33 / 453
がっこうにいこう!
15話「先輩とおしごと」
しおりを挟む
依頼書をドリーグから取り戻した俺は、カフェスペースの席に着いた。
ため息を吐いた俺にヒノカが声を掛けてくる。
「大変だったみたいだな。」
「うん、稼ぎはその分良かったけどね。」
巻き上げた金品をテーブルの上に並べていく。
財布の中には銀貨30枚ほど。
彼の持っていた剣や短剣も柄や鞘に宝石が使われたりと、結構値打ちが高そうだ。
貴族か、それに近い人間だったのだろうか。
思った以上の収穫にリーフが少し怯む。
「でも・・・・・・金品を奪ったりして良かったのかしら?」
「決闘を仕掛けて来たのは向こうだしね。それに奪ったのは私じゃないし。」
「ドリーグさん・・・・・・だったかしら?」
「うん、私達の試験官をしてくれた冒険者の人だよ。要は命の代わりにお金で手打ち、ってこと。」
「でもアリスは命まで奪う気は無かったんでしょう?」
「どうだろ・・・・・・。でも、元通りにくっつく事は無かったかもね。」
「どういう事かしら?」
「最後に撃とうとした魔法に投げ付けるつもりだったから。もし、火の魔法だったらこんがり焼けちゃってたね。」
「ぅ・・・・・・。」
想像したのかリーフが顔をしかめる。
「だからドリーグが止めたんだろうけど。」
「まぁ、高い授業料になってしまったという訳だな。」
「学院よりは安いよ、きっと。」
「ふっ・・・・・・、確かにそうだな。」
俺とヒノカのやりとりに、今度はリーフがため息を零した。
「ふぅ・・・・・・まぁ、いいわ。それで、フィーが連れて来たこちらの先輩は・・・・・・?」
「えーっと、さっきの人に絡まれた時に声を掛けてくれたんだけど、巻き込まれ損・・・・・・的な?」
「あぅ、酷くない!? でも、その通りかも・・・・・・はぁ。」
「私もいきなり斬りつけてくるとは思わなくて。咄嗟に腕を引いたんですけど、本当に怪我はないですか?」
「うん、ありがとう。あなたが助けてくれなかったら大怪我してたと思う。そうだ、自己紹介がまだだったね。私はマルネリッタ。三年で十五歳よ。マルネって呼んでね。」
「私は一年のアリューシャです。それからパーティメンバーの――」
各々が自己紹介を終え、リーフが首を傾げながら俺に問う。
「それで、どうして決闘なんてことになったのかしら?」
「私が持ってた依頼書を渡せって絡んできたんだよね。」
件の依頼書をテーブルに広げた。
内容を読んだヒノカが当然の疑問を口にする。
「報酬がかなり安い気がするのだが・・・・・・どうしてこんなものを?」
「たぶん私が持ってたから簡単な依頼だと思ったんじゃないかな。渡したら内容も見ずに持って行っちゃったし。」
俺の華麗な推理にリーフが納得の顔を見せる。
「あー・・・・・・、確かにそれはありそうね。」
同じく依頼書を見ていたマルネが声を上げる。
「これは冒険者用の依頼で、学院生じゃ受けられないよ? 依頼なら学生用の掲示板から探さなくちゃ。」
「いえ、私達は冒険者の資格も持っていますので。・・・・・・≪情報≫。」
ギルド証の情報を表示して見せる。
「えっ・・・・・・ランクC!? それじゃあ他の子たちはもっと・・・・・・!?」
驚きの表情を見せるマルネにリーフが否定する。
「いえ、ランクCはアリスだけで、残りはFと見習いです。」
それでも羨望の眼差しを向けるマルネ。
「それでも、冒険者の子がいるんだ・・・・・・。凄いんだねぇ、私のパーティには一人も居ないよ。」
俺もマルネに問いかけてみる。
「パーティの誰かが冒険者の資格を取ったりしないんですか?」
「む、無理だよそんなの~。あなたたちなら課外授業も問題無いでしょうね。羨ましいなぁ。」
「課外授業?」
「大体はこの依頼書と同じ内容だよ。この辺りは魔物が多いから。違うのは報酬が無いってところね。要は魔物の駆除を授業と称してやらされるって訳。」
「それだと戦闘の出来ないパーティは大変だと思うんですが・・・・・・。」
「そこは先生が色々調整してくれるんだよ。」
「随分大雑把なんですね。」
「目的は魔物の駆除だからねぇ。でも冒険者任せだとお金が・・・・・・ね。」
「自分で持ってきておいてなんですが、よっぽどじゃないとこんな安い依頼は受けませんしね。」
何せ魔物一体で銅貨5枚換算だからな。
それこそ酒場で皿洗いでもしてた方がマシな気がする。
「うーん、そうだねぇ。これなら学生用の依頼の方が割が良いよ。どうしてこの依頼を受けようと思ったの?」
「街周辺の地形を見るついでに出来そうな依頼で、一番楽そうなのがこれだったので。」
「ええー・・・・・・。薬草探しとかの方が楽だと思うけど・・・・・・。」
「この辺りだと指定の薬草とかを探すより、魔物との遭遇率の方が高いと思いまして。」
「それはそうだけど・・・・・・、危ないよ? 採取なら魔物が出たら走って逃げればいいし・・・・・・。」
「街の近くじゃなければ、走って逃げた方が危ない気がしますが・・・・・・。」
