DTガール!

Kasyta

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がっこうにいこう!

169話「最高峰」

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 レンシアの街にも”超”が付く高級店の立ち並ぶ一角が存在する。
 ロールたちが用意した馬車に揺られて、街灯に照らされたその通りを進む。
 連なる二台の馬車の歩みはゆったりと遅く、速さよりも快適さを重視しているようだ。

 外を流れる見覚えのない景色。

 一応この辺りも散策した事があるはずなのだが、どんな店が並んでいたかなどの記憶が全く無いのである。
 おそらく高級店ばかりで脳が認識するのを拒否したのだろう。
 ・・・・・・というか、この辺なら歩きで良い距離なんだが。

 そんな中でも一際大きな門の前で馬が足を止めた。
 食事処を表す看板が掛けられた門の向こうには、小さな城みたいな建物が見える。
 ”小さい”と言っても、”城としては”という意味だ。

 イケメン執事に差し出された手を取り、馬車から降りる。
 ロールたちも同様に、もう一台の馬車から降り立った。

 見る者を威圧する荘厳な門構えは、来る者を拒みまくる雰囲気。
 いや、俺がそう感じるだけなんだろうけど。
 現にフラムやロール達は平然としている。

「あの・・・・・・ロール。このお店、本当に制服で大丈夫なの?」

 この店だけに限らず、ここら一帯の店には殆どドレスコード的なのが存在している筈。
 周囲を歩く紳士婦人からは好奇の視線がチラチラと。

「大丈夫だよ。今日は私たちだけにして貰ったから。」
「ぇ・・・・・・それって、貸し切りにしたってこと?」

「そうなのじゃ!」

 マジかよ・・・・・・。俺の考えが甘かった。
 まさか力技でドレスコードを無効にしてくるとは・・・・・・。

 門のところで待ち構えていた別のイケメン執事に案内され、中へと進む。
 門から建物まで歩いて30分・・・・・・みたいな広さは流石に無いが、心労は既にそれに匹敵しそうだ。

 城のような石造りの建物に据え付けられた、古めかしい木製の大きな扉が開かれた。
 中から覗く綺羅びやかな装飾と光が、夜陰に慣れた瞳を刺激する。

 美しい光景に思わず漏れる感嘆の吐息。
 なんか・・・・・・有名な観光スポットに来た修学旅行生みたいな気分。
 先を行くロール達と少し差が開き、慌てて足を進める。
 玄関ホール中央の階段を上がり、二階の開け放しの扉から大広間へ。

「おおっ! すごいにゃ!!」

 サーニャがパタパタと尻尾を振りながら声を上げた。
 大広間の真ん中には大きなテーブルが一つと、俺たち人数分の椅子が並べられている。
 そして、その周囲には大量の料理を乗せたテーブルが連なり、まるで山脈のようだ。
 俺が口をあんぐりと開けている間にも料理が次々と運ばれてくる。

「こ、これ・・・・・・全部食べて良いにゃ!?!?」
「勿論ですの!」

「うおおおおおお!! やったにゃ!!!」

 静止する間もなく山脈に挑み始めたサーニャ。

「あ、あのさ・・・・・・ロール。今日って本当に私たちだけなの?」
「そうだよ。アリスちゃんもたくさん食べてね。」

「うん・・・・・・ありがとう・・・・・・。」

 量多めで、とか注文つけるんじゃなかったな・・・・・・。

*****

「それで、課外授業についてなんだけど・・・・・・。」

 食事が一息ついたところで切り出す。
 色々と面食らってしまっていたが、今日の本題を忘れていた訳じゃない。
 そのお礼も兼ねてとこの場を用意してくれたんだしな。
 返し切れそうにはないが・・・・・・。

 まだ食事を続けているウチのパーティの子たちはとりあえず置いておく。
 あの子らは話に参加しなくても問題無いだろう。

「う、うん・・・・・・あの、私たち・・・・・・どうしたら良いのかな?」
「まずは、ロール達が何が出来るかを教えてくれる?」

「何が、出来るか・・・・・・?」
「でないと、助言も何もあったもんじゃないしね。選択学科は何を取ってるの?」

「えっと、私たちは――」

 ロールの話によると、彼女たちは入学当初から専用の学科で勉強しているらしい。
 男装して生活してたしな・・・・・・。少しでもバレる確率を下げるための専用学科なのだろう。
 今となっては意味がないのだが。

