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彼女に嘘をついた男

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それから半年後、
  
国王は亡くなった。

私はついに復讐を果たすことはできなかった。

いや、できなかったと言える資格はない。



それからだった。

守護兵士を見て息が苦しくなりはじめたのは。

なぜこのタイミングからそうなったのかは今でもよく分からない。

この息苦しさは行きで見かければ仕事場まで、帰りなら家に着くまで続いた。

だけどとうとうある日

帰る途中で集団を見かけた時、

家に帰っても、息が苦しい状態のままとなり、

思いがけず、家を飛び出し、走った。

走って走って



気がつくと昔、母とよく来た川のほとりにいた。

私が川遊びをしてる間、母は土手に座って絵を描いていた。

遊ぶ私は時々その母の方を見た。

もしその時、母が地面に両手をつき、どこか遠くを眺めていたら

それは絵を描き終えた合図。


私は母のそばまで行き、絵をみせてもらう。


どう? うまく描けてる?



笑ってそう聞く母の言葉に

私はゆっくりとうなづいた。


その絵はやさしく、あたたかった。




それからまた息が苦しくなった日

その川のほとりに行った。

母がよく絵を描いていたところに座った。

鞄からスケッチブックを取り出す。

目の前に広がる景色を描いていく。


すると呼吸はいつのまにか落ち着いていた。


こうして私は苦しさをおさえるために絵を描くようになった。


 
絵を描き始めて2年の月日が流れた。

新たな国王が、ある王令を下した。  


〈魔力を持つ者は厳罰に処す。ただし申し出た者は減刑にする〉


それは前代未聞の王令だった。


かつて王家は強力な魔法を使う騎士団の力を借りこの国を興した。

その後も外来の敵からの侵略はその力によって防がれてきた。

その騎士団の末裔が今の貴族だ。

なのに、国王はこのような王令を下し、貴族のうちまだ魔力を持つ者を排除し始めた。

貴族だけではない。対象は民衆にも及んだ。

たとえ、弱い魔力しか持ってない人でさえも。

一方、魔力を持たない民衆はこの王令を歓迎した。

彼らはこの国が魔力によって平和がもたらされたことは頭では理解していたはずだ。

だが魔力を持つ者へのある種の恐怖はぬぐいきれなかった。

だからその恐怖が王によって取り除かれることを喜んだ。



そして私はこの時、この王令をチャンスととらえた。
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