「そ、そうなの!?」
「例えば・・・・・・ヴォルフと森の中で駆けっこして勝てますか?」
「む、無理だよそんなの~。」
俺がマルネにした問いに、フィーも答える。
「勝てるよ?」
「いや、お姉ちゃんはそうだろうけど。」
「アリスも勝てるよ?」
「うん、そうだけど今は一般的な人の話だからね、お姉ちゃん?」
ヒノカ、ニーナ、リーフの三人も盛り上がっているようだ。
「森の中、というのが少々厄介だな。」
「ボクだって強化魔法さえ使えたら!」
「走って音を立てれば他の魔物にも気づかれてしまうから、村では目を逸らさずゆっくり後退しろと教えられたわね。」
リーフの情報にマルネが声を上げる。
「そんなのでいいの!?」
「相手が弱い魔物なら、ですけれどね。」
「強い魔物だと?」
「祈って走るしかないです。」
「うぅ~、それじゃあダメじゃない!」
頭を抱えるマルネに声を掛ける。
「街の周辺ならそこまでの魔物は出ないから大丈夫ですよ。もし出れば冒険者が我先にと狩りに行くでしょうし。」
「冒険者って変わってるのね・・・・・・。」
「それより、マルネ先輩も依頼を探しに来られたのでは?」
「いけない、そうだったわ!」
「学生用の依頼・・・・・・もうほとんど残ってないみたいですけど。」
「っ!! ちょ、ちょっと見てくる!!」
マルネは席から立ち上がると、掲示板前の人だかりに突っ込んで行った。
それを見送った俺は皆を見回す。
「・・・・・・えっと、それじゃあ私たちはこの依頼で良いかな?」
「私はそれで構わないぞ、採取などは正直その・・・面倒だしな。」
「私も構わないわ。薬草なんかは確認しておくわね。もし採取の依頼をするなら周辺の探索が終わってからにしましょう。」
「・・・・・・それでいい。」
「異議なーし。」
「ぉ・・・お任せ、します。」
反対意見は無いようだ。
「じゃあここで待ってて。依頼を受けてくるよ。」
*****
依頼の受注を済ませて席へ戻ってくると、もみくちゃにされたマルネが頭を抱えて座っていた。
「うぅ~どうしよ~。」
机に突っ伏したままのマルネに声を掛ける。
「どうかしたんですか?」
顔を上げたマルネが涙目で答えた。
「出来そうな依頼がもう残って無いの・・・・・・。」
「どんなのが残ってるんです?」
「採取の依頼なんだけど、どれも危険なのばっかり・・・・・・だから残ってるんだけど・・・・・・はぁ・・・・・・。またテリカちゃんに怒られる~・・・・・・。」
「そんなに危険な依頼なんですか?」
「何箇所か回らないといけないんだけど、魔物が出易い所を通らないとダメなの。」
マルネの説明に俺は少し思案する。
魔物が出易いなら、受けた仕事をこなすには好条件だ。
最後に念を押して聞いておく。
「場所は分かってるんですね?」
「それは大丈夫なんだけど・・・・・・。やっぱり危ないかなぁ・・・・・・。」
「なら、私達が護衛でついて行きますよ。」
「いいの!?」
「そこには多分行ったことは無いと思うので探索のついでに・・・・・・。」
「依頼受けてくる!」
マルネが栗色の髪を躍らせながら掲示板の方へと駆け寄る。
彼女は人がまばらになった掲示板から吟味して依頼書を一枚剥がし、受注手続きを行うため受付に向かった。
それを見届けたヒノカが俺に問う。
「周辺の探索は良いのか?」
「それはまた別の機会でもいいかなと思って。行った事の無い場所だろうし、目的から外れてるとも言い難いしね。それに、ついて行けば採取場所も分かるから。」
「そうね、白紙の状態で探すよりも効率的だわ。」
受注を済ませたマルネが息を切らせて戻ってくる。
「う、受けて来たよ・・・・・・。ちょ、ちょっと待ってて、私のパーティの子も呼んでくるから!」
そしてそのままギルドを飛び出して行ってしまった。
「もう少しゆっくり出来そうね・・・・・・飲み物を買ってくるわ。」
*****
フィーが三つ目のパフェを注文しようとした時、ギルドの入り口からマルネが姿を現した。
「ごめんねー、遅くなっちゃって。」
マルネの後ろには少女が三人。彼女らがパーティメンバーのようだ。
赤褐色でワイルドヘアーの少女が黄金色の瞳で俺達を一瞥し、マルネに問いかける。
「この子たちがマルネの言ってた護衛かい?」
「うん、そうだよ。この子たちすご・・・・・・あいたっ!」
自慢げに胸を張ったマルネの頭頂部にゴンと拳が振り下ろされた。
マルネに拳骨した子とは別の女の子が頭を下げる。
同時に金色の長い髪が垂れ下がり、育った果実がゆさゆさと主張した。
「本っ当にごめんなさいね、あなた達。マルネさんが無理に頼んでしまったのでしょう?」
その青い瞳からは清楚で誠実な感じが伝わってきて、うっかりシスターと呼んでしまいそうだ。
マルネが拳を落とした少女に抗議の声を上げる。
「いったーい、テリカちゃん何するのー!」
「マルネ、あんたこんな子達を護衛にしようって何考えてんのさ!」
