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第四十三話 星屑機関

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 少し雑談めいた空気になってしまったがその後、予定を組んだ僕達は一旦解散した。エレーナとミルルさんは宿に戻り、最終確認をするとのことだった。僕とシエルはすでに全部準備が終わっていたので、管理小屋に戻って攻略前の最後の余暇を過ごした。

 翌日。町を覆う朝靄に少し肌寒さを覚えながらシエルの墓前でしゃがみながらボーっと芝生を眺めていると、隣にシエルもしゃがみ込んできた。

「何してるの?」
「ん-? なんもしてないよ。暇だなって」
「これから大迷宮を攻略しに行くとは思えない発言に大魔導士ちゃんは驚いているよ」
「頼りになる人達がいっぱい居るから全然緊張とかしてないんだよね」

 昨夜もとても寝付きが良かった。起きるまで夢も見ずにぐっすりだった。

「適度な緊張も大事って話もあるけどまぁ、流石にダンジョンに入ったらこんなに腑抜けてないから安心してくださいよ」
「頼むよ、ご主人様」
「任せて、大魔導士様」
「あら、もう揃ってたの?」

 なんて雑談しているとエレーナの声がした。顔を上げるといつものおっきい魔女チックな帽子と激しめな露出を覆う軽鎧を身に付けたエレーナが立っていた。いつもの杖を背中に結いながら、腰に数本の短めの杖がや薬品がぶら下がっている。完全武装だ。

「おはよう、ございます」

 その後ろからミルルさんが顔を出す。いつもはかぶっていないフードをかぶっておめかししている。……訳ではなく、そういう装備のようだ。エレーナのように何本も杖は装備していないが、いつもの杖ではなく、少し装飾が増えていて魔法効果が高そうだ。それに珍しく細剣を提げていた。

「剣は珍しいですね」
「あ……これ、剣なんですけど、剣じゃないんです」

 どういうことだろうと首を傾げていると、ミルルさんがそっと剣を抜く。細やかな装飾が施された鍔。其処から伸びるのは刃ではなく、剣の形に細く削られた木だった。

「木剣ってことですか?」
「切れないですけど……いくつかの攻撃魔法が刻印されているんです」

 見れば薄くではあるが木剣部分にも装飾が刻まれている。魔法陣のようにも見える。

「使用回数があるので……使い捨てですが、神聖樹の枝から作られているので、強力です」
「なるほど。じゃあ頼りにしちゃいますね」
「ふふ……任せてください」

 控えめなドヤ顔が微笑ましい。ドヤ顔というよりはどや顔のニュアンスだ。ドヤ顔はどっちかと言えばエレーナの方が合ってる気がする。

「今、失礼なこと考えたでしょ?」
「いや? さ、そろそろ行きましょっか」

 鋭いエレーナをサラッと躱し、どっこいしょと立ち上がる。立ち上がれるくせに甘えるように手を伸ばすシエルの手を引いて立たせ、墓地を下る。

 シエルがハッキングを終えたお陰で道中にモンスターは一切出現しない。まったく警戒しない進行は完全に散歩だ。先頭を歩くシエルは鼻歌を歌ってるし、僕は歩きながらバフ魔法の練習をしてるし、僕の後ろのエレーナとミルルさんは雑談している。

 そんな調子でダンジョン探索……いや、ダンジョン散歩は続き、あっという間にカタコンベへと続く通路までやってきた。

「此処を進むとカタコンベか……エルダーリッチー以来だなぁ」
「一応ある程度は支配下に置いてはいるけれど、これから先はさっきまでみたいにお散歩は出来ないから気を付けてね。今も主導権の奪い合い中なので」

 腰に提げた剣に手を伸ばす。左右にぶら下がっているのはもはや愛剣となりつつある腐毒剣『インサナティー』と、この間このダンジョンの地下で見つけた緋水剣『レヴィアタン』だ。

 何故か拾う剣が全部短剣なので、開き直ってこうして腰の左右に提げて両方使えるようにしている。ちなみに腰の後ろにも普段から使っている灰火剣『ハイドラ』と無形剣『インサナティー』がぶらさがっている。使える物は全部持っていきたい病な僕はどれかを選んで持っていくという賢いことが出来なかった。

 逆手に抜いたレヴィアタンをくるりと回し、順手に持ち替える。緋色に怪しく光る刃は見る者の心を赤く塗りつぶすような魅力がある。

「えっと、古城までの直通ルートを構築出来たって聞いてたんですけど……」

 刃に見惚れているとエレーナがおずおずとシエルに尋ねていた。

「うん、ハッキングは成功してるし完了してるよ。ただ流石にあっちのテリトリーに入ったら向こうも頑張ってくるって感じでね。今ちょっとせめぎ合ってる」
「じゃあ此処からは僕が先頭を歩くね。シエルは主導権を奪われないように、そっちに集中してもらって、エレーナとミルルさんは後方からの支援をお願い」
「了解よ」
「わかりました」

 サッと前に出て少し魔素を吸収し、徐々に魔法を構築していく。

「『星屑機関ゾディアック・エンジン』、起動。『感覚鋭敏化エアロ・サーチ』」

 自動で魔素を集める魔法、『星屑機関』を発動してしまえば自由にバフ魔法を発動することが出来る。体外に放出してしまうと魔素量が減って魔法の維持が出来なくなるのが欠点ではあるが、自分の体内に留め続けるバフ魔法だけなら、魔素を吸収し続けることで半永久的に発動することが出来る。半永久的なのは、僕の集中力が続く限りだからだ。

 僕に取り込まれ続ける魔素が星屑のようにキラキラと輝く。そして魔法が発動することで魔素は消費されるが、取り込みながら減り続けるのでやがて均衡し、それは円を描き始める。

「綺麗じゃない」
「ありがとう」

 魔法の大先輩のエレーナに褒められると素直に嬉しい。頑張った甲斐があるというもんだ。

 感覚鋭敏化の魔法のお陰で敵の気配を肌で感じることが出来るようになる。普段はそんな達人みたいな感覚ないので、修行中はこの魔法の世話になりっぱなしだった。

「さて、さっさと目指そう」

 皆に、自分に言い聞かせる。これから先はシエルの攻防も激化するだろうから、大急ぎで行かねばならない。

 気合いを入れ直した僕は先頭を行く為の一歩を踏み出した。
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