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第四章 覚えてないの?

(39)覚えてないの? その4-2

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 愛子が夕食の後片付けをするのを克也も手伝い、ふたりでリビングで一休みする。そんな頃に愛子のスマホが鳴った。

「愛子? ごめんね。朝出れなくて」

 受話器に手を当て、克也に向かって「優菜からよ」と伝える。克也はニッと笑う。

「うん。大丈夫。いま? 平気。ちょうどご飯終わったところ。ん? 相談? ああ……全部解決したわ。真奈美さんのおかげで。……うん。大丈夫。隣に克也さんいるけど……
うん、わかった」

 愛子はウインクしながら克也にスマホを渡す。

「変わってって」

 克也は苦笑いしながら、愛子のスマホを受け取る。

「うまくやったみたいじゃない」

 優菜は嬉しそうに言う。

「優菜さんと真奈美さんのおかげですよ」

「ところで……さ」

 優菜が若干声を落として話し始める。

「はい? なんです?」

「昨日行った、ジャズバー。覚えてるよね」

「はい。いい雰囲気の店でしたね。愛子を連れて行きたいくらいです」

「その話なんだけど、今週末で、どうかなって思って」

 優菜は、さらに声量を落として話す。

「いいですね。でも、みんなでワイワイって感じの店じゃないですよね」

「うふふ。たしかに秘密の話をする場所よね」

「まだ何かあるんです?」

「アリアリよ。特に、克也くんにはね」

 小声で「私もだけど……」とつぶやいてるのが、はっきり克也にも聞こえていた。

「それは聞き捨てならないなぁ。分かりました。じゃぁ、昨晩と同じパターンで回ります?」

「それでいいわ。じゃ、愛子に変わって」

「はい」

 克也はウインクをして愛子にスマホを渡す。笑顔で愛子は克也からスマホを受け取る。

「愛子?」

「はい。変わったよ。……うん……、うん……、うん……、そうなんだ。私は良いよ。週末ね。何時くらい? ……うん。……うん。分かった。そのくらいに着くように行くよ。楽しみにしてる。じゃぁ」

 愛子は電話を切った。そして克也に向けて笑顔を見せる。

「週末、楽しみね」

「そうだね」

 自然と、二人の唇どうしが重なる。

 と、同時にまた愛子のスマホが鳴った。

「ん、もう! いいとこなのにぃ!」

 愛子はプンプン怒りながらスマホに出る。

「もしもし? あら、真奈美さん。今朝はありがとうございます。……はい。……はい。
なんとか。……ええ。いまご飯食べ終えて、……え? いやいや、気にしないでください。はい。優菜とも、さっき、……はい。……はい。…………週末……ですか? さっき金曜日の夜は優菜に取られちゃいました。……はい。……はい。…………三連休ですね。……はい。……はい。…………はい。ちょっと克也さんと相談してみます。きっと大丈夫だと……、え? 今ですか? 分かりました」

 スマホから耳を離すと、愛子は克也の顔を見る。

「真奈美さんからよ。今週末の予定なんだけど……」

 克也は笑顔で愛子に頷きながら言う。

「うん。スマホ、スピーカーに切り替えて」

「うん」

 愛子はスマホをタッチして、スピーカーから声が出るようにした。

「もしもし真奈美さん? スピーカーに切り替えたんでそのまま話してください」

『もしもし? あ、これで二人共聞こえるのね。便利な時代になったよねぇー』

「あはは……。で、お話ってなんです? 何か週末の計画とか。愛子も話してたけど、金曜は優菜さんに取られちゃってますよ」

『聞いたわぁー。まぁそれなら六人まとめてどっか行かない? って話してたのよ』

「六人ですか。ちょっと大掛かりな感じですね」

『場所とかは孝さんが全部アポ取ってくれるって。日にちと行くってことだけ決まればこっちは今日からでも動き出したいのよ。これから優菜のとこにもかけるし』

「なんか面白そうですし、ボクは良いですよ」

「私も構いません」

『決まりね。で、次の週末って三連休じゃない? ちょうどいいから二泊ぐらい行っちゃう?』

「急に行って、泊まれる場所あるんですか?」

『うふふっ。行ってからのお楽しみに。私は仕事で一回行ったことあるわ。』

「わかりました。それで構いません。土日の二泊ですね」

『楽しくなりそうー、じゅりゅ、あ、ゴメンね。変な音聞かせて。じゃ、このあと優菜にかけるから切るねー』

 ぷつっ、と音がして通話は切れた。ふたりで顔を見合わせて、そして笑顔になる。

「何か、急に楽しくなってきたね」

「うん。週末、本当楽しみ」

 愛子はスマホの電源を、えいっ、と声をあげてから切った。

「もう、ふたりの時間はじゃまさせないよっ」

 スマホに向かってかわいく説教する仕草をする愛子。それから克也の肩に両手を回してキスをせがむ。

「もう一回……」

 ちゅっ、ちゅっ……、ちゅっ……

 唇を重ね合う音がリビングに響く。何度か唇を重ね合ったあと、愛子が目を潤ませながら言う。

「今まで一度も入ったことなかったけど、今日はいいよね。一緒にお風呂」

「もちろん」

 ふたりは手を取り合いながら浴室に向かう。

 長い夜が始まる。
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