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三章 愛する者への誓い
二十二話 戦いの準備
しおりを挟む◇ 蓮side
夢魔族の集落から魔の森を抜け僕らは辺境の街が見えるところまで戻って来た。壁に囲まれた辺境の街……。
「もしも……魔物使いが魔の森を抜けて来たら……ここが戦場になるんですよね……」
僕の呟きに答えてくれたのはカルマさんの婚約者であるマリーさんだ。
「エスタの街の門は東西南北にそれぞれ一つ……南門であるここか、西門のどちらかでしょう。竜のいた山が何処にいたのかはわかりませんが、北はグレイベル皇国や他の街へ繋がる道で強力な魔物はいない筈です。ご存知でしょうが、東は王都へ続く道で更に魔物は少ないです」
確かに、僕らは東からやってきて東門から辺境に入った。魔の森は南門より更に南に
1.5kmほど進んだ先にある。
安全の為か魔の森と辺境の街までは、それだけの距離が取られていた。おそらく森から魔物が出てきたときに、対処しやすいように切り拓かれたのだろう。
「まずは……何処から訪ねましょうか?辺境伯ですかね?」
「父よりも先にギルド長、エレオノーラ様に会いに行きましょう。ギルド長に同行して頂いて、一緒に辺境伯邸へ行きましょう。エレオノーラ様なら急なお願いでも迅速に対応してくれますよ」
門を通り街に入った後、グレースさんは家とお店に知らせるということで別れた。
マリーさんの提案通り、ギルド長に面会し、事情を説明すると快く同行してくれるというので一緒に辺境伯邸を訪ねた。
「それでマリー、勇者様方にエレオノーラ殿まで一緒ということは、話は魔物使いの続報かな?」
応接室にフガロ辺境伯、マリーさん、僕、紗希、葵がソファーに座った。まだ席は残っているんだけど、テオとイルナは緊張からか龍の尾と一緒に立っていると言った。テオは図々しい性格だと思ってたけど緊張とかするんだな……。
「はい、魔物使いの襲撃の日時がわかりましたので報告と今後の相談に来ました。詳しくは来栖様から……」
マリーさんから会話のバトンを受け取り僕が引き継ぐ。
「単刀直入に言います。僕達は昨日まで魔王マグラの下で修業していました。魔王マグラの眷属の偵察により魔物使いが竜を従え強化したのち、辺境に向けて魔物を集めながら移動を始めました。到着まではおそらく三日か四日だそうです」
「魔王の一人と……ということは勇者様は勇者と魔王の秘密を知ったという事ですかな?」
「え、ええ……全てかはわかりませんが、魔王というだけで敵ではないという事は知りました」
「そうですか……成程……。私の放った偵察からの情報はまだ入っていませんが、その予定で準備を進めましょう。王都からも兵がこちらに向かっていると飛竜便で連絡が来ています。派遣された兵は明日には到着する筈ですからギリギリ間に合いそうですな……」
「ギルドでもCランク以上の冒険者には秘密裏に情報を流し、街を離れないように言ってあるさね。わたしも久しぶりに腕が鳴るってもんさ」
「ほう、エレオノーラ殿が再び剣を持つのか……不謹慎だが少々楽しみではあるな」
不敵な笑みを浮かべるフガロ辺境伯。エレオノーラギルド長はそんなに強いのだろうか……腕っぷしでギルド長になったとか?