「だ、だからぁ~・・・・・・。」
「そうですよ、マルネさん。よく見れば一年生の子たちではないですか。」
「レーゼちゃんも話聞いてよぉ~・・・・・・。」
その様子を見て、もう一人の少女が薄桃色のお団子頭を揺らしながら笑う。
「ぷぷぷ、マルネちゃん怒られてるー♪」
「うぅ・・・・・・ミゼルちゃんまで・・・・・・。」
話が進みそうにないのでこちらから声を掛ける。
「あ、あのー・・・・・・?」
レーゼと呼ばれた少女が再度頭を下げた。
そして再度、揺れた。
「ごめんなさいね、マルネさんがご迷惑をお掛けして。こちらの依頼は破棄させます。」
「い、いえ、そうではなくて――」
事情をかいつまんで説明する。
「それでは・・・・・・本当にあなた方が護衛を?」
「はい、提案もこちらからですので、その・・・・・・。」
マルネとテリカと呼ばれた少女の方をちらりと見る。
頭をグリグリとされていたマルネが解放された。
涙目でテリカに抗議するマルネ。
「だ、だから最初に言ったのにぃ~。」
「一年生の子だなんて聞いてないよ。」
「そうですよ、一年生の子を危険に晒す訳にはいきません。」
「そんなに危険なんですか?」
「ええ、何度か行った事がある場所なのですけれど、魔物に遭わなかった事は無かったです。それで危険なので其処には行かないという事になったのですが・・・・・・。」
レーゼがマルネを見てため息を吐いた。
「遭遇した魔物っていうのは?」
「ゴブリン、コボルド、ヴォルフ・・・・・・それにオークなんかもいました。」
どれも低ランクの仕事で見るような魔物だ。
「それくらいなら問題ありません。」
「それくらいって・・・・・・どれも冒険者の方が相手にするような魔物ですよ?」
「あ~・・・・・・、レーゼちゃん。その子、冒険者なんだよ。ランクCの。」
「嘘、ですよね?」
「い、いやいやホントだって! あれ見せてあげてよ、アリスちゃん!」
マルネが懇願するように瞳をこちらに向ける。
俺はギルド証の情報を表示し、全員に見えるように見せた。
「ランクC・・・・・・間違いない、ですね。」
「こんな小さな子が・・・・・・かい?」
二人の反応を見てフフンと鼻を鳴らすマルネ。
「ほらー、言った通りでしょ! ミゼルちゃんも何か言ってあげてよ! って何食べてんの!?」
ミゼルと呼ばれた少女はフィーと並んで座り、いつのまに買ってきたのかパフェを突いている。
「パフェだよぉ~? おいしい~!」
「そうじゃなくてぇ!」
「じゃあ・・・・・・なんの話だっけ~?」
「マルネ・・・・・・ややこしくなるんだからミゼルに話を振るんじゃないよ。ミゼルは黙ってパフェ食ってな。」
「うぅ・・・・・・。」
「ふぁ~い。ぱく。」
テリカがやれやれと首を振り、場を仕切り直す。
「えーと、それで・・・・・・結局依頼はどうするんだい?」
「破棄しましょう。いくら冒険者とはいえ一年の小さな子に危険な事はさせられません。」
「で、でもそれじゃあお金どうするの?」
「別に、あと半月くらいは大丈夫だろう?」
「そうですね。心許ないのは確かですが、命には代えられません。」
雲行きが怪しくなってくる。
話が決まってしまう前にマルネ達の会話に割り込んだ。
「あのー、いいですか?」
マルネが代表して応える。
「どうしたの、アリスちゃん?」
「どちらにしろ私達はこの仕事をするつもりなので、魔物と遭遇できるなら大歓迎なのですが。」
先程受けた依頼書をマルネ達に見せる。
「随分安いの依頼じゃないか。こんなの受けたのかい?」
「周辺の探索ついでに気軽に出来そうなのがこれだったので、先輩方に案内して貰えるなら心強いです。」
テリカとレーゼが顔を見合わせる。
「申し出は有難いのですが、その・・・・・・失礼ですが・・・・・・本当に大丈夫なのですか?」
「もし先輩方が危険だと判断されれば、その時は引き返します。それで構いませんか?」
「・・・・・・分かりました。それでは準備をして学院の門の所で落ち合いましょう。」
こうして俺たちは準備のために学院寮へと戻った。
*****
部屋に戻った俺達は各々準備を進める。
早々に荷物を纏めたリーフが口を開いた。
「少し揉めていたみたいだけど、丸く収まって良かったわ。」
「うん、皆良い人そうだったね。」
荷物を確認しながらヒノカがリーフとフラムに目を向ける。
「リーフとフラムは大丈夫なのか?」
「えぇ、魔物と戦った経験ならあるわ。」
「ぇ・・・・・・ぁ・・・・・・わ、私は・・・・・・ご、ごめん、なさぃ。」
項垂れるフラムの頭を撫でながらヒノカに話す。
「気にしないで。フラムには私が付いてるから、ヒノカ達は好きに戦ってくれたらいいよ。」
俺の言葉にヒノカの瞳が静かに燃え上がった。
「ふむ、ならこちらは役割を決めて動いてみようか。ちょうど授業で言われているしな。」
リーフが頭を捻る。
「役割・・・・・・ねぇ。フィーとニーナが前線、ヒノカが私の守り、私は魔法で前線を援護、というところかしら?」
