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三章 愛する者への誓い

二十話 決意の別れ

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 二日間――俺は夢魔族サキュバスを抱き続け、順調にレベルを上げた。

 ヘルミーナもグレースもあんなことがあった翌日には俺に抱いて欲しいと言ってきたので出来る限り優しく抱いたけど、ヘルミーナに怒られてしまった。

 彼女はスパンキングされたり命令されることに快感を覚える性癖だが、俺自身が俺の中にある衝動に怯え、強烈な責めが出来ずにいた。

 SEXの最中に説教をされるという何とも情けないことがあった訳だが……やはりまだそういったプレイをするのは抵抗があった。
 何処までが相手の望みで、何処からが俺の衝動かわからなくなってしまったからだな。

 そしてこの集落に来て四日目の夜、俺達は揃ってマグラに呼び出されて、初日に長とマグラと会った家へと来ていた。

「さて、皆に集まってもらったのは他でもない……魔物使いが動き出したのじゃ」

「……いよいよですか」

「魔物使いを監視させている眷属によれば、魔物使いは龍へと進化を終えて、魔物を増やしながら辺境に向けて移動を開始、このままなら四日か五日程で辺境まで辿り着く予定じゃな」

 魔物使いが何処にいるかわからないが、魔物を連れ歩いているならそのくらいなのだろうか。

「それで……俺達はどうすればいい?」

「勇者殿一行はエスタの街に戻り、辺境伯や冒険者と協力して防衛に備えるのが良かろう。辺境伯相手なら我の名を使っても構わんのじゃ。魔物使いと龍、そして魔物の群れがおよそ千じゃ」

「わかりました……フガロ辺境伯にお伝えします」

 覚悟を決めた蓮君の言葉にマリーが口添えをする。

「カルマ様、私達も同行いたしましょう。その方が話がスムーズかと思います」

「カルマ殿は居残りじゃぞ。クロエ殿もじゃ」

 それは出来ない……と返事をしようとしたが、俺が口を開く前にマグラに遮られてしまった。

「カルマ様……どういうことですか……?」

「すまないマリー、グレース。俺はまだここでやらないといけないことがあるから、まだ帰る訳にはいかない」

「そんな……っ」

「カルマ殿とクロエ殿は魔物使いとの戦いの直前まで、ここで修業してもらうのじゃ。今のままでは戦力にはならんからの」

 マグラのその言葉に反応したのはグレースだった。

「戦力って……まさか、カルマ様にも魔物の群れと戦えというのですか!?」

「何を言っておる?……そも集落の夢魔族サキュバスを抱いてレベル上げをしたのは戦いに備えてじゃろうに」

「それは……身を守る力をつける為……では……ないのですね……」

 グレースは俺の顔を見て語気を弱めていった。そこへ蓮君が声を上げた。

「カルマさんが死ぬことで世界が滅亡するというなら……辺境へ戻らなければ……どうなるんですか?」

「さぁの、前にも言ったが、我が視ることが出来るのは一番可能性の高い未来じゃ。カルマ殿が戻らなければおそらく世界の滅亡はない……としか言えんのぅ」

「じゃあカルマさんはここに残った方がいいのでは……」

「カルマ殿はそれでも良かろう。じゃがマリー殿やグレース殿、他にもあの街にはカルマ殿と親しい者がおるじゃろう……お主等がもしも魔物使いを止められず辺境が魔物に呑まれた場合、カルマ殿は平然としていられるのかの?」

