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August
出会い
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あれからお盆も過ぎて姉の墓参りも終わり、夏休みも終盤。
俺は実家から学園に戻ったや否や会長の部屋に向かう。
電話であんな会話をしたのもあって正直行きたくなかったが、母からお土産にと食べ物を預かっていたからそうもいかなかった。
チャイムを1度鳴らしてからカードキーをかざし、部屋に入れば夏休み入った頃と特に変化はなく会長は椅子に座ってパソコンを眺めている。
「…どうも」
「俺が連絡するまで来ないと思ってた」
「そうしたいのも山々だったんですけど、母からお土産を預かったので」
久しぶりに顔を合わせた訳だが特にぎこちなさはない。会話はいつものように淡々と進む。
色々お土産の入った紙袋を渡せば、会長は携帯を開いて素早く指を動かし始めた。多分母にお礼のメッセージを送っているのだろう。
その作業の後、紙袋の中身を確認すると大体のものは把握出来た様だが水族館のマークが書かれた箱だけは検討つかなかったらしい。
それだけ紙袋から取り出すと俺に不思議そうに尋ねた。
「なにこれ」
「水島と水族館行った時のお土産です」
「へえ、ありがとう。開けていい?」
「どうぞ」
箱を開封し、出てきた紺色と白で描かれたペンギンのマグカップを確認すると「ペンギンだ、可愛い」と会長は柄を眺めた。
水島の見立て通り、色が紺だから描かれた動物が可愛くても会長に似合う。
「生徒会室で使お」
「…マジでやめてくれません?」
恥ずかしいから部屋で使えよ。
そんな俺の願いも虚しく、マグカップはもう一度箱に収納されると会長の学校の鞄へと消えた。そして代わりとばかりに溜まっていた書類を目の前に出される。
「これ俺からのお礼」
「全部体育祭の書類ですか」
「うん」
書類の内容は競技に流すBGMだとか競技のプログラムだとか体育祭一色。
お礼でもなんでもないただの嫌がらせである。
というかもう体育祭という響きが嫌だ。全部破り捨ててやりたい。
流石にそういう訳にも行かず、ノロノロと重い手で書類を手に取る。椅子に座ろうとすると会長にコーヒーと言われたので苛立ちながら既に机に置いてあるコップを回収するとコーヒーメーカーのスイッチを押した。
暫くはそんな日々を過ごしながら会長の部屋に通いつつ。
それから8月入って行けなかった分を埋めるようにもうすぐ退院する要先輩のお見舞いに結構な頻度で顔を出していた。
要先輩は「そんなに来なくていいのに」なんて言うが行って図書委員の話や学校の話をすると嬉しそうな顔をするのでついつい足を運んでしまっている。
その状態が1週間ほど続き、病院へと足を運んでいたが、今日はいつもと状況が違った。
「…なにこれ」
ある日要先輩の病室に向かう途中。
白い手紙のようなものが落ちており、思わず独り言が口から漏れた。
拾って表と裏を確認するも何も書かれておらず、ただただ真っ白でシンプルな封筒。
もしかしたら落とした人が近くにいるかもしれないとキョロキョロ周りを見渡すと案の定、向こう側から歩いてきている点滴スタンドを持った30代後半くらいの女の人が右往左往していた。
「…もしかして、これ落としました?」
「あ、あった…!ありがとう。探してたの…!」
嬉しそうに手紙を握り締めているので余程大切なものだったんだろう。
「お礼にジュース奢るわ」とまで言われてしまい、強く断ることが出来ずにそのままたくさん自販機のある休憩室へ連れて行かれることとなった。
「今日は誰かのお見舞い?」
「はい、学校の先輩が入院してて…」
「まあ。それは大変ね」
「でも秋には退院できるみたいです」
話してみると見た目よりも少し落ち着いた印象。
随分と顔が整っているから若く見えるだけなのかもしれない。パッと見30後半くらいかと思ったが、もしかしたら母と同い年くらいの可能性もあるかも。
冷たいココアを飲みながら他愛のない話をしているとあっという間に時間が過ぎる。
この人の話が上手いのか、それとも話が合うのか。
年齢が離れているにも関わらず時間を忘れるほど楽しんでしまっていた。
そんな時間も目の前の女性は検査の時間が来てしまったことで終わりを迎える。
「あなた、名前は?」
「湊です。橘湊。えっと…」
「私は紫っていうの。ごめんね、自己紹介遅れちゃって」
綺麗に微笑みながら「湊くん、今度またお話させてちょうだいね」と言われると随分と年が離れている俺でも少しドキッとしてしまう。
うちの母親とは全然違う。きっと育ちの差だな。
