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一章 辺境の街の女達
閑話 魔王ちゃんの日常 ☆
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「ではの。また会おう」
そう言い残して私は魔王城の寝室へと転移してきた。すぐさま天蓋付きクイーンサイズのベッドに飛び込み枕を抱きしめうつ伏せで足をバタバタさせる。
「きゃああああ♡カルマ君かっこいいよぉーー♡」
私の事を怖がりながらも私の目をじっと見つめるその姿!震えながらも私に意見する者なんて何十年ぶりだろう!!やっぱり私の見る目は間違ってなかった!!
勝手に私の勇者を殺そうとするなんてグレースを殺してしまわないとって思ったのに、それをあんなに必死に止めるなんて……グレースの事そんなに気に入ったのかな?サキュバスが好きなのかな!?
「……それでもだ」って私に言いきったあの顔……黒と金色のオッドアイの瞳に見つめられるとドキドキして堪らず腰が砕けそうだったなぁ!とっさにイスを作って優雅に振舞ったけど腰砕けになってたのバレてないよね!!?
暫くベッドを蹴るようにバタバタして悶えていた足も次第に落ち着き、枕を抱きしめたまま仰向けに転がり、頬を緩ませながら天蓋をボーっと見つめる。
「ちょっときつく言いすぎちゃったけど、これくらいしないと私には届かないもんね」
それにカルマ君に渡した私の力も……本当はもっとたくさんあげたかったけど、一度にたくさん渡しすぎるとカルマ君が爆散してしまうかもしれないし、あのくらいなら平気だよね?ちょっと暫く様子を見ておかなきゃ、いや普段からずっと様子は見てるけどね!
「あぁーもっとカルマ君の近くに居たかった……もっとお話ししたかった……クロエったらすぐへばっちゃうんだから……」
それでも久しぶりに、本当に久しぶりに人と話した気がする。今夜はなんだかぐっすり眠れそうだ。そう思いながらゆっくりと意識が沈んでいく。
◇
翌朝、魔王は目を覚ますとボケっとした顔のまま起き上がり寝室を出る。史上最強の魔王イヴ=エスメ=スカーレットが住む魔王城は非常に歪な構造をしていた。
城の上層部は別名魔王フロアと呼ばれワンフロアを9つのブロックに分け。真ん中のブロックが螺旋階段となり下の階と繋がっている。残りの8つのブロックは8つの部屋になっており、螺旋階段の上には等間隔に8つの扉が設置されている。それぞれの部屋は螺旋階段と繋がる部屋と隣り合う部屋との扉が設置されている。8つの部屋が輪を描くように配置されているのだ。
ドーナツを8等分にしてそれぞれが部屋で真ん中の穴が螺旋階段と考えるとわかりやすいかもしれない。
それぞれの部屋は時計回りに寝室、更衣室、第一食堂、執務室、リビング、第二食堂、浴室、更衣室となっている。それを一日かけて一周回るのだ。
ちなみに第一食堂で朝食を食べ、執務室で仕事をして、昼食は第一食堂に戻り食事を取り、午後からまだ執務室で仕事をするので一度だけ部屋を戻る。その後はリビングで夕食までゆったり過ごし夕食を食べ、お風呂に入り、ネグリジェに着替え、寝室で眠る。
なぜこのような歪な生活をしているかと思うだろう。だがこれは魔王のスキルが強力過ぎるが故の処置だった。脱いだ服の回収や食事は結界魔法を使える侍女が行うが、魔王のHP吸収の範囲外で準備するのが常となっていた。食事や衣類は魔王が部屋に入る前に用意し、食後退室した後回収する。結界魔法が使えるのは万が一魔王に呼び出されたりしたときの魔王付き侍女の必須技能だった。
魔王は寝室から更衣室へ移動し用意されていた服に向かいながら服を脱ぐ。普段はネグリジェだが昨日はカルマに会いに行った時のドレスのままで寝てしまった。
