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第三幕 酔いの月は標(しるべ)を照らす
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すっかり寝入りこけてしまったセカイを背負い、ミランとトキヤは家路に就いていた。
トルファンは、呑み足りないとかで、酒場に残った。朝まで戻ってこないだろう。
「よく寝てるわね」
ミランの背中で、セカイは気持ち良さそうに寝息を立てている。その頬を指でつついて、トキヤは微笑んだ。
「……ひどい目に遭った」
ミランは天を仰いだ。
あの光景を思いだしただけで、顔から火が出そうになる。
「ねっ、ミランさん」
「ん?」
「はい、これ」
トキヤが干し果実を差しだした。だが受け取ろうにも、セカイを背負っているため、両手が塞がっている。
「あーんして」
全てを心得ているかの如く、トキヤがにんまりと笑った。
「それは……」
思わずミランは困惑する。
「遠慮する」
「いいから」
「しかし……」
「あーん」
「トキヤ……」
「それとも、あたしの菓子が食べられないっていうの?」
トキヤが悪戯っぽく微笑む。
ほんのり上気した顔に、ミランは少し見惚れた。
「はい、あーん」
「……判った」
観念し、周囲に人がいないことを確認して、口を開ける。
そのなかに、トキヤが干し果実を放り込む。
「美味しい?」
「ああ」
「ホントに?」
「本当に」
「良かった……あたしにできるのは、このくらいだからさ」
「えっ?」
顔を上げたとき、トキヤはミランの少し前を歩いていた。
「いい月ね」
くるりとスカートを翻し、トキヤは舞った。
月明かりが、彼女の上に降り注ぐ。
標を照らすように。
それはとても裏腹に、ミランの心を縛りつけた。
トルファンは、呑み足りないとかで、酒場に残った。朝まで戻ってこないだろう。
「よく寝てるわね」
ミランの背中で、セカイは気持ち良さそうに寝息を立てている。その頬を指でつついて、トキヤは微笑んだ。
「……ひどい目に遭った」
ミランは天を仰いだ。
あの光景を思いだしただけで、顔から火が出そうになる。
「ねっ、ミランさん」
「ん?」
「はい、これ」
トキヤが干し果実を差しだした。だが受け取ろうにも、セカイを背負っているため、両手が塞がっている。
「あーんして」
全てを心得ているかの如く、トキヤがにんまりと笑った。
「それは……」
思わずミランは困惑する。
「遠慮する」
「いいから」
「しかし……」
「あーん」
「トキヤ……」
「それとも、あたしの菓子が食べられないっていうの?」
トキヤが悪戯っぽく微笑む。
ほんのり上気した顔に、ミランは少し見惚れた。
「はい、あーん」
「……判った」
観念し、周囲に人がいないことを確認して、口を開ける。
そのなかに、トキヤが干し果実を放り込む。
「美味しい?」
「ああ」
「ホントに?」
「本当に」
「良かった……あたしにできるのは、このくらいだからさ」
「えっ?」
顔を上げたとき、トキヤはミランの少し前を歩いていた。
「いい月ね」
くるりとスカートを翻し、トキヤは舞った。
月明かりが、彼女の上に降り注ぐ。
標を照らすように。
それはとても裏腹に、ミランの心を縛りつけた。
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