「それが良さそうだな。私としては前線に立ちたいが・・・・・・。」
話を聞いていたニーナが会話に割って入る。
「そんなことしなくてもボク達なら大丈夫じゃない?」
「だからこそ、だ。普段から出来ていなければ、いざという時にも出来ないだろう?」
ヒノカと同じく気合いの入ったフィーがコクリとヒノカに同意する。
「・・・・・・れんけいは大事。先生が言ってた。」
俺はフラムの鞄の口をキュッと縛り、フラムに背負わせた。
「よし・・・・・・っと、皆忘れ物は無い?」
「大丈夫よ。」
「問題無い。」
「・・・・・・うん。」
「準備完了だよ!」
「だ、大丈夫・・・・・・です。」
部屋を出て集合場所に向かうと、すでにマルネ達が待っていた。
「お待たせしてすみません。」
「ううん、私達もついさっき来たところだよ。」
「日も高くなってきましたし、少し急ぎましょう。」
「レーゼちゃん、その前に忘れてる事があるよ。」
「あら、何か忘れていましたか・・・・・・?」
「自己紹介だよ!」
「うふふ、そうでしたわね。私はレミューゼ。レーゼと呼んで下さいね。」
「アーテリカ。テリカと呼んでくれ。」
「ミゼルはミゼルだよ~。」
こちらも各々名乗り、自己紹介を終えた。
「それでは皆さん、少し急ぎ足で参りましょう。最初の採取場所までに休憩出来るところがあるので、お昼はそこで。」
*****
全員で街道を進む。
総勢10名。かなりの人数だ。
仕事さえ無ければちょっとした遠足気分。
道は舗装されて歩き易いが、少し外れるとそこはもう森の中である。
太陽が真上を過ぎたあたりで、休憩所が見えてきた。
先頭を行くレーゼが俺達を振り返る。
「お昼はあそこで摂りましょう。」
休憩所に着くと、マルネたちはシートを敷き、その上に荷物を下ろした。
本当にピクニックに来ているようだ。
俺達は荷物が嵩張るのでそんな物は持ってきていない。
シートの上にドカリと腰を降ろしたマルネが空を仰ぐ。
「ふーっ、やっと着いたー。やっぱ馬車に乗りたいよねー。」
「そうですけど、お金が掛かってしまいますからね。」
そんな会話をしながらマルネ達は慣れた手つきでお弁当を広げ始める。
対して俺達は携帯食を取り出して終わりだ。
そんな俺達にレーゼが心配そうに声を掛けてくる。
「貴方達・・・・・・お昼はそれだけ?」
「そうですよ。荷物が嵩張ると動き辛くなってしまうので。」
「ダメよ、そんなのじゃあ! 私達のを分けてあげるから一緒に食べましょう?」
「それだと先輩達の分が・・・・・・。」
「うーん、それならその携帯食を分けてくれればいいわ。そうしましょう!」
レーゼの提案にマルネも乗り気だ。
「そうだよ、こっち座りなよ。」
「じゃ、じゃあお願いします。」
二人に押し切られ、皆でシートの上に座っていく。
俺も座ろうとシートに足を踏み入れるとレーゼに腕を掴まれた。
「うふふ、アリスちゃんはこっちよ。」
「え・・・・・・? え・・・・・・?」
そのまま引っ張られレーゼの膝の上に座らされた。
「あ、あのー・・・・・・?」
後ろからギュッと抱きつかれ二つの柔らかい塊に埋もれそうになる。
「やっぱり可愛いわー、アリスちゃん!」
広げられたマルネ達のバスケットには色々なサンドイッチがギッシリと詰まっている。
四人で食べるにしても量が多い。
「お弁当はいつもレーゼちゃんが作ってくれるんだけど、なんか今日は量が多いような・・・・・・。」
「いや、明らかに多いな・・・・・・。」
これを腹に納めてしまえば携帯食が入る余裕などなくなるだろう。
「ミゼルは多い方が嬉しいな~。」
「うふふ、今日は可愛い子が沢山いるから張り切りすぎてしまいまして。」
赤らめた頬を両手で隠すレーゼ、だが俺の身体はしっかりとホールドされている。
フィー達の方に目を向けるが、巻き込まれない為にか、誰も目を合わせてくれない。
「それじゃあアリスちゃん、どれが食べたい?」
「え、えっと・・・・・・じゃあ玉子のを・・・・・・。」
レーゼはバスケットからたまごサンドを取ると俺の口元へ運ぶ。
「はい、あーん。」
「・・・・・・・・・・・・ぁーん。」
*****
ギッシリと詰まっていたバスケットも空になり、昼食の後片付けを行う。
休憩所はすっかり元通りの姿に戻った。
マルネが鞄を背負い、声を上げる。
「さて、そろそろ行くよ~。ここからは森の中を進むからね!」
マルネは休憩所の奥へ進み、簡易な柵に沿って何かを探し始めた。
「えっと~・・・・・・あ、あった! ここを進んで行くよ!」
マルネの示した場所を見ると、獣道が森に飲み込まれる様に続いている。
俺達はマルネの案内で森の中へと足を踏み入れたのだった。
ため息を吐いた俺にヒノカが声を掛けてくる。
「大変だったみたいだな。」
「うん、稼ぎはその分良かったけどね。」
巻き上げた金品をテーブルの上に並べていく。
財布の中には銀貨30枚ほど。
