって。なぁ、なんで別れたん?何が原因?喧嘩?もしかして体育祭?」
「まぁ…色々ありまして…」
そういう質問責めは会長にして欲しい。
生憎俺にはその手の質問に答えるほどの余裕はないので、適当にあしらえばめちゃくちゃ不満げな顔をされた。
いくら久我先輩でも人の恋路にしつこく突っ込む気は無いらしく聞きたいという気持ちを抑えて一旦諦めた様子で机に項垂れる。
解放されたと安堵し椅子にもたれかかった瞬間、俺はあることに気が付いた。
人脈広くてコミュ力も高い。しかも風紀委員長をしている久我先輩なら藤田について調べられるんじゃないか。
いや絶対調べられる。しかもこの人なら頼みやすいし断わられる可能性も低い。
「あの…久我先輩に頼みたいことがあるんですけど…」
「…なんや」
思いついたが吉日。
早速話を切り出すと物凄く嫌そうな顔で頬杖をつかれた。
今頼れるのはこの人しかいない。
俺は物凄く丁寧に紫さんのことから息子さんのことまで事情を話し、藤田先輩と藤田くんの母親の名前を調べて欲しいとお願いすると案外真面目に聞いていた様子の久我先輩は頬杖をやめて、今度は腕を組んだ。
「藤田ねぇ…。風紀委員長特権で調べられんことはないけど…」
「やった…!ありがとうございます!」
「それこそ会長に頼むことやったと思うけどな~」
まだそんなことを言う久我先輩にあえて突っ込まず。椅子から立ち上がった久我先輩が「これは貸しやからな。覚悟しときや」とひらひらと手を振って、悪そうな笑みで去っていった。
確かにタダで頼んだつもりは無いが、俺が想像もしてないこと頼まれそうで後が怖い。
(でも、これでテスト勉強も文化祭の準備も心置き無く取り掛れるし…まあいいか…)
久我先輩が協力してくれるのはかなり大きい。
だから今ならどんな頼みでも聞いてあげられる気がする。不安要素が一気になくなったことで気持ちが大きくなった俺は早速締め切りが迫っている文化祭の書類にペンを走らせた。
そろそろみんなテスト2週間前を切ったのでぼちぼちテストモードに切り替わる。
あれから要先輩は先生に結構な頻度で呼び出されていてなかなか会えずじまい。それに加えてあと2人いる藤田のどちらにも話しかけることが出来ず非常に困っていた。
一応部活やクラスまでは分かったものの、二人とも学年が違う。1年生と3年生なので教室に行く勇気もなく、あまりに接点がなさすぎてなんて話しかけていいのか分からない。
先輩後輩相手に急に紫さんの話を持ち出して違った時のことを考えるだけで眉間にシワが寄ってしまった。こういう時にコミュ力があればいいんだろうが今の俺には難易度が高すぎる。
もたもたしている場合ではないのは分かっているが、他の協力者がすごく欲しい。
(やっぱりあの時会長に協力してもらえばよかった…)
夏休み最終日に会長からの申し出を断ったのは間違いだったと今更後悔する。
部屋のカードキーも返していないし、電話番号もわかる。確かに頼もうと思えば頼めるが、ほぼ毎日話していた会長とは当分まともに話していない。そんな状況で1度断ったはずの協力を頼むのは難しい。
さてどうしたものか、と考えながら、返却された本を棚に戻しているとよく聞き覚えのある声が後ろから俺の名前を呼んだ。
「湊、今ちょっといい?」
「理久が図書室来るなんて珍しいな。どうした?」
「それがさー、居眠りしてたら課題出されちゃって…」
「…なるほど」
その言葉で今日の現代文の時間で寝ていた理久が放課後呼び出されていたのを思い出す。
どうやら出された課題は読書感想文らしい。おそらく俺に話しかけたのは、読みやすくて感想を書きやすい本を教えてくれと頼みたかったからだろう。
「こういうのとか書きやすいと思うけど。ストーリーも面白くて読みやすいし」
「流石図書委員長!あざっす!」
早く課題を終わらしたいのかどんな話かも聞かず本を借りるためにカウンターに向かった理久の後ろ姿を眺めているとまた後ろから聞き覚えのある声。
「どーも、久しぶりやな」
「…久我先輩」
静かな図書室だったが久我先輩が現れた瞬間、周りの生徒がヒソヒソと声を立てる。来るなら人がいない下校時間の後にして欲しい。
