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第六章 ケモノたちの宴

(51)ケモノたちの宴 その4-1

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「まさかこんな日が来るとはねぇ」

 孝はキャリーバッグの中から何やら機材を取り出して、部屋でセッティングを始めている。

「孝兄ぃにはかなわないな」

 兄が広縁の外を眺めながら煙草をふかす。

「優菜ちゃん相変わらずたばこダメ?」

 孝が脚立を組み立てながら兄に話しかける。

「家の中だけはダメって相変わらずうるさいよ。まぁヘビーってわけでもないから」

「でも、アレの後って吹かしたくなるじゃん」

「まぁ、そこは我慢かな。優菜にはかなわないし。そういえばさぁ……」

 兄は煙草を始めた若かりし頃、終わった後に一服しようとしたところ不意に泣き出したエピソードを懐かしそうに語る。

「あの顔されちゃぁ、兄としては、ね」

「優菜ちゃんホント優しいからねぇ。君のことが心配で仕方なかったんだね」

「まぁ、分かってはいるけどね」

 兄は照れながら窓の外を観察している。

「あ、カメラの準備できたら一つ貸してくれる?」

「今出したところだけど使う? すぐ撮れるよ」

 孝は手のひらサイズのビデオカメラを兄に渡す。

「今日、何台仕込むの?」

 兄は笑いながら孝に問う。

「いろんなとこ撮りたいからねぇ。ほら、おたくの方でも期待されてるんでしょ。今回の企画」

「仕事だと思うとあれだから、その話はできるだけなしで頼むよ」

「そうだね。あくまでプライベートって感じじゃないと意味ないし」

 孝は頷きながら数台持ってきたビデオカメラを部屋の目につかない場所へセッティングする。

 兄は窓の外の下方にカメラを向け、撮影を始める。

「何が見えるか大体わかるけど、どんな感じ?」

 孝はニヤニヤしながら兄に問う。

「うん、いい絵が撮れてるよ。遠いのがちょっと残念だけど」

 兄は慣れた手つきでカメラの焦点を合わせていく。

「優菜ちゃんばかり撮っちゃだめだよ」

「わかってるよ」

 数分カメラを試すように回した後に映像をちょっと見返すと、若干優菜のシーンが多めのような……、感じがしたが、孝には黙っていた。

「戻ってくるタイミングもこれでわかるし。ま、一石二鳥ってとこ?」

「一石三鳥、四鳥にもなりそうだけど?」

 ふたりは笑いながら宴の準備を着々と進める。


 しばらくすると、旅館の案内人らしき人が部屋を訪れる。

「お食事のお時間とか、お片付けの手筈なんですが……」

 旅館の人間も大体理解しているらしく、一般の旅館のそれとは違う聞き方をする。

「もうすぐ出てくるだろうから食事は持ってきてもらっていいですよ。片付けもいつも通り我々である程度やって配膳室までもっていっておきます。朝も配膳室に置いておいてもらえばこちらで」

 孝が慣れた口調で案内人に話す。

「かしこまりました。ではいつも通り、そのように取り計らいます」

 それから一時間経たないうちに、部屋に夕食の準備が整う。

「向こうも終わったみたいだよ」

 兄がカメラを孝に返しながら言う。

「さてさて、どんな宴になりますことやら」

「長い夜になるのは確実かな」

「干上がるまでやるのは克也くんだけにしてほしいよ」

「まったく」

 ふたりは苦笑いしながら運ばれてきていたビールを一本だけ開けて軽く乾杯する。

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