彼の持っていた剣や短剣も柄や鞘に宝石が使われたりと、結構値打ちが高そうだ。
貴族か、それに近い人間だったのだろうか。
思った以上の収穫にリーフが少し怯む。
「でも・・・・・・金品を奪ったりして良かったのかしら?」
「決闘を仕掛けて来たのは向こうだしね。それに奪ったのは私じゃないし。」
「ドリーグさん・・・・・・だったかしら?」
「うん、私達の試験官をしてくれた冒険者の人だよ。要は命の代わりにお金で手打ち、ってこと。」
「でもアリスは命まで奪う気は無かったんでしょう?」
「どうだろ・・・・・・。でも、元通りにくっつく事は無かったかもね。」
「どういう事かしら?」
「最後に撃とうとした魔法に投げ付けるつもりだったから。もし、火の魔法だったらこんがり焼けちゃってたね。」
「ぅ・・・・・・。」
想像したのかリーフが顔をしかめる。
「だからドリーグが止めたんだろうけど。」
「まぁ、高い授業料になってしまったという訳だな。」
「学院よりは安いよ、きっと。」
「ふっ・・・・・・、確かにそうだな。」
俺とヒノカのやりとりに、今度はリーフがため息を零した。
「ふぅ・・・・・・まぁ、いいわ。それで、フィーが連れて来たこちらの先輩は・・・・・・?」
「えーっと、さっきの人に絡まれた時に声を掛けてくれたんだけど、巻き込まれ損・・・・・・的な?」
「あぅ、酷くない!? でも、その通りかも・・・・・・はぁ。」
「私もいきなり斬りつけてくるとは思わなくて。咄嗟に腕を引いたんですけど、本当に怪我はないですか?」
「うん、ありがとう。あなたが助けてくれなかったら大怪我してたと思う。そうだ、自己紹介がまだだったね。私はマルネリッタ。三年で十五歳よ。マルネって呼んでね。」
「私は一年のアリューシャです。それからパーティメンバーの――」
各々が自己紹介を終え、リーフが首を傾げながら俺に問う。
「それで、どうして決闘なんてことになったのかしら?」
「私が持ってた依頼書を渡せって絡んできたんだよね。」
件の依頼書をテーブルに広げた。
内容を読んだヒノカが当然の疑問を口にする。
「報酬がかなり安い気がするのだが・・・・・・どうしてこんなものを?」
「たぶん私が持ってたから簡単な依頼だと思ったんじゃないかな。渡したら内容も見ずに持って行っちゃったし。」
俺の華麗な推理にリーフが納得の顔を見せる。
「あー・・・・・・、確かにそれはありそうね。」
同じく依頼書を見ていたマルネが声を上げる。
「これは冒険者用の依頼で、学院生じゃ受けられないよ? 依頼なら学生用の掲示板から探さなくちゃ。」
「いえ、私達は冒険者の資格も持っていますので。・・・・・・≪情報≫。」
ギルド証の情報を表示して見せる。
「えっ・・・・・・ランクC!? それじゃあ他の子たちはもっと・・・・・・!?」
驚きの表情を見せるマルネにリーフが否定する。
「いえ、ランクCはアリスだけで、残りはFと見習いです。」
それでも羨望の眼差しを向けるマルネ。
「それでも、冒険者の子がいるんだ・・・・・・。凄いんだねぇ、私のパーティには一人も居ないよ。」
俺もマルネに問いかけてみる。
「パーティの誰かが冒険者の資格を取ったりしないんですか?」
「む、無理だよそんなの~。あなたたちなら課外授業も問題無いでしょうね。羨ましいなぁ。」
「課外授業?」
「大体はこの依頼書と同じ内容だよ。この辺りは魔物が多いから。違うのは報酬が無いってところね。要は魔物の駆除を授業と称してやらされるって訳。」
「それだと戦闘の出来ないパーティは大変だと思うんですが・・・・・・。」
「そこは先生が色々調整してくれるんだよ。」
「随分大雑把なんですね。」
「目的は魔物の駆除だからねぇ。でも冒険者任せだとお金が・・・・・・ね。」
「自分で持ってきておいてなんですが、よっぽどじゃないとこんな安い依頼は受けませんしね。」
何せ魔物一体で銅貨5枚換算だからな。
それこそ酒場で皿洗いでもしてた方がマシな気がする。
「うーん、そうだねぇ。これなら学生用の依頼の方が割が良いよ。どうしてこの依頼を受けようと思ったの?」
「街周辺の地形を見るついでに出来そうな依頼で、一番楽そうなのがこれだったので。」
「ええー・・・・・・。薬草探しとかの方が楽だと思うけど・・・・・・。」
「この辺りだと指定の薬草とかを探すより、魔物との遭遇率の方が高いと思いまして。」
「それはそうだけど・・・・・・、危ないよ? 採取なら魔物が出たら走って逃げればいいし・・・・・・。」
「街の近くじゃなければ、走って逃げた方が危ない気がしますが・・・・・・。」
「そ、そうなの!?」
「例えば・・・・・・ヴォルフと森の中で駆けっこして勝てますか?」
「む、無理だよそんなの~。」
俺がマルネにした問いに、フィーも答える。
「勝てるよ?」
「いや、お姉ちゃんはそうだろうけど。」
「アリスも勝てるよ?」
「うん、そうだけど今は一般的な人の話だからね、お姉ちゃん?」
