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条件1:業務外の報告禁止!
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役員用の会議室は窓がない。
紺色のカーペットが広がる床の上に会議室のテーブルと椅子、部屋の奥にプロジェクターがあるだけで扉を閉めれば完全な密室だ。
この密室の中で本日、胡桃沢 和奏(くるみさわ わかな)は決心した。
今がチャンス!…と。
「いつも綺麗にしていただき、ありがとうございます」
会議室を掃除している最中にお礼を言っているのにも関わらず、表情を一切変えないポーカーフェイスな彼、相良 大貴(さがら だいき)が現れた。
眼鏡の奥には切れ長の瞳、鼻筋の通ったクールなイケメンと言う見かけだが、中身は堅物で融通が効かないらしいと噂の彼なのに私はときめいてしまうのだ。
相良さんは副社長専属秘書をしていて、会議室を掃除していると時々、覗きに来る。
「当然の事です。それより…」
仕事以外の会話はあまりした事もなく、高鳴る心臓を右手で押さえつつ、勇気を出して問いかける。
「相良さんは彼女居ますか?」
恥ずかしいので、若干、早口になりながらも言い切った。
我ながらよく勇気を出して頑張ったと自画自賛もする間もなく、返答は瞬間的に自分に戻ってきた。
「業務以外のプライベートの事は答える義務はないはずです」
こうなったらどうにでもなれと言う投げやりな感じで、気持ちをぶつけた。
「す、好きです!相良さんの事!」
「業務中ですので、お答え出来ません。失礼致します」
突然の告白にも驚きもせず、一礼して会議室を去ってしまった。
………玉砕。
完全なる敗北。
胡桃沢 和奏、25歳。
派遣の受付嬢をしていて、4月から彩羽(いろは)コーポレーションの本社に勤務になりました。
同じく、4月から副社長の専属秘書になった相良さんに一目惚れをしてしまい、7月下旬に勢い余って告白しましたが玉砕しました。
『業務中ですので、お答え出来ません』との返答を受け、振られたのかどうかも分からず、ただ落ち込むばかり。
突然の告白から相良さんには会えず、通りかかるのをただ見ているだけ───……
若い受付嬢が入社してくる中、私はもう潮時かな?と思っている。
他の仕事はした事がなく、辞めるにしても職が見つかるかどうかも不安。
特別高いスキルがある訳でもなく、英会話も挨拶程度にしか出来ず、いっその事、永久就職しちゃいたい。
永久就職するなら、本当に好きな人が良いな。
「先輩は誰が好みですか?私は断然、副社長ですけどっ!」
受付カウンターで隣に座る新人の奈子ちゃんが遠くに見えた副社長を見つけて、頬を赤くしながらはしゃぐ。
モデルの様な立ち振る舞い、時として小悪魔の様に微笑むカッコ可愛い系の若い副社長は通り過ぎるだけで女子社員の歓声が上がる。
婚約者が居るとの噂だが、女子社員はまだ望みがあると思っているのか、少しでも接近して自分に目を惹きたいらしい。
副社長は愛想も良く、自分から各部署にお邪魔しては社員の話を聞き、信頼も厚い様だ。
「王子の事、朝見れるだけでも幸せっ」
奈子ちゃんが嬉しそうに呟く。
「私は…相良さん…」
「えぇ!?相良さん!?た、確かにカッコイイですけど、無愛想だし、いつも無表情じゃないですか!…笑ったところ、見たことないかも…!」
誰も見た事がないかもしれない相良さんの笑ったところを私は見た事がある。
副社長といる相良さんは自然体で、お互いに信頼しているのか、友達同士のやり取りの様な感じに見える。
いつもはクールで仕事が出来る相良さんのギャップにキュンとして、もっと接したいと思う様になった。
眼鏡を外して、眼鏡の奥の瞳を見てみたい。
素の表情を見てみたい。
