架空の雲

笹森賢二

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#02 柿と梨

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   ──君と僕と。



 それは何気ない日だった、と思う。休日の公園のベンチ、少し離れた場所で子供達は新設された遊具に取り付いている。舞う風は冷たく、恐らく冬になったのだろうとぼんやりと思っていた。
 何気ない日、ハズだった。
「んい? どうしました先輩。」
 隣に柿を貪る女性、少女か、が居なければ。
「いや、食い終わったら口拭けよ。」
「あ、すみません。えへへ、柿とか梨とか好きなんですよ。」
 少しだけ、控え目に柿を頬張る。それでも果汁は彼女の口に、頬に飛び散る。
「干し柿も好きなのか?」
「食感は嫌いですけど、味は良いです。」
 そんなもんか、そんなものだろう。
「実はさっき梨も買ったんだが。」
 一人では食い切れない、そういう前に少女は目を輝かせた。
「口拭いてから食えよ。」
「ひゃひぃ。」
 溜め息を吐きながら折り畳み式のナイフを開き、梨の皮を剥く。元来の使い方ではないだろうが、心なしかナイフは嬉しげに見えた。
「先輩?」
「ん? 何だよ、流石に梨の皮は食えないだろ?」
「いえ、そうじゃなくてですね、」
 ナイフの事を言っているのだろう。わざわざ応える事でもない。
「いーから黙って食ってろ。」
 八等分にして種を取る。それ位なら俺でもできる。
「こ、これ、食べて良いんですか?」
「じゃなきゃ剥かねぇだろ。」
 置物が無い。仕方なく昼に食べた弁当の蓋にナイフが切り上げてくれた梨を並べた。
「後は好きに、」
 言い終わる前に半分程食われていた。
「ん~、最高ですコレ。」
「そうか。なら良かった。」
 ナイフを畳みながら溜め息を吐いた。ついでにウェットティッシュを取り出す。
「ほら、顔拭け。」
「あ、はい、にひひ、いっつも妹とかお母さんにも言われるんですよ。」
 作った側からすればそんなに嫌な事でもない。食われない方が嫌だ。
「お前は素直だな。」
「ですかねぇ? あ、でも先輩のお弁当が美味しいのは嘘じゃないです。」
 口元に残っていた梨の果汁を拭きとる。視線の意味は、今は知らなくて良いだろう。とりあえず小さな頭を小突いた。
(了)
 
 


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