ヒノカ、ニーナ、リーフの三人も盛り上がっているようだ。
「森の中、というのが少々厄介だな。」
「ボクだって強化魔法さえ使えたら!」
「走って音を立てれば他の魔物にも気づかれてしまうから、村では目を逸らさずゆっくり後退しろと教えられたわね。」
リーフの情報にマルネが声を上げる。
「そんなのでいいの!?」
「相手が弱い魔物なら、ですけれどね。」
「強い魔物だと?」
「祈って走るしかないです。」
「うぅ~、それじゃあダメじゃない!」
頭を抱えるマルネに声を掛ける。
「街の周辺ならそこまでの魔物は出ないから大丈夫ですよ。もし出れば冒険者が我先にと狩りに行くでしょうし。」
「冒険者って変わってるのね・・・・・・。」
「それより、マルネ先輩も依頼を探しに来られたのでは?」
「いけない、そうだったわ!」
「学生用の依頼・・・・・・もうほとんど残ってないみたいですけど。」
「っ!! ちょ、ちょっと見てくる!!」
マルネは席から立ち上がると、掲示板前の人だかりに突っ込んで行った。
それを見送った俺は皆を見回す。
「・・・・・・えっと、それじゃあ私たちはこの依頼で良いかな?」
「私はそれで構わないぞ、採取などは正直その・・・面倒だしな。」
「私も構わないわ。薬草なんかは確認しておくわね。もし採取の依頼をするなら周辺の探索が終わってからにしましょう。」
「・・・・・・それでいい。」
「異議なーし。」
「ぉ・・・お任せ、します。」
反対意見は無いようだ。
「じゃあここで待ってて。依頼を受けてくるよ。」
*****
依頼の受注を済ませて席へ戻ってくると、もみくちゃにされたマルネが頭を抱えて座っていた。
「うぅ~どうしよ~。」
机に突っ伏したままのマルネに声を掛ける。
「どうかしたんですか?」
顔を上げたマルネが涙目で答えた。
「出来そうな依頼がもう残って無いの・・・・・・。」
「どんなのが残ってるんです?」
「採取の依頼なんだけど、どれも危険なのばっかり・・・・・・だから残ってるんだけど・・・・・・はぁ・・・・・・。またテリカちゃんに怒られる~・・・・・・。」
「そんなに危険な依頼なんですか?」
「何箇所か回らないといけないんだけど、魔物が出易い所を通らないとダメなの。」
マルネの説明に俺は少し思案する。
魔物が出易いなら、受けた仕事をこなすには好条件だ。
最後に念を押して聞いておく。
「場所は分かってるんですね?」
「それは大丈夫なんだけど・・・・・・。やっぱり危ないかなぁ・・・・・・。」
「なら、私達が護衛でついて行きますよ。」
「いいの!?」
「そこには多分行ったことは無いと思うので探索のついでに・・・・・・。」
「依頼受けてくる!」
マルネが栗色の髪を躍らせながら掲示板の方へと駆け寄る。
彼女は人がまばらになった掲示板から吟味して依頼書を一枚剥がし、受注手続きを行うため受付に向かった。
それを見届けたヒノカが俺に問う。
「周辺の探索は良いのか?」
「それはまた別の機会でもいいかなと思って。行った事の無い場所だろうし、目的から外れてるとも言い難いしね。それに、ついて行けば採取場所も分かるから。」
「そうね、白紙の状態で探すよりも効率的だわ。」
受注を済ませたマルネが息を切らせて戻ってくる。
「う、受けて来たよ・・・・・・。ちょ、ちょっと待ってて、私のパーティの子も呼んでくるから!」
そしてそのままギルドを飛び出して行ってしまった。
「もう少しゆっくり出来そうね・・・・・・飲み物を買ってくるわ。」
*****
フィーが三つ目のパフェを注文しようとした時、ギルドの入り口からマルネが姿を現した。
「ごめんねー、遅くなっちゃって。」
マルネの後ろには少女が三人。彼女らがパーティメンバーのようだ。
赤褐色でワイルドヘアーの少女が黄金色の瞳で俺達を一瞥し、マルネに問いかける。
「この子たちがマルネの言ってた護衛かい?」
「うん、そうだよ。この子たちすご・・・・・・あいたっ!」
自慢げに胸を張ったマルネの頭頂部にゴンと拳が振り下ろされた。
マルネに拳骨した子とは別の女の子が頭を下げる。
同時に金色の長い髪が垂れ下がり、育った果実がゆさゆさと主張した。
「本っ当にごめんなさいね、あなた達。マルネさんが無理に頼んでしまったのでしょう?」
その青い瞳からは清楚で誠実な感じが伝わってきて、うっかりシスターと呼んでしまいそうだ。
マルネが拳を落とした少女に抗議の声を上げる。
「いったーい、テリカちゃん何するのー!」
「マルネ、あんたこんな子達を護衛にしようって何考えてんのさ!」
「だ、だからぁ~・・・・・・。」
「そうですよ、マルネさん。よく見れば一年生の子たちではないですか。」
「レーゼちゃんも話聞いてよぉ~・・・・・・。」
その様子を見て、もう一人の少女が薄桃色のお団子頭を揺らしながら笑う。
「ぷぷぷ、マルネちゃん怒られてるー♪」
「うぅ・・・・・・ミゼルちゃんまで・・・・・・。」
