イェルフと心臓

チゲン

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第三部 人間とイェルフ

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 シュイは山肌を駆け抜けていた。
 銀色に輝く美しい髪を、頭の後ろで無造作むぞうさたばねている。そのせいで、先のとがった耳がはっきり覗いていた。
 滝糸のような銀髪と尖った耳は、シュイがイェルフ族の娘であることの証だった。
「バカな奴ら」
 シュイは鼻で笑った。
 乱雑に生えた木々の合間や、凹凸おうとつが激しい岩の斜面を、軽やかに疾走しっそうしながら。
 その後を、複数の人影が追ってくる。その手には狩猟用の弓が握られている。
 しかしシュイは、ましらごと俊敏しゅんびんだった。追っ手の遥か前方に姿を見せたと思うと、瞬く間に背後に現れるなど、完全に相手を手玉に取っている。
 そうして、彼らが右往左往うおうさおうしている様を、高みから見物しているのだ。
「あいつら……うわさで聞いた野伏とは違うわね」
 追っ手は五人。恐らくふもとの村の猟師だろう。本物こそ見たことないが、戦闘に慣れた野伏なら、さすがにもう少し熟練じゅくれんした動きを見せるはずだ。
「悪いけど、あたし、鹿や猪とは違うのよね」
 ここいら一帯は、けわしい山脈地帯である。
 山を下れば人間の集落が、登ればイェルフ族の里があった。
 シュイは、その里長の娘として生を受けた。
 父や兄たちの口癖くちぐせは「人間は野蛮で愚か」「人間の村には近付くな」だった。
 もう耳にたこができた。
 しかし、禁止されればされるほど、好奇心が刺激される。あの勇猛な父をして「近付くな」と言わしめる存在とは、如何いかほどのものなのか。
 それをこの目で確かめるため、言いつけを破り、こっそり麓の村に近付いたのだ。
 だが、不覚にも猟師に見付かってしまい、こうして追われる羽目になった。
 もちろん、逃げようと思えばいつでも逃げられる。
 この山に精通しているシュイにとって、人間の猟師をくなど、赤子の手をひねるも同然だった。
 やはり父の言う通り、人間とは愚鈍ぐどんな生き物のようだ。
 沢の上流に差しかかったとき、シュイは鼻歌さえ口ずさんでいた。
 だが、その余裕が油断をまねいた。
 足元の岩が不意に崩れた。
 悲鳴をあげる間もなく、シュイの体は沢を転がり落ちた。
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