 授業では貴族に必要な知識なんかを勉強しているようだ。
 どんな勉強なのか皆目検討もつかないが・・・・・・大変なんだな。
 それらは現在の状況ではあまり必要なさそうな情報なので軽く流し、続きを促す。

「あ、あとは・・・・・・短剣の扱い方、とか・・・・・・。」
「へぇ、それ教えてくれる?」

 詳しく聞いてみると”短剣の扱い方”と言っても、どうやら護身術に毛が生えた程度のものみたいだ。
 おそらく実戦では使い物にならないだろう。
 しかしまぁ、一番最初に習うのが”自害の仕方”ってのが何とも・・・・・・。

 これには理由がある。
 例えば彼女らの乗る馬車が襲われ、万が一賊の手に落ちてしまったら。
 彼女らの受ける仕打ちは死よりも酷いものになる、という話であるだけだ。
 なら、そうなる前にいっそ・・・・・・という考え方である。
 相手が魔物だとしても、そう大きな違いはない。

 いざ土壇場になってその選択が出来るのかは分からないが。

 ・・・・・・とにかく、課外授業では短剣の出番は無さそうだ。むしろあってはならない。
 先生も流石にそんな状況になるまで放っておくことはしないだろう。

「他には何か無い?」
「他には・・・・・・治癒術、とか・・・・・・。」

「おおっ、それだよそれ!」

 治癒術。
 文字通り怪我の治療やらに関する知識や術の総称。
 後方支援にはおあつらえ向きだ。

 この世界には治癒魔法なんて便利な魔法も存在するが、転生者くらいの魔力が無ければそれだけに頼ることは出来ない。
 そこで出てくるのが治癒術だ。
 治癒術の役目は「対象の状態を診断し、魔法で治療するか否かの判断を下し、適切な処置を行うこと」である。
 つまるところ「限られた魔力をどう運用するか」が治癒術の肝なのだ。

「・・・・・・ワタクシ達で役に立てるの?」
「うん、大丈夫だと思うよ。」

 話を聞いた限りでは最低限の技術は習得済み。
 それに彼女達は三年間授業を受けてきているのだし、ある程度期待しても良いだろう。

「それじゃあ、私が手伝うから明日のうちにロール達の準備を済ませちゃおうか。」
「え・・・・・・アリスちゃん達の準備はいいの?」

「私たちのはすぐに終わるから。ね、リーフ?」
「そうね、いつもと同じで構わないでしょうし。ロール達のことはアリスに任せるわ。」

「という訳だから、明日は頑張ろうね。」
「う、うん! ありがとう、アリスちゃん!」

「けれど、準備とは一体どのような事をしたら良いんですの?」

 キーリの言葉に思考を巡らせる。
 まず必要なのは装備の見直しだろう。
 武器防具の話ではなく、彼女らに必要なのは”鞄”だ。

 おそらく課外授業では怪我人が大勢出る。
 彼女らは医療班に回されるだろうから、少しでも多くの医療品を詰め込める鞄が必要なのだ。
 現地でも支給品はある筈だが・・・・・・おそらく足りない。
 そんな中で長く活躍出来れば評価も上がるというものだ。

 鞄を新調した後は支給品の申請と受け取り。
 こちらは現地で受ける分ではなく、自分で持っていく分。その為いくらでも受け取れる。
 とは言っても、不正なんてしようものならどんな”お仕置き”があるか想像つかないので、必要分だけの申請だ。

 品目は医療品だけでなく多岐に渡っており、貧乏学生でも安心な親切設計。
 キッチリ申請すれば出費ゼロで済ませる事も可能だろう。
 ただ携帯食は”デカい、マズい、安い”と三拍子揃った逸品なので、余程でなければ自分で用意した方が懸命だが。

「――とまぁ、準備するならこんな感じかな。」

 説明を終えてデザートを一口頬張る。

「大変そうですの・・・・・・。」
「準備は大変だけど、その分当日はきっと楽に・・・・・・なると良いなぁ・・・・・・。」

「そこは言い切ってあげなさいよ・・・・・・アリス。」

 そうしたいのは山々なんだけどね。


 そして予想通り、その願いは虚しく――
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