高時が首

チゲン

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第13幕

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 照隠と由茄は山へ駆け入った。
 西の小川宿に出れば、北へ向かう支道があるはずだ。そうすれば迂回うかいして、元の道へ戻ることもできる。
 だがこの辺りから、徐々に地面の起伏は激しくなり、樹木もしげきだす。西へ向かえば向かうほど、山が深くなる。
 どこをどう駆けたのか、覚えていない。この辺りになると不案内なのだ。とにかく今は、安全な場所まで逃げることで頭がいっぱいだった。
 照隠は時折、由茄の様子を窺った。
 慣れない山道のせいか、由茄は何度も足を滑らせ、転びかけていた。
 疲労の色も濃い。
「やはり是が非でも、あの村で休ませるべきだった」
 照隠は己が浅はかさを悔いた。由茄は心配をかけまいとして、気丈に振る舞っていただけなのではないか。
 二人の間が離れるようになっていた。
「少し休もう」
 尾根道の途中で腰を下ろすと、由茄は大木の幹にもたれて激しく息を吐いた。
 声を出す気力もないようだ。照隠は黙って、腰の水筒を差しだした。
「様子を見てこよう」
 追っ手の姿は見当たらなかった。
 日が暮れる前に、小川宿の方に出られるだろうか。
 追っ手がいないことを確かめて戻ると、由茄は首桶を抱えたまま、軽い寝息をたてて眠っていた。
 十九の娘の寝顔だった。いつものりんとした面差しでなく、童女のようにあどけない顔をしていた。
 もし幕府が倒されなければ、由茄は高時の庇護ひごの下で幸せに暮らせていたのではないか。照隠は天を仰ぐ。
 小さなうめき声をあげて、由茄が目を覚ました。寝顔を見られていたことに気付き、頬を赤らめる。
 照隠は微笑を浮かべた。
 そのとき風に乗って人の話し声が聞こえた。由茄を茂みにひそませ、様子を窺う。
 男が二人、登ってきている。こちらに気付いている様子はない。大蔵宿で二人を捕らえようとした男たちだった。
 誰かの陰口を叩きあっている。人遣いが荒いだの、態度が偉そうだの。
 照隠は男たちの背後に回り込んだ。
 手刀を首に当て、一人、倒す。
 もう一人の男は咄嗟に声をあげたが、こちらも同じように一撃を当てて沈ませた。二人とも気絶していることを確認すると、照隠は急ぎ足で由茄の所へ戻った。
「追っ手が近くまで来ておるようだ」
 由茄は口元を引きしめると、立ち上がって首桶を抱え直した。
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