話が進みそうにないのでこちらから声を掛ける。
「あ、あのー・・・・・・?」
レーゼと呼ばれた少女が再度頭を下げた。
そして再度、揺れた。
「ごめんなさいね、マルネさんがご迷惑をお掛けして。こちらの依頼は破棄させます。」
「い、いえ、そうではなくて――」
事情をかいつまんで説明する。
「それでは・・・・・・本当にあなた方が護衛を?」
「はい、提案もこちらからですので、その・・・・・・。」
マルネとテリカと呼ばれた少女の方をちらりと見る。
頭をグリグリとされていたマルネが解放された。
涙目でテリカに抗議するマルネ。
「だ、だから最初に言ったのにぃ~。」
「一年生の子だなんて聞いてないよ。」
「そうですよ、一年生の子を危険に晒す訳にはいきません。」
「そんなに危険なんですか?」
「ええ、何度か行った事がある場所なのですけれど、魔物に遭わなかった事は無かったです。それで危険なので其処には行かないという事になったのですが・・・・・・。」
レーゼがマルネを見てため息を吐いた。
「遭遇した魔物っていうのは?」
「ゴブリン、コボルド、ヴォルフ・・・・・・それにオークなんかもいました。」
どれも低ランクの仕事で見るような魔物だ。
「それくらいなら問題ありません。」
「それくらいって・・・・・・どれも冒険者の方が相手にするような魔物ですよ?」
「あ~・・・・・・、レーゼちゃん。その子、冒険者なんだよ。ランクCの。」
「嘘、ですよね?」
「い、いやいやホントだって! あれ見せてあげてよ、アリスちゃん!」
マルネが懇願するように瞳をこちらに向ける。
俺はギルド証の情報を表示し、全員に見えるように見せた。
「ランクC・・・・・・間違いない、ですね。」
「こんな小さな子が・・・・・・かい?」
二人の反応を見てフフンと鼻を鳴らすマルネ。
「ほらー、言った通りでしょ! ミゼルちゃんも何か言ってあげてよ! って何食べてんの!?」
ミゼルと呼ばれた少女はフィーと並んで座り、いつのまに買ってきたのかパフェを突いている。
「パフェだよぉ~? おいしい~!」
「そうじゃなくてぇ!」
「じゃあ・・・・・・なんの話だっけ~?」
「マルネ・・・・・・ややこしくなるんだからミゼルに話を振るんじゃないよ。ミゼルは黙ってパフェ食ってな。」
「うぅ・・・・・・。」
「ふぁ~い。ぱく。」
テリカがやれやれと首を振り、場を仕切り直す。
「えーと、それで・・・・・・結局依頼はどうするんだい?」
「破棄しましょう。いくら冒険者とはいえ一年の小さな子に危険な事はさせられません。」
「で、でもそれじゃあお金どうするの?」
「別に、あと半月くらいは大丈夫だろう?」
「そうですね。心許ないのは確かですが、命には代えられません。」
雲行きが怪しくなってくる。
話が決まってしまう前にマルネ達の会話に割り込んだ。
「あのー、いいですか?」
マルネが代表して応える。
「どうしたの、アリスちゃん?」
「どちらにしろ私達はこの仕事をするつもりなので、魔物と遭遇できるなら大歓迎なのですが。」
先程受けた依頼書をマルネ達に見せる。
「随分安いの依頼じゃないか。こんなの受けたのかい?」
「周辺の探索ついでに気軽に出来そうなのがこれだったので、先輩方に案内して貰えるなら心強いです。」
テリカとレーゼが顔を見合わせる。
「申し出は有難いのですが、その・・・・・・失礼ですが・・・・・・本当に大丈夫なのですか?」
「もし先輩方が危険だと判断されれば、その時は引き返します。それで構いませんか?」
「・・・・・・分かりました。それでは準備をして学院の門の所で落ち合いましょう。」
こうして俺たちは準備のために学院寮へと戻った。
*****
部屋に戻った俺達は各々準備を進める。
早々に荷物を纏めたリーフが口を開いた。
「少し揉めていたみたいだけど、丸く収まって良かったわ。」
「うん、皆良い人そうだったね。」
荷物を確認しながらヒノカがリーフとフラムに目を向ける。
「リーフとフラムは大丈夫なのか?」
「えぇ、魔物と戦った経験ならあるわ。」
「ぇ・・・・・・ぁ・・・・・・わ、私は・・・・・・ご、ごめん、なさぃ。」
項垂れるフラムの頭を撫でながらヒノカに話す。
「気にしないで。フラムには私が付いてるから、ヒノカ達は好きに戦ってくれたらいいよ。」
俺の言葉にヒノカの瞳が静かに燃え上がった。
「ふむ、ならこちらは役割を決めて動いてみようか。ちょうど授業で言われているしな。」
リーフが頭を捻る。
「役割・・・・・・ねぇ。フィーとニーナが前線、ヒノカが私の守り、私は魔法で前線を援護、というところかしら?」
「それが良さそうだな。私としては前線に立ちたいが・・・・・・。」
話を聞いていたニーナが会話に割って入る。
「そんなことしなくてもボク達なら大丈夫じゃない?」
「だからこそ、だ。普段から出来ていなければ、いざという時にも出来ないだろう?」
ヒノカと同じく気合いの入ったフィーがコクリとヒノカに同意する。