「今本借りてきた…って…風紀委員長…?」
「どーも」
「あ、どーも…」
早速本を借りて戻ってきた理久は風紀委員長の姿を見るなり驚いた様な表情をした後、ぎこちなく挨拶を軽くだけ交わす。
「俺課題あるからもう帰るわ。湊、まじでありがとな」
「おーまたな」
この場から逃げるように図書室を出ていった理久を見送った後、なんの用か聞こうと久我先輩の方を振り向くと何か考え込むような表情で図書室のドアを見つめていた。
「今の子、名前なんていうん?」
「宮前理久ですけど…」
「…ミヤマエリク…」
そんな変わった名前でも容姿でもないと思うが、ドアを見つめていたのは理久に何か気になる部分があったらしい。久我先輩は暫く固まったまま動かなかった。
「理久がどうかしたんですか?」
「いや、どっかで見たことある顔やな~と思って」
「校内で見かけたとかではなく?」
「あー…そうかもしれへんな」
真剣な顔の割にこの話は軽く流され、話題を変えるように久我先輩に「そんなことよりも橘に聞きたいことがあってん」と手招きされる。
誰とでも基本距離が近いせいか比較的ファン層が緩い久我先輩とはいえ、あんまり近付いて話したくはなかったが、ここに滞在されてもめちゃくちゃ迷惑なので素直に耳を近付けた。
「キミら別れたん?」
「…どこの情報ですかそれ」
「俺の勘?ほら、橘と会長の雰囲気とか」
確かにかれこれ2、3週間は話していないが、まさか久我先輩にそんなこと聞かれるとは思わなかった。
普段から学園内で話している訳でもないし、久我先輩の前で話したことなんて会議以外では全くない。人間観察に長けているのか、勘が鋭いのか。久我先輩の場合は両方だろうな。
俺にわざわざこんなことを聞いてきたということはもう既に会長には同じ質問をしていると踏み、「会長はなんて言ってました?」と尋ねると久我先輩は眉間に皺を寄せて言った。
「会長は別れたって言うてた」
「もう答え出てるじゃないですか」
「そうなんやけど、なんか納得出来んなーって。なぁ、なんで別れたん?何が原因?喧嘩?もしかして体育祭?」
「まぁ…色々ありまして…」
そういう質問責めは会長にして欲しい。
生憎俺にはその手の質問に答えるほどの余裕はないので、適当にあしらえばめちゃくちゃ不満げな顔をされた。
いくら久我先輩でも人の恋路にしつこく突っ込む気は無いらしく聞きたいという気持ちを抑えて一旦諦めた様子で机に項垂れる。
解放されたと安堵し椅子にもたれかかった瞬間、俺はあることに気が付いた。
人脈広くてコミュ力も高い。しかも風紀委員長をしている久我先輩なら藤田について調べられるんじゃないか。
いや絶対調べられる。しかもこの人なら頼みやすいし断わられる可能性も低い。
「あの…久我先輩に頼みたいことがあるんですけど…」
「…なんや」
思いついたが吉日。
早速話を切り出すと物凄く嫌そうな顔で頬杖をつかれた。
今頼れるのはこの人しかいない。
俺は物凄く丁寧に紫さんのことから息子さんのことまで事情を話し、藤田先輩と藤田くんの母親の名前を調べて欲しいとお願いすると案外真面目に聞いていた様子の久我先輩は頬杖をやめて、今度は腕を組んだ。
「藤田ねぇ…。風紀委員長特権で調べられんことはないけど…」
「やった…!ありがとうございます!」
「それこそ会長に頼むことやったと思うけどな~」
まだそんなことを言う久我先輩にあえて突っ込まず。椅子から立ち上がった久我先輩が「これは貸しやからな。覚悟しときや」とひらひらと手を振って、悪そうな笑みで去っていった。
確かにタダで頼んだつもりは無いが、俺が想像もしてないこと頼まれそうで後が怖い。
(でも、これでテスト勉強も文化祭の準備も心置き無く取り掛れるし…まあいいか…)
久我先輩が協力してくれるのはかなり大きい。
だから今ならどんな頼みでも聞いてあげられる気がする。不安要素が一気になくなったことで気持ちが大きくなった俺は早速締め切りが迫っている文化祭の書類にペンを走らせた。
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