母が聞いていたら思いきり殴られそうなことを思いながら、俺は残りのコーヒーを飲み干すと俺はようやく先輩の病室に向かったのであった。
俺は実家から学園に戻ったや否や会長の部屋に向かう。
電話であんな会話をしたのもあって正直行きたくなかったが、母からお土産にと食べ物を預かっていたからそうもいかなかった。
チャイムを1度鳴らしてからカードキーをかざし、部屋に入れば夏休み入った頃と特に変化はなく会長は椅子に座ってパソコンを眺めている。
「…どうも」
「俺が連絡するまで来ないと思ってた」
「そうしたいのも山々だったんですけど、母からお土産を預かったので」
久しぶりに顔を合わせた訳だが特にぎこちなさはない。会話はいつものように淡々と進む。
色々お土産の入った紙袋を渡せば、会長は携帯を開いて素早く指を動かし始めた。多分母にお礼のメッセージを送っているのだろう。
その作業の後、紙袋の中身を確認すると大体のものは把握出来た様だが水族館のマークが書かれた箱だけは検討つかなかったらしい。
それだけ紙袋から取り出すと俺に不思議そうに尋ねた。
「なにこれ」
「水島と水族館行った時のお土産です」
「へえ、ありがとう。開けていい?」
「どうぞ」
箱を開封し、出てきた紺色と白で描かれたペンギンのマグカップを確認すると「ペンギンだ、可愛い」と会長は柄を眺めた。
水島の見立て通り、色が紺だから描かれた動物が可愛くても会長に似合う。
「生徒会室で使お」
「…マジでやめてくれません?」
恥ずかしいから部屋で使えよ。
そんな俺の願いも虚しく、マグカップはもう一度箱に収納されると会長の学校の鞄へと消えた。そして代わりとばかりに溜まっていた書類を目の前に出される。
「これ俺からのお礼」
「全部体育祭の書類ですか」
「うん」
書類の内容は競技に流すBGMだとか競技のプログラムだとか体育祭一色。
お礼でもなんでもないただの嫌がらせである。
というかもう体育祭という響きが嫌だ。全部破り捨ててやりたい。
流石にそういう訳にも行かず、ノロノロと重い手で書類を手に取る。椅子に座ろうとすると会長にコーヒーと言われたので苛立ちながら既に机に置いてあるコップを回収するとコーヒーメーカーのスイッチを押した。
暫くはそんな日々を過ごしながら会長の部屋に通いつつ。
それから8月入って行けなかった分を埋めるようにもうすぐ退院する要先輩のお見舞いに結構な頻度で顔を出していた。
要先輩は「そんなに来なくていいのに」なんて言うが行って図書委員の話や学校の話をすると嬉しそうな顔をするのでついつい足を運んでしまっている。
その状態が1週間ほど続き、病院へと足を運んでいたが、今日はいつもと状況が違った。
「…なにこれ」
ある日要先輩の病室に向かう途中。
白い手紙のようなものが落ちており、思わず独り言が口から漏れた。
拾って表と裏を確認するも何も書かれておらず、ただただ真っ白でシンプルな封筒。
もしかしたら落とした人が近くにいるかもしれないとキョロキョロ周りを見渡すと案の定、向こう側から歩いてきている点滴スタンドを持った30代後半くらいの女の人が右往左往していた。
「…もしかして、これ落としました?」
「あ、あった…!ありがとう。探してたの…!」
嬉しそうに手紙を握り締めているので余程大切なものだったんだろう。
「お礼にジュース奢るわ」とまで言われてしまい、強く断ることが出来ずにそのままたくさん自販機のある休憩室へ連れて行かれることとなった。
「今日は誰かのお見舞い?」
「はい、学校の先輩が入院してて…」
「まあ。それは大変ね」
「でも秋には退院できるみたいです」
話してみると見た目よりも少し落ち着いた印象。
随分と顔が整っているから若く見えるだけなのかもしれない。パッと見30後半くらいかと思ったが、もしかしたら母と同い年くらいの可能性もあるかも。
冷たいココアを飲みながら他愛のない話をしているとあっという間に時間が過ぎる。
この人の話が上手いのか、それとも話が合うのか。
年齢が離れているにも関わらず時間を忘れるほど楽しんでしまっていた。
そんな時間も目の前の女性は検査の時間が来てしまったことで終わりを迎える。
「あなた、名前は?」
「湊です。橘湊。えっと…」
「私は紫っていうの。ごめんね、自己紹介遅れちゃって」
綺麗に微笑みながら「湊くん、今度またお話させてちょうだいね」と言われると随分と年が離れている俺でも少しドキッとしてしまう。
うちの母親とは全然違う。きっと育ちの差だな。
母が聞いていたら思いきり殴られそうなことを思いながら、俺は残りのコーヒーを飲み干すと俺はようやく先輩の病室に向かったのであった。
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