竜剣《タルカ》

チゲン

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第八幕 フランベルジュ

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 星がまたたいた。
 不意の夜風に、トキヤは思わず身震いした。
「今夜は冷えるわね」
 木窓を閉め、かんぬきを掛ける。
 壁のランプの灯火が、色濃く浮かび上がった。
「ねえ……お父さん」
「んん?」
 トキヤは、ちびちびと地酒をっている父トルファンに問いかけた。
「セカイちゃんたち、今頃どうしてるかなあ」
「さてなあ」
 酔っているかと思ったが、トルファンの返事は素面しらふだった。
「ミランさんがついてるから、大丈夫だと思うけど……」
「ほんとは、そのミランさんの方が心配じゃねえのか?」
「ちょっ……お父さんっ」
 トキヤが頬を染めながら父を睨みつける。それを見たトルファンがニヤリと笑う。
「図星だな」
「もう……これ没収っ」
 トキヤが、トルファンの手から地酒の木杯を奪い取ると、勢いよくあおった。
「おいっ」
 トルファンの目の前で、珠玉しゅぎょくの液体がみるみるトキヤののどに流し込まれていく。
「ああ……」
 情けない顔で、それを見つめるトルファン。
 数秒を待たずして、木杯の中身は空になった。
「ぷはぁっ!」
 トキヤが満足そうな息を吐く。
「最後の一杯が……」
「うーん、やっぱり今年のは格別だわ」
「最後の……」
「もう一杯飲んじゃおうかな」
「……おい、もうこれで今年の分は最後ですって言ってなかったか?」
「変なこと言う人の分が最後なんです」
「悪かった。この通り」
 テーブルに額をぶつけんばかりの勢いで、トルファンが頭を下げる。
「どうかお願いします。何とぞ、お慈悲じひを」
「だーめ。許しません」
「そんな……」
「ふふーん」
 厨房ちゅうぼうで地酒のおかわりをいで戻ってきても、トルファンはまだテーブルに突っ伏したままだった。
「まだ不貞腐ふてくされてる。もう、子供じゃないんだから……」
「許さなくていいんだぜ」
 トルファンが、くぐもった声でつぶやいた。
「お父さん?」
「もしこの先、おまえが誰かを恨まなきゃならなくなったら……俺を恨めよ」
「……何のこと?」
 顔を上げた父の、見たことのない悲しげな瞳に、トキヤは息を呑んだ。
すきあり」
 トルファンの手が伸びて、トキヤの手から木杯を奪い取った。
「あっ、ずるい」
「油断したな」
 再びニヤリと笑うと、浴びるような勢いでガブ飲みする。
「もう……せめて味わって飲んでよ、もったいない……」
前途ぜんとある若者たちに乾パーイっ」
 夜空でまた星が揺れ、ひとつ流れた。
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