「さて、話を戻そうか。魔物使いの話を聞いてからポーションや武器防具の蓄えを増やし、西と南の街壁の上にあるバリスタの調整と増設。この街の兵士の訓練の強化などを進めてきた。後は魔物使いの攻めてくる門の内側に臨時の治療所を作るので、治療院とギルドからも、回復魔法を使えるものをそこに配備させよう」
「わかったさね。回復魔法の使い手はギルドでも募集をかけようじゃないか」
「私も当日はそこに配置で構いませんか……?」
イルナが恐るおそる発言する。みんなが前線で戦うつもりでいるので後ろめたさがあるのかもしれないが、僕は元々彼女には後方支援してもらうつもりだった。
「そんなに怯えなくていいよ。辺境伯、彼女は僕らと共に修行してレベルやMPはかなり高くなっていますが、回復魔法が一番得意で次点で支援魔法が得意な子です。当日は彼女も治療所に配置してください」
「勿論構わないとも。各々が最大限活躍できる場所に配置されるべきだ。自主的に進言してくれる者は大歓迎だよお嬢さん」
フガロ辺境伯は先程の不敵な笑みではなく優しい微笑みをイルナに向ける。イルナもホッとしたように息を吐いた。
「まだ西か南かはわからんが、街壁の内側の出来るだけ門に近い位置に臨時の治療所とを配置する。壁の上にはバリスタと弓を得意とするものを配置、余裕があれば遠距離攻撃に優れた魔法使いも配置する。街壁の外に魔法使いを配置し、ポーションや武器類の換えもそこに配備する。その前方に木製と金属製が入り混じってしまうが杭付きの柵を設置する……それが防衛ラインになる。近接武器の冒険者は柵の前で戦うことになる」
……うん、問題なさそうに聞こえる。というかそんな専門知識がないから悪いところがわからないというのもあるけど。
「小型のマジックバッグを手配出来るかい?ギルドの方でも集めよう。兵の階級の高い者や冒険者のパーティーリーダーにポーション入りのマジックバッグを持たせるさね。それで柵の後ろまで戻る手間が省けるさね」
「ふむ、手配しよう……だが作る時間はないだろう。今ある分は出来るだけ集めさせよう」
「やってくれるだけありがたいさ。それに空間魔法持ちや、高ランク冒険者ならマジックバッグを持ってる奴もいるさね」
打ち合わせの結果イルナは臨時の治療所、紗希は街壁の上で魔法攻撃、僕とテオと葵が前線配置となった。
龍の尾の三人もシュゼットさんが治療所、エリシュアさんが街壁の上で弓と魔法、オリビアさんが前線ということになった。
更にマリーさんも街壁の上で攻撃魔法担当となった。
僕らは協力関係を結び、イルナとシュゼットさん、紗希とマリーさんとエリシュアさん、僕、葵、テオとオリビアさんがそれぞれ当日一緒に行動することにした。
辺境伯邸を後にし、その場で解散となった。龍の尾とマリーさんはマリーさんを家まで送ってからギルドで報酬を受け取るとのことだ。
「みんな、これから商店に行ってマジックバッグを買おう。あまりこのお金に手を付けたくなかったけど……」
「街と……美桜さん達を守るためよ、あの人も気にせず自分たちの為に使えって言ってくれたんだから、装備もポーションも最善を尽くべきよ」
美桜さんを奴隷にして手に入れたお金……それに手を付けることに後ろめたさを感じる僕に、紗希が許しをくれた。紗希の言う通りだ……みんなを守るために最善を尽くさないと……!
マジックバッグやポーション類を買う途中、僕は紗希にそっと近づき小声で話しかける。
「紗希、今日の夜は一人部屋に泊まってくれないかな?……そ、それでみんなが寝静まったら紗希の部屋を訪ねたいんだけど……いいかな?」
「え……あ……うんっ!わ、わかったわ……うん、わかった……待ってるねっ」
基本的に宿屋は一人部屋、二人部屋、六人ほど泊まれる大部屋だが僕らは男女で分けていた。男性二人は二人部屋を一部屋、女性の三人が二人部屋と一人部屋だ。
最初はイルナがずっと一人部屋でいいと言っていたが仲間外れは良くないということで、じゃんけんで決めるか自己申告で希望した女性が一人部屋を使うことになっていた。
これで今日は紗希が希望して一人部屋になってくれるはずだ……。
宿に移動し二人部屋を二つ、一人部屋を一つ取る。予定通り紗希が夕食とお風呂も済ませ寝室に入ってから一時間。テオも十分寝静まったのを確認してから僕はポケットからカルマさんに貰った媚薬を取り出した。
「久しぶりだし……いいよね」
カルマさんのおかげで性欲はほとんど元通りだ。紗希の唇を見るとキスをしたくなる。紗希のスカートから除く太ももに、その上にあるお尻に欲情もした。
それでも今日はたっぷり紗希と愛し合いたい。だから僕は媚薬の瓶をぐいっと一気飲みした。
そして僕は紗希の待つ部屋へ行き、音があまり響かないように扉を小さくノックする。
「……誰?」
「僕だよ、蓮だ」
小さく空いた扉から紗希が顔を覗かせる。目と目が合うと紗希の頬が赤く染まった。
「……ど、どうぞ」
「……あ、ああ」
お互い緊張している。まるで童貞と処女のカップルのようだった。
部屋に入ると紗希は薄手のシャツとズボン姿、この世界の寝間着のひとつだ。
僕のちんぽがぐぐぐっと勃ち上がり、ズボンを押し上げた。
「蓮……その……久しぶりだから緊張しちゃうね……」
「うん……待たせてごめんね……紗希」
僕はそっと紗希を抱きしめる。久しぶりに感じた欲求だ……好きなのに、どうして抱きしめたいとも思えなかったのだろうか……。
「あっ……蓮……♡ 」
あの時とは……美桜に迫られた時とは違う。明確に相手を求めている自分を感じて僕は何処か安堵した。
僕は紗希を横抱きに抱きかかえ、ベッドへと誘った。
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