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山岳都市ケインゴルスク篇

第71話 ダンジョン連続攻略

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 『灰黄回廊』は旧市街を抜けた先の林の中にある。1本だけ大きな木があるのだが、その洞を下って行くと途中からダンジョンになる。其処が灰黄回廊だ。

 中は緩やかな螺旋を描く下り坂で、道中出現するモンスターを倒しながら下っていき、最下層のボスを倒すだけの簡単なダンジョンだ。出現モンスターは主にオーク系の幅のデカい奴が多い。狭くはないが、通路を塞ぐので多少厄介だが、挟まれなければそれ程難しいことはない。特筆すべき点もない、楽勝なダンジョンだった。

 次に向かった『朱の絶壁』は林を山脈側へと向かった先にある。突如現れる巨大な地面の裂け目が、そのままダンジョンに変化している。山脈と林を裂く様に真一文字に開いた裂け目は幅広く、幾つかの吊り橋を渡らせているが、裂け目の中に棲むモンスターの所為でそれもボロボロだ。なので定期的に駆除と補修が行われているが、手が足りず、結局1つの橋をずっと修理しながら使っている状態だ。そもそも此処を渡る人も少ないが。

 そんな絶壁は壁伝いに降りることが出来る。慎重に手をつく壁も、踏み締める足元も、血のように赤い。細い道を下り、崖下を目指すのは『階下の断崖』を思い出す。彼処は結構開発が進んでいて楽だったが、此処はそんな甘い場所ではない。剥き出しの道を下り、その最中、モンスターの襲撃もあった。ペーグルでおなじみのペネトレイトイーグルを始めとした、各種鳥系モンスターの修礼は非常に厳しいものがあった。

 しかしそれを防げるのがこの俺、錬装術師が持つ魔剣……いや、魔盾だ。以前作った物だが、既に錬装していた『浮遊』と『風属性』に、追加で『衝撃緩和』と『軽量化』の盾を錬装した。元々持っていた盾から移した特性だ。これのお陰で手ぶらでペーグル及び各種鳥さん達の襲撃から身を守ることができた。

 崖下に下り、地べたを手に入れた俺達にはもう、怖いものはない。順調にモンスターを駆除しつつ、崖の間に巨大な巣を作っていたボスである大蜘蛛、『グランドイーター』を退治した。こんな名前の癖に鳥モンスターを喰って生きているのだから許せないところがあったので念入りに討伐しておいた。

 最後に向かったダンジョン、『亜竜窟』。此処が一番、厄介な場所だった。

「おい、振り切ったか!?」
「なんとか……!」
「あぁー……だっる!」

 狭い通路、と言ってもそれは俺達ではなく、ドレイク達に対してだが、岩を強靭な爪と牙で抉り取ったような通路を駆け抜け、漸く見つけた分かれ道を一か八か、右方向へと走り、そして今、地を這う四足歩行の亜竜『テラドレイク』の追っ手を振り切った。

「まぁ暫くは大丈夫でしょう……ちょっと休憩しましょう」
「そうだねー……ヴィンセント、見張りお願い」
「あぁ、任せろ」

 テラドレイクは厄介なモンスターだ。強靭な四肢で地を這い、硬い鎧のような鱗で身を包み、鋭い爪と牙で侵入者を襲う。そしてこのダンジョンのボスである。

 テラドレイクが駆けまわるこのダンジョン、『亜竜窟』は少し特殊で、これまでのダンジョンに共通して存在していたボス部屋というものがない。しいて言えばこのダンジョン全体がボス部屋だ。奴はその強靭な四肢と体力でこのダンジョン全域を駆けまわっている。本来であれば慎重に捜査し、先に見つけて先攻で仕掛けるのが一番良いのだが、俺達は不運なことに、入って初っ端、出会い頭に対面してしまった。

 厄介なモンスターに端から遭遇してしまい、地理もクソもないこの地中のトンネルで俺達はギリギリ、散り散りにならずに逃げていた。
 これまで何度となくモンスターと相対し、これを難無く処理してきた俺達が何故こうも情けなく、無様に逃げ回っているのかというと、これまた厄介なことにテラドレイクが持つ『特性』が攻略の難易度を跳ね上げていた。

 俺達がテラドレイクに関して事前に得ていた情報では魔法が効かないという特性を持っていた。珍しい特性だ。『魔法無効』なんてのは装備品に付与されていれば問答無用で概念特性扱いされる代物だ。予期せぬ邂逅で驚きはしたが、特性を知っていた俺達は剣を抜き、斬りかかる。

 しかし剣は弾かれた。見えない壁のような透明な膜に阻まれ、あまつさえ反射されたのだ。斬りつけた斬撃と同じ角度で反射してくる斬撃を間一髪で躱した俺達は即刻引き返すことにした。……が、運悪くというか、流石というか、テラドレイクの取り巻きである亜竜達がダンジョンの出入口側に立ち塞がり、撤退が難しかった。残された道は1つ、初手から分岐されている道のテラドレイクが居ない側だった。

「しかし……本当に厄介なモンスターね」
「まさか特性が変動するモンスターなんて聞いたことないですよ……」

 テラドレイクから逃げ、距離を取ったところで一時的に身を隠せたタイミングで鑑定の力でテラドレイクを視た。其処から得られた情報は『地殻変動』という特性だった。どうやら時期的なものや、磁場などで無効化される特性が変動するらしい。此奴の情報として出回っていた『魔法無効』は、その当時の特性だったというわけだ。

「現在の特性は『物理無効』。といっても魔法攻撃は通路を塞ぐ危険性もある」

 見張りをしていたヴィンセントが注釈してくれる。そう、だからこそ俺達は逃げ回っていた。魔法を放っても崩れない、通路ではなく広場を探し求めていた。

「どんなに入り組んでても、迷子になっても、テラドレイクさえ倒せばその場で転移できる。もう少し頑張ろう」
「ですね……よし、ヴィンセント、交代する」
「あぁ、頼んだ」

 こうして休憩と逃亡、探索を繰り返した結果、俺達は漸く大広場といえる場所を見つけ、何とかテラドレイクを倒すことが出来た。魔法さえ使える条件が揃えばモンスター自体はそれ程難儀する強さではないのが救いだった。ただ、事前情報を鵜呑みにし過ぎて戸惑っていたらあっさり死んでいただろう。

 やっとの思いでテラドレイクを始末し、ご褒美部屋でアイテム諸々をさっさと回収してケインゴルスクへと戻ってきた時はもう夜だった。予約していた店はギリギリで入店出来たものの、あまりゆっくりできなかったので店主にお願いしてまた来店することを約束した。
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