足元から闇の触手が伸びて用意された着替えを空中で広げる。長年使い続けた闇魔法は無詠唱どころかもはや手足のように意識せずとも彼女の着替えをサポートするように動く。『こう動かそう』という思考ではなく『着替えをしたい』と思ったら触手が動いているような感覚だった。
着替えを終え脱ぎ捨てた服はそのままに次の部屋へ移動する。扉を開くとほかほかと湯気を立てる朝食が用意されていた。
まるで鳥かごの鳥のようなこの生活をもう100年以上続けている。歯向かうものは彼女に近づく前に死ぬ。彼女を崇拝する者は恐れ多いと近づくことはない。
産まれてから264年もの間、彼女はずっと人肌に飢えていた。
「うん。今日も美味しい」
彼女の食事は、この50年ほどはずっと一人の女性が作っていた。
およそ50年前に魔王城のある街の隣の隣の村の近くに強力な魔物が群れで出現し村は魔物に襲われた。多くの魔人族が犠牲になりつつ戦う中転移で現れた魔王が一瞬で魔物を血祭りにあげ、即座に転移で消えた。ほんの数秒の出来事で見逃したものもいたが数人はその姿を目にしていた。
両親を亡くした13歳の少女は目前に迫る魔物に死を覚悟したが、その魔物の向こう、村の広場の中心に忽然と現れた美しい女性の姿を彼女はしっかりと見ていた。その数瞬後、地面から真っ黒の棘が飛び出し魔物の顎を正確に貫き、その棘の先は魔物の頭から出ていた。それを認識した瞬間には闇の棘も美しい女性も消え去っていた。
生き残った村人からそれは魔王様だと教えてもらい、彼女は魔王様の役に立ちたいと決心する。結界魔法の使えない彼女は侍女にはなれなかったが魔王付きの食事番にはなることが出来た。以来50年一日も休まず魔王の為に三食作り続けた老婆ももう64歳になる。
魔王はその存在は知っているが会ったことはない。自分に助けられた感謝からずっとずっと私の食事を作り続ける老婆の話は知っていても、その老婆の名前も知らない。知っても意味などない。
「どうせ……みんな私を置いて死んじゃうんだもんね」
老婆の人生をかけた50年も、魔王にすればたった50年だった。264年の内の50年は少なくはないが、これからも続く数百年、あるいは数千年か……それに比べればたった50年だった。
一国の王としての仕事中も食事中もリビングで紅茶を飲み寛いでいるときも考えるのはカルマの事ばかり。一日が終わり寝室へ戻ってベッドへと寝転ぶ。千里眼のスキルを発動させ見るのは寝ているカルマの姿。
「はぁー早く触れてほしいよ……カルマ君……」
カルマの寝顔を見ながらそっと秘部に手を伸ばす。少しだけ濡れた秘部を指でゆっくりと擦る。
「はぁ♡……んっ♡……ぁあ♡……カルマ君♡……カルマ君♡」
次第に滑りの良くなる秘部に指を入れていく。自分以外誰も触れたことのない秘部。カルマに触ってほしい。カルマに舐めてほしい。カルマの肉棒を埋めてほしい。
「あっ♡あっ♡あっ♡いい♡カルマ君好き♡……もっと触って♡……カルマ君大好き!♡」
カルマの指で絶頂させられる所を妄想し、指は次第に激しく動いていく。
グレースとしていた時のカルマの凶悪な肉棒を思い出す。あの女を殺す為にある剛直を。
「ぁあイク……♡カルマ君イってもいい?♡イク……イクイクイク……イック!♡♡」
ビクッビクッと腰が震える。ぁあ……虚しい。
「……はやく殺しに来てね……私の勇者様、おやすみなさい」
千里眼で見る寝顔のカルマに挨拶し、いつか最強の魔王を組み伏せる勇者が現れるのを夢見て、魔王は今日も眠りにつく。
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