もっと話をしてみたい。
それなのに、恋は始まる前に終わりました───……
紺色のカーペットが広がる床の上に会議室のテーブルと椅子、部屋の奥にプロジェクターがあるだけで扉を閉めれば完全な密室だ。
この密室の中で本日、胡桃沢 和奏(くるみさわ わかな)は決心した。
今がチャンス!…と。
「いつも綺麗にしていただき、ありがとうございます」
会議室を掃除している最中にお礼を言っているのにも関わらず、表情を一切変えないポーカーフェイスな彼、相良 大貴(さがら だいき)が現れた。
眼鏡の奥には切れ長の瞳、鼻筋の通ったクールなイケメンと言う見かけだが、中身は堅物で融通が効かないらしいと噂の彼なのに私はときめいてしまうのだ。
相良さんは副社長専属秘書をしていて、会議室を掃除していると時々、覗きに来る。
「当然の事です。それより…」
仕事以外の会話はあまりした事もなく、高鳴る心臓を右手で押さえつつ、勇気を出して問いかける。
「相良さんは彼女居ますか?」
恥ずかしいので、若干、早口になりながらも言い切った。
我ながらよく勇気を出して頑張ったと自画自賛もする間もなく、返答は瞬間的に自分に戻ってきた。
「業務以外のプライベートの事は答える義務はないはずです」
こうなったらどうにでもなれと言う投げやりな感じで、気持ちをぶつけた。
「す、好きです!相良さんの事!」
「業務中ですので、お答え出来ません。失礼致します」
突然の告白にも驚きもせず、一礼して会議室を去ってしまった。
………玉砕。
完全なる敗北。
胡桃沢 和奏、25歳。
派遣の受付嬢をしていて、4月から彩羽(いろは)コーポレーションの本社に勤務になりました。
同じく、4月から副社長の専属秘書になった相良さんに一目惚れをしてしまい、7月下旬に勢い余って告白しましたが玉砕しました。
『業務中ですので、お答え出来ません』との返答を受け、振られたのかどうかも分からず、ただ落ち込むばかり。
突然の告白から相良さんには会えず、通りかかるのをただ見ているだけ───……
若い受付嬢が入社してくる中、私はもう潮時かな?と思っている。
他の仕事はした事がなく、辞めるにしても職が見つかるかどうかも不安。
特別高いスキルがある訳でもなく、英会話も挨拶程度にしか出来ず、いっその事、永久就職しちゃいたい。
永久就職するなら、本当に好きな人が良いな。
「先輩は誰が好みですか?私は断然、副社長ですけどっ!」
受付カウンターで隣に座る新人の奈子ちゃんが遠くに見えた副社長を見つけて、頬を赤くしながらはしゃぐ。
モデルの様な立ち振る舞い、時として小悪魔の様に微笑むカッコ可愛い系の若い副社長は通り過ぎるだけで女子社員の歓声が上がる。
婚約者が居るとの噂だが、女子社員はまだ望みがあると思っているのか、少しでも接近して自分に目を惹きたいらしい。
副社長は愛想も良く、自分から各部署にお邪魔しては社員の話を聞き、信頼も厚い様だ。
「王子の事、朝見れるだけでも幸せっ」
奈子ちゃんが嬉しそうに呟く。
「私は…相良さん…」
「えぇ!?相良さん!?た、確かにカッコイイですけど、無愛想だし、いつも無表情じゃないですか!…笑ったところ、見たことないかも…!」
誰も見た事がないかもしれない相良さんの笑ったところを私は見た事がある。
副社長といる相良さんは自然体で、お互いに信頼しているのか、友達同士のやり取りの様な感じに見える。
いつもはクールで仕事が出来る相良さんのギャップにキュンとして、もっと接したいと思う様になった。
眼鏡を外して、眼鏡の奥の瞳を見てみたい。
素の表情を見てみたい。
もっと話をしてみたい。
それなのに、恋は始まる前に終わりました───……
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