「・・・・・・れんけいは大事。先生が言ってた。」
俺はフラムの鞄の口をキュッと縛り、フラムに背負わせた。
「よし・・・・・・っと、皆忘れ物は無い?」
「大丈夫よ。」
「問題無い。」
「・・・・・・うん。」
「準備完了だよ!」
「だ、大丈夫・・・・・・です。」
部屋を出て集合場所に向かうと、すでにマルネ達が待っていた。
「お待たせしてすみません。」
「ううん、私達もついさっき来たところだよ。」
「日も高くなってきましたし、少し急ぎましょう。」
「レーゼちゃん、その前に忘れてる事があるよ。」
「あら、何か忘れていましたか・・・・・・?」
「自己紹介だよ!」
「うふふ、そうでしたわね。私はレミューゼ。レーゼと呼んで下さいね。」
「アーテリカ。テリカと呼んでくれ。」
「ミゼルはミゼルだよ~。」
こちらも各々名乗り、自己紹介を終えた。
「それでは皆さん、少し急ぎ足で参りましょう。最初の採取場所までに休憩出来るところがあるので、お昼はそこで。」
*****
全員で街道を進む。
総勢10名。かなりの人数だ。
仕事さえ無ければちょっとした遠足気分。
道は舗装されて歩き易いが、少し外れるとそこはもう森の中である。
太陽が真上を過ぎたあたりで、休憩所が見えてきた。
先頭を行くレーゼが俺達を振り返る。
「お昼はあそこで摂りましょう。」
休憩所に着くと、マルネたちはシートを敷き、その上に荷物を下ろした。
本当にピクニックに来ているようだ。
俺達は荷物が嵩張るのでそんな物は持ってきていない。
シートの上にドカリと腰を降ろしたマルネが空を仰ぐ。
「ふーっ、やっと着いたー。やっぱ馬車に乗りたいよねー。」
「そうですけど、お金が掛かってしまいますからね。」
そんな会話をしながらマルネ達は慣れた手つきでお弁当を広げ始める。
対して俺達は携帯食を取り出して終わりだ。
そんな俺達にレーゼが心配そうに声を掛けてくる。
「貴方達・・・・・・お昼はそれだけ?」
「そうですよ。荷物が嵩張ると動き辛くなってしまうので。」
「ダメよ、そんなのじゃあ! 私達のを分けてあげるから一緒に食べましょう?」
「それだと先輩達の分が・・・・・・。」
「うーん、それならその携帯食を分けてくれればいいわ。そうしましょう!」
レーゼの提案にマルネも乗り気だ。
「そうだよ、こっち座りなよ。」
「じゃ、じゃあお願いします。」
二人に押し切られ、皆でシートの上に座っていく。
俺も座ろうとシートに足を踏み入れるとレーゼに腕を掴まれた。
「うふふ、アリスちゃんはこっちよ。」
「え・・・・・・? え・・・・・・?」
そのまま引っ張られレーゼの膝の上に座らされた。
「あ、あのー・・・・・・?」
後ろからギュッと抱きつかれ二つの柔らかい塊に埋もれそうになる。
「やっぱり可愛いわー、アリスちゃん!」
広げられたマルネ達のバスケットには色々なサンドイッチがギッシリと詰まっている。
四人で食べるにしても量が多い。
「お弁当はいつもレーゼちゃんが作ってくれるんだけど、なんか今日は量が多いような・・・・・・。」
「いや、明らかに多いな・・・・・・。」
これを腹に納めてしまえば携帯食が入る余裕などなくなるだろう。
「ミゼルは多い方が嬉しいな~。」
「うふふ、今日は可愛い子が沢山いるから張り切りすぎてしまいまして。」
赤らめた頬を両手で隠すレーゼ、だが俺の身体はしっかりとホールドされている。
フィー達の方に目を向けるが、巻き込まれない為にか、誰も目を合わせてくれない。
「それじゃあアリスちゃん、どれが食べたい?」
「え、えっと・・・・・・じゃあ玉子のを・・・・・・。」
レーゼはバスケットからたまごサンドを取ると俺の口元へ運ぶ。
「はい、あーん。」
「・・・・・・・・・・・・ぁーん。」
*****
ギッシリと詰まっていたバスケットも空になり、昼食の後片付けを行う。
休憩所はすっかり元通りの姿に戻った。
マルネが鞄を背負い、声を上げる。
「さて、そろそろ行くよ~。ここからは森の中を進むからね!」
マルネは休憩所の奥へ進み、簡易な柵に沿って何かを探し始めた。
「えっと~・・・・・・あ、あった! ここを進んで行くよ!」
マルネの示した場所を見ると、獣道が森に飲み込まれる様に続いている。
俺達はマルネの案内で森の中へと足を踏み入れたのだった。
0
お気に入りに追加
203
あなたにおすすめの小説
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
異世界転移した先で女の子と入れ替わった!?
灰色のネズミ
ファンタジー
現代に生きる少年は勇者として異世界に召喚されたが、誰も予想できなかった奇跡によって異世界の女の子と入れ替わってしまった。勇者として賛美される元少女……戻りたい少年は元の自分に近づくために、頑張る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる