DTガール!

Kasyta

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BACK TO THE ・・・・・・

00019話「まったく最近の若者は」

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 素振りをさっさと終わらせた俺は、まだ続けている生徒たちの様子を観察する。
 走り込みの時から薄々感づいてはいたが、俺の時代に比べると総じて身体能力が低い。
 やはり世の中が便利になってしまうと肉体は衰えてしまうのだろうか。
 しかし何故剣術? と思ったが、外に出れば魔物が闊歩する世界である。身を守る術を教えるのは当然と言えば当然か。
 俺が戦った魔物を基準にすれば付け焼刃にすらならないだろうが。
 それでも身体を鍛えておくのは良いことだろう。長く走れる体力があれば、それだけ生存率も上がる。

 素振りが終われば今度はペアになっての打ち込みだ。
 先生が号令をかけると、生徒たちは仲の良い者同士でさっさと組んでしまった。
 残った俺とコレットは必然的に組むことになる。

「よろしくね、コレットちゃん。」
「ぅ、うん・・・・・・。」

 しかし走り込みと素振りを休む間もなく続けていたコレットはすでに体力が尽きており、立っているのもやっとのようだ。
 どちらもビリになっていたから仕方のないことではあるが・・・・・・。

「とりあえずコレットちゃんは構えて立ってて。動かなくて良いから。」
「え、でも・・・・・・。」

「疲れてるでしょ? とにかく少しでも休んで。」

 そう言って、コレットが構えている剣に向かって打ち込んでいく。
 ただし彼女の負担にならないよう当たる瞬間に力を殺して、音だけが鳴るように調節する。
 傍から見ればそれなりにやっているように見えるだろう。
 他の生徒たちもそれほど真面目にやっている様子もないので丁度良い。
 そして俺の打ち込みが終わり、コレットの番。

「それじゃあ、好きに打ち込んできて。」
「え、えいっ。」

 よろよろと振り下ろされた剣を柔らかく受け止め、押し返すようにして弾く。
 こ、これはこれで重労働だな。
 こうして何度か交代しながら打ち込みが終わると、体育の時間は終わりに近くなっていた。
 そして最後は試合形式。
 またコレットと組むことになるかと思ったが・・・・・・さっきとは打って変わって女子たちは俺を押しのけ、コレットの取り合いになった。
 彼女が相手なら勝てるから、だろう。
 そうこうしているうちに皆の相手は決まっていき、残ったのは俺と――

「ゲ・・・・・・女子かよ。しかもテンコーセー。」

 男子の中でも一番ガタイの良い生徒だった。体操服の名札を確かめると名前は・・・・・・ゴードンか。
 このクラスで一番強いらしく、コレットとは逆に皆に避けられたようだ。
 だがこの時代の試金石とするには丁度良いだろう。

「よろしくね。」
「はぁ・・・・・・さっさとおわらせるか。」

 キャサドラ先生の開始の合図と同時に、ゴードンが剣先を狙った横薙ぎを放ってくる。
 俺の手から剣を飛ばして試合終了という魂胆だろう。
 それを真正面から受け止めて逆に軽く弾いてやる。

「な・・・・・・っ!?」

 ゴードンは驚いて数歩下がったが、剣は落とさなかった。

「どうしたの? ゴードン君の実力はそんなもの?」
「は!? なめんなよ!」

 挑発に乗ったゴードンが力任せに斬りかかってきた。
 あれでは剣術、というよりただ振り回しているだけだ。
 俺があんな剣の扱い方をしているのを見られたら、死にかけるまで扱かれそうだ。
 迫ってきたゴードンの剣をまたも弾き返す。
 しかし今度は彼も怯まず、続けざまにもう一度斬りかかってきた。
 今度は彼の剣を受け止め、鍔迫り合いに持ち込んでやる。

「くっそぉ・・・・・・どうなってんだ・・・・・・!?」

 しかし彼の力は弱かった。
 顔を真っ赤にして歯を食いしばっている表情を見れば本気を出しているようだが・・・・・・魔力で身体強化していない俺でさえ押し勝てるくらいに弱い。
 俺の時代の人間が相手なら、身体強化しなければ力負けしているところだ。
 まったく最近の若者は軟弱だな、弛んどる!
 堪らず後ろに飛び退いて鍔迫り合いから抜け出すゴードン。
 追い打ちはせず、それを黙って見守る。

「な、なんなんだよお前!?」
「ただのテンコーセーだよ。それで、続きはどうする?」

「うるせェ!! うおぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 雄叫びと共にまたも力任せに斬りかかってきた。お陰で注目の的だ。
 渾身の力を込めているのだろうが・・・・・・如何せん隙だらけである。
 やりようはいくらでもあるが、敢えて正面から受けることにした。
 せっかく注目を浴びているのだし、ここで力を示しておけば後々余計なちょっかいを出されることも無いだろうという目論見だ。
 ゴードンの気合の一撃を受け止め、力任せに彼の手から剣を飛ばした。
 これで試合しゅうりょ――

「きゃあっ!!」

 慌てて悲鳴のした方へ向くと、ローレッドが見学していた場所のすぐ傍にゴードンが持っていた木剣が転がっていた。
 どうやらローレッドの所までゴードンの剣を飛ばしてしまったらしい。

「大丈夫、ローレッドちゃん!?」
「だ、大丈夫なワケないでしょっ!」

「ごめんね。どこか怪我した?」

 見える範囲で彼女の体を調べてみるが、外傷は無さそうだ。

「別に、当たってはないわよ・・・・・・。」
「そっか、なら良かった。」

 ホッと胸を撫で下ろしていると、ローレッドに手を掴まれグイと引っ張られる。
 耳を貸せ、ということらしい。

「どうしたの?」
「ちゃんと教室まで連れて行かないと許さないんだから。」

「えーっと・・・・・・どういうこと?」
「だ、だから・・・・・・立てないのよっ。」

 ・・・・・・なるほど。どうやら腰が抜けて立てなくなってしまったようだ。
 だから抱っこして教室まで連れていけ、ということらしい。

「分かったよ。でも授業が終わるまで待っててね。」

 試合結果は俺の勝ち、ということで収まった。
 コレットは早々に負けてしまい、俺とゴードンの試合を見ていたらしい。

「す、すごいんだね、アリューシャちゃん。」
「まぁ・・・・・・鍛えられたから・・・・・・。」

 授業の終わりを告げる鐘が鳴って皆が戻って行く中、俺はローレッドの元に駆け寄る。

「それじゃあ更衣室行こうか。」
「待ちなさいよ! 今行くと皆がいるでしょ!」

「でも教室まで行くならどうしても皆に見られるよ?」
「それは、そうだけど・・・・・・。」

「というわけで、早く行こう。着替えにも時間かかるだろうし。」
「ちょ、待・・・・・・。」

 有無を言わさず抱き上げると、さっきまでの威勢が急に無くなり、しおらしくなった。

「お・・・・・・重く、ない・・・・・・?」
「重くないよ。」

 答えると、今度はちゃんと前が見えるように抱き着いてくる。

「ゆ、揺れるからっ・・・・・・掴まってないとっ。」
「はいはい、しっかり掴まっててね。」

 そのまま更衣室に入ると、視線が一斉に注がれる。

「え、ローレッドちゃんどうしたの~?」「テンコーセーと超仲良しじゃん。」
「ち、違うわよ! コイツが飛ばした剣の所為で立てなくなったから、コイツに運ばせてやってんの!」

 ローレッドを備え付けのベンチに座らせ、俺も着替えを始めた。
 と言っても時間が掛かるようなものでもない、さっと終わらせると、ちょうど皆が出ていくところだった。
 ローレッドの方を振り返る。

「って、ローレッドちゃん、着替えないの?」
「取って。そこにあるから。」

 ローレッドが棚の上の方にある着替え籠を指す。

「あー・・・・・・ゴメンね。気が利かなくて。」

 着替え籠を手渡すと、ローレッドが着替え始めた。
 しかしやはり着替え辛そうだ。

「ぁ、あの・・・・・・て、手伝う、よ。」

 そう申し出たのは、まだ更衣室に残っていたコレットだった。

「うるさいわね! 見世物じゃないの! さっさと出てけ!」
「ひぅっ・・・・・・ご、ごめ・・・・・・なさい・・・・・・。」

 怒鳴りつけられたコレットは目に涙を浮かべながら、トボトボと更衣室を出ていった。
 しかしそんな様子のコレットを気に留めることもなく着替えを続けるローレッド。

「それじゃあ私も外で待ってるから、着替え終わったら呼んでよ。」
「アンタは居ていいわよ。あとで呼ぶの面倒だし。」

「ちょっとコレットちゃんの様子を見てくるだけだから。」
「あっ、待ちなさいよ!」

 ローレッドの声を無視して更衣室を出ると、扉のすぐ横でコレットが壁を背もたれにして待っていた。

「コレットちゃん、教室に戻ってなかったの?」
「ロ、ローレッドちゃん、けがしてるし・・・・・・ア、アリューシャちゃんも、たいへん、そうだし・・・・・・。」

「そっか、それで待っててくれたんだね、ありがとう。」

 思わずコレットの頭を撫でてしまったが、彼女は嫌がることもなく受け入れてくれた。

「でも、鉢合わせるとまた怒っちゃうと思うから、先に教室戻ってて。」

 誰が見ても分かるほどに、しゅんと落ち込んだ表情を見せるコレット。
 こんな表情を見せられたら放ってはおけない。

「えーっと・・・・・・あのさ、コレットちゃんはローレッドちゃんと仲良くなりたい?」
「分かった。それじゃあどうやったら二人が仲良くなれるか考えてみるよ。」

「ほ、ほんとに・・・・・・?」
「うん。だから今日はローレッドちゃんのことそっとしておいてあげて。怪我して気が立ってるんだよ、きっと。」

「ゎ、わかった・・・・・・。」

 教室へ向かうコレットの背中を見送ってから、更衣室へと戻る。
 ローレッドの着替えは終わっているようだった。

「遅い!」
「ゴメンね。でもコレットちゃんのことは放っておけなかったし・・・・・・。」

「アンタはワタシの言うこと聞いてればいいの! ・・・・・・ん。」
「・・・・・・てか、おんぶで良くない?」

「おんぶは嫌なの!」

 頬を膨らませながらも両手を広げて抱っこを要求してくる姿は何というか可愛い。
 でもお姫様抱っこならもっとイケメンに頼めば良いのに。
 しかしそう反論する気概は無く、彼女の要求通りに抱き上げる。

「ぁ・・・・・・。」
「どこか痛かった?」

「ううん・・・・・・その、重く・・・・・・ない?」
「だから重くないって。何回聞くのさ。」

「・・・・・・い、いいでしょ、べつに。」

 そう言ってローレッドが首に手を回してしがみついてくる。

「汗の匂い・・・・・・する。」
「いま体育の授業が終わったとこなんだから、そこは勘弁してよ。」

「イヤなんて言ってないもん。」

 更衣室を出て、教室へ向かって足早に歩く。

「ねぇ・・・・・・もっとゆっくり歩いて。」
「いや、急がないと間に合わないよ。」

「怪我したワタシを連れてきたからって言えば大丈夫でしょ。だからもっとゆっくり歩いて。えーっと・・・・・・ほら、揺れると怖いんだから。」
「はぁ・・・・・・分かったよ。」

 そして彼女のわがままを聞いているうちに鐘が鳴り、休み時間が終わってしまったのだった。
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