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第一章 ばれちゃった……
(3)ばれちゃった…… その1-1
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愛子たちの住むH町は、都内から一時間ほど離れたベッドタウンの典型で、中でも海沿いで住みやすいといわれている。昔から栄えている町ではあるが、主要道路や駅から程よく離れており、周囲は閑静な住宅街。その一角にある公団系の団地は、ごく最近リノベーションされ、新婚夫婦に人気だ。愛子たちは団地の南側の棟の三階の角部屋に結婚して越してきた。その隣が真奈美の住む部屋。愛子たちより三年ほど早く越してきたようだ。
真野愛子(まのあいこ)。夫の克也(かつや)とは二年前に結婚。会社の同僚であった克也が飲み会の帰りに愛子を誘いそのままプロポーズ。適齢期過ぎで焦っていたことも手伝い断る理由もなく即承諾だった。
新婚一年目は、周りが引くぐらいのいちゃつきぶりを見せつけていた夫婦だったが、二年目に入るあたりから徐々に落ち着くようになる。原因はお互いに言わないが、子どもを作りたくてもできない経済事情的なものが原因だろうと、ふたりにあまり近くない周囲の人間は見ていた。
もう一つ、社内でごくごく親しい人間に流れていた噂がある。夫の克也は、結婚前から遊び人の浮名があり、社内の女性とはほとんど寝たことがあるというフェイク情報まで飛び交っていた。もちろん愛子は知っていて、理解して結婚したのだろうと皆が見ていた。だが、実際一緒に暮らし始めてみると夫の帰ってこない夜の寂しさの辛さが時間が経つとともに膨れ上がり……。というものであった。
実は、こう言われてしまう愛子の方にも原因はある。会社でOLを始める前、つまり学生時代に、散々男性経験を積んだ過去があった。後者は、それを知っていたごくごく一部の人間が作った話だった。
――さかのぼること十二年ほど前の話。
当時二十歳であった猪野愛子(いのあいこ)は、大学の講義を終え、新宿駅の東口にそそくさと向かっていた。株価が低迷し世の中が深い闇の中に沈んでいたように見えていた時代、今ほど出会い系の規制も厳しくなかった。
『ホ別ゴムありイチゴでいいよー』
このあたりのルールは今とも変わらないのだろう。待ち合わせ場所に行く前に比較的清潔で広いパウダールームに向かい無造作にバックに詰めた「なんちゃって制服」に着替える。純白のブラウスと、エンジに水色のストライプが入ったスクールリボン、グレー基調の赤のストライプが鮮やかなチェック柄のプリーツスカート。紺のスクールソックスに何年か前まで履いていた学校指定の黒の革靴がリアリティを醸し出す。
愛子は着替えながら、明るいベージュのカーディガンのポケットに入れてあったピンク色のケータイを取り出してメールの内容を数秒で確認すると、早足で目的地へ向かった。
「アルタの前の階段……っと。あ、あれかな?」
どうやら目的の人物を見つけたらしい。はち切れそうなワイシャツに腰回りがかなり太目な男性がハンカチで汗を吹きながら立っていた。
「えっと、アイちゃんだよね?」
「はい。行きましょうか」
目的の人物を見つけるやいなや、愛子は男性を促して歩き出す。
不釣り合いなカップルは歌舞伎町の喧騒の中に一瞬で飲み込まれていった。
真野愛子(まのあいこ)。夫の克也(かつや)とは二年前に結婚。会社の同僚であった克也が飲み会の帰りに愛子を誘いそのままプロポーズ。適齢期過ぎで焦っていたことも手伝い断る理由もなく即承諾だった。
新婚一年目は、周りが引くぐらいのいちゃつきぶりを見せつけていた夫婦だったが、二年目に入るあたりから徐々に落ち着くようになる。原因はお互いに言わないが、子どもを作りたくてもできない経済事情的なものが原因だろうと、ふたりにあまり近くない周囲の人間は見ていた。
もう一つ、社内でごくごく親しい人間に流れていた噂がある。夫の克也は、結婚前から遊び人の浮名があり、社内の女性とはほとんど寝たことがあるというフェイク情報まで飛び交っていた。もちろん愛子は知っていて、理解して結婚したのだろうと皆が見ていた。だが、実際一緒に暮らし始めてみると夫の帰ってこない夜の寂しさの辛さが時間が経つとともに膨れ上がり……。というものであった。
実は、こう言われてしまう愛子の方にも原因はある。会社でOLを始める前、つまり学生時代に、散々男性経験を積んだ過去があった。後者は、それを知っていたごくごく一部の人間が作った話だった。
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当時二十歳であった猪野愛子(いのあいこ)は、大学の講義を終え、新宿駅の東口にそそくさと向かっていた。株価が低迷し世の中が深い闇の中に沈んでいたように見えていた時代、今ほど出会い系の規制も厳しくなかった。
『ホ別ゴムありイチゴでいいよー』
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愛子は着替えながら、明るいベージュのカーディガンのポケットに入れてあったピンク色のケータイを取り出してメールの内容を数秒で確認すると、早足で目的地へ向かった。
「アルタの前の階段……っと。あ、あれかな?」
どうやら目的の人物を見つけたらしい。はち切れそうなワイシャツに腰回りがかなり太目な男性がハンカチで汗を吹きながら立っていた。
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「はい。行きましょうか」
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