 マグラの言葉に皆一様に顔を伏せる。そんな中で蓮君は絞り出すように言葉を落とした。

「……それは……そうかもしれません」

「蓮君……少なくとも蓮君達や龍の尾、それに辺境伯おとうさん達は逃げたり出来ないだろう?……だったら俺も戦うよ」

 ……もう見ているだけは嫌なんだ。

 蓮君が顔を上げ彼と目が合った。そんな不安そうな目をするなよ、レベルもスキルも十分強くなってる――

 ――君はもう立派に勇者だよ。

 小さく頷いてやれば、蓮君も頷き返した。

「……わかりました、僕達は明日の朝すぐに街に戻ります。みんなもそれでいいね?」

「「ええ!」」「はい!」「おう!」

 こうして俺以外の全員が、翌朝に辺境の街へと戻ることになった。解散した後ヤリ家に戻る。今日は呼び出しもあったので夢魔族サキュバスさん達には帰ってもらっている。

 寝室に入り、ポケットからコインを取り出した。コインには何本ものヒビが入り、今にも崩れてしまいそうになっていた。





 そして翌朝、集落の入り口まで全員で移動した後、まずは蓮君達と別れの言葉を交わす。

「あ、そうだ、蓮君、久遠さん、藤堂さん、ちょっといいかな?」

「何ですか?」

「何よ?」

「何でしょう?」

 三人に集まってもらい小声で話しかける。

「実は俺のスキルが強化されて他人の性欲も増減させられるようになったんだ。だから君たちの性欲を日本にいた頃ぐらいに出来るんだけど、どうかな?」

「……お、お願いできますか?」

「ちょ……ちょっと蓮!?」

「わ、私も落として欲しいですね……」

「葵ちゃんまで……うぅ、わ、私もお願いできる……?」

 勿論と返事をして相談の上で指先に軽く触れ、蓮君の性欲を400%上げ、久遠さん、藤堂さんの性欲を30%まで落とした。

「一応元々の欲求に近くなったと思うけど、微調整が必要なら俺に言ってくれ。現状俺しか出来ないことだからな。女性も恥ずかしいかもしれないけど、医療行為くらいに思って欲しい」

「ありがとうございますカルマさん」

「ありがとうございます」

「……あ、ありがとう」

 俺は蓮君達、テオ君もイルナちゃんも含めて別れを済ませ、龍の尾の三人とも挨拶を交わす。
 その後マリーと向き合った。マリーをそっと抱き寄せ、俺は彼女の耳元で囁く。

「たとえ戦いになっても無理はしないでくれ……魔物使いは強い、特に龍とは戦わないようにしてくれ」

「……それほどですか……勇者様方でも危険なのですか?」

「ああ、龍はそれほど強いらしい……だから絶対に戦わないでくれ」

「……わかりました。カルマ様も無茶をしないでくださいね?」

 マリーを抱きしめる力を少し強める。
 久遠さんや藤堂さんが顔を赤くして黄色い声を上げているが……無視だ無視!

「ああ約束だ。俺が行くまで死ぬんじゃないぞ……愛してるよマリー」

「私も愛しています……あなた・・・♡ 」

 マリーとキスを交わしてから離れ、次はグレースも抱きしめる。

「グレース、マリーや家のみんなのこと頼んだぞ……」

「はい……カルマ様もどうかご無事で……」

「……ああ、ありがとうグレース……愛してるよ」

「はい……♡ お慕いしていますわ……♡ 」

 グレースともキスを交わし、俺は立ち去るみんなが見えなくなるまで見送った。

 俺の両隣にはクロエとマグラだけが残っている。

「よう耐えたのぅ。もう限界じゃろうに」

「うるせぇやい……惚れた女の前でくらい格好つけるのが男の子なんだよ……」

「にひひー♪男娼君もよく頑張ったかなー♪男の子って感じでクロエはいいと思うかなー♪」

 二人に揶揄われると少し恥ずかしいな。

「さて、カルマ殿も限界じゃろう、さっさと転移で飛ぶとするのじゃ」

 マグラは俺とクロエの手を握り、転移魔法を発動させた。どうでもいいけど大人サイズの俺とクロエの両手を握る身長140cm弱の少女……

「……親子にしか見えないな」

「にひひー♪こんな物騒な子供はお断りかなー♪」

「五月蠅いわっ!!……転移!」

 一瞬で景色が変わる。一面に広がるのは草木が生い茂る豊かな自然。その先には一軒の木造の家……というかログハウスだな。

 俺達は一先ず家に入る。リビングには木製のテーブルと同じく木製の長椅子。
 そしてこの暖かな雰囲気の家に似合わない、数本のベルトの付いた一人掛け用の椅子、ベルトは手足と腰を固定することが出来る……まるで拷問椅子だ。

「リミットは四日か五日……カルマ殿には厳しい修行になるがいいのかの?」

「勿論だ。俺は何をすればいい?」

「まずはそこの椅子で拘束させてもらうのじゃ、もう時間がないじゃろう?」

 確かにもう何時ヤツが出てくるかわからない。俺は素直に椅子に座り、クロエとマグラの手で拘束を受けた。

 マグラは椅子に座り拘束された俺の膝に跨り、さらに俺の首に腕を回す。随分魅力的な格好だが、如何せん相手は少女のような見た目だ、子供にじゃれつかれているような気分だな。

「むっ……なんじゃその顔は、我では興奮せんのか?」

「いや、まぁ可愛いとは思うけどさ……」

 お子様に欲情するほど変態じゃないんだよなぁ……

「むー……まあいい、お主には淫魔の力と吸血鬼の力があるという話はしたの?」

「ああ、そんでもって今にも淫魔の野郎が暴れ出しそうってのも付け加えておいてくれ」

「わかっておるわ、今からお主の中の吸血鬼の力を目覚めさせるのじゃ……そして間もなく淫魔の力も表に出てくるじゃろう」

 マグラは首に回した腕を解き、俺のポケットを探る……取り出したのはひび割れたコイン。クロエの結界魔法の力が込められ、奴を抑えつけているであろうコインだ。

「今から我の血を飲め。真祖の吸血鬼の血を飲めばお主の吸血鬼の力は間違いなく目覚めるじゃろう。吸血鬼と淫魔の力……両方がせめぎ合うじゃろうが、打ち勝て……!……お主の大切な人を思い出せ。……決して我を忘れるでないぞ」

 マグラはコインを右手で握り、左手の親指の爪で右手首を引き裂いた。ボタボタと血が滴る手首を俺の口元に寄せる。

「ふーー。負けて堪るかってんだ……」

 マグラの血の溢れ出る手首に吸い付く。ゴクゴクと飲み込んでいくと、血の味と熱に吐き気がするが、次第にそれも収まり徐々に美味いとさえ感じるようになってくる。

 ――ああ、もっと……もっと飲ませてくれ……

 夢中になって吸い付いていると、マグラは手を引いてしまった。ああ……っ!

「もっと……もっと血をっ……!!」

「馬鹿者が……呑まれるなと言ったじゃろう……!」

 喉が熱い……胃が熱い……もっともっとこの渇き・・を潤したい……!

「うがぁ……がぁぁぁぁああああっ!!!」

 少女が私の膝から降りて下がっていく……ああ、私の血が離れてしまう……っ!勿体ない……少女の血はとても美味しかったのに……

「ああ……私の血が……」

「我はお主の食糧ではないわ……まったく……では次じゃの……」

 少女が右手を開くと、そこには一枚のヒビだらけのコインがあった。少女はそのコインを親指と人差し指で挟み力を込める……ミシミシという音を立てコインが砕け散った。
 すると私の奥底から禍々しい気配が湧き上がってくる……。

「ほう……私とこの体を取り合うというのか……面白い」

「あーあー、髪まで真っ白になっちゃってー完全に呑まれてるねー」

 外野が五月蠅いが……まぁいい、今はこの邪魔な存在の掌握の方が先だ。

「くかかっ!お主は淫魔か……珍しいな。だが女を犯すことしか出来ん矮小な存在が、私に歯向かうなど笑止……!」

 淫魔の魂を私の魂に吸収する。大して苦労もせずに淫魔の力を取り込むことが出来た。

「くかかっ!やはり矮小よの……さて、次はこの拘束か……」

――鮮血の爪紅

 両手の爪が赤く染まり、溢れ出した血が鞭のようにしなり、拘束するベルトをズタズタに切り裂いた。

 立ち上がり少女と狐娘に向き合う……どうやら私と殺り合うつもりのようだ。

「やれやれ……拘束も意味はなかったようじゃの」

「クロエは暴力的な男はお断りかなー」

「ふむ……ここでは手狭であろう。表で殺ろうか……」

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