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お客様は神さま!……ではありません?
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「……良い機会だから単刀直入に言うが、先日、休日に篠宮と出かけていたら後をつけられていた事があった。身に覚えはないか?」
「あぁー、たまたま居合わせただけじゃないですか?」
「そうか?篠宮の仕事帰りにも後をつけていた事があっただろう?」
「その日は友達の家に行く途中でした。なのに、勘違いしちゃって酷いなー」
一颯さんが口を開き始めたら、幸田様を質問責めにしていた。幸田様は動じずに否定しながらニヤニヤと笑っている。仕事帰りに後をつけられていた時は、一颯さんのマンションに向かう時だった。そうだ、あの時は買い物した卵が割れてしまったんだっけ?
もう一度はいつ?
そう言えば、海岸近くのショッピングモールを歩いていた時に一颯さんが急に走り出した時があった。その時は聞いてもはぐらかされたけれど、もしかして、幸田様が居たって事かな?
「今回の事を含めて器物破損やストーカー行為に値するので警察沙汰にしても良いが、他のお客様や従業員が怪我を負ったりした訳ではないので見逃してはやるつもりだ。だが…篠宮が精神的苦痛を味わっていて、訴えたいと言うならば話は別だ。
それとも何か?警察沙汰よりも精神的苦痛になるように仕向けようか?例えば、お前の母親に引き取りに来てもらうとかだ?」
「随分と考えている事がえげつないねぇ」
私が「訴えなくて良い」と言おうとして「訴えな…」まで発したのだが言葉を止めるように、私の左手に一颯さんの右手が覆いかぶさった。幸田様の目の前で手を合わせるなんて良いのかな?
「支配人が母親に認められてるのは知ってるよ。息子を認めないで、一族でもないあんたに肩入れしてるから腹が立つんだよ!だからこそ、あんたには潰れて欲しかった!」
「だからって篠宮は関係ないだろう?」
「篠宮さんはね、例のリゾートホテルで見かけて本当に可愛くて一目惚れして、このホテルで再会出来たのが何かの縁だと思ったんだ。だけどね、あんたを見てる視線だとかに気付いた時に憎悪が生まれたよ。あぁ、そうだ、潰すにはこの子を利用しようってね。極めつけが篠宮さんがあんたのマンションに行く所だった事が分かった時だよ!
でもさ、ベルギー産のチョコをあげても言葉で誘導しても、篠宮さんは俺の存在価値にも気付いてはくれなくて……使えない駒だったって訳!」
上手く頭の中が整理できない。
「……そうか。言いたい事はそれだけか?」
「あんたに話す事なんてもう何もないよ」
「一条様も一人息子がこんなに馬鹿じゃなかったら苦労もしなかったのにな。修行の為とは言え、一条様のホテルグループにも入れてもらえず、就職も決まらず……、それでも一条グループの御曹司か?」
「御曹司なんかじゃないぞ、そもそも父親に引き取られてるんだからな!」
「父親に引き取られていたとしても、ホテル業界に骨を埋めようとしたのは自分自身だろ?離縁しようと一条様はお前を後継者としても考えているのだから、一からやり直せ!」
一颯さんは淡々と話し、幸田様は目線を外して聞いていた。
「自分だけが可哀想だなんて思ってないで、次のステップに進めるように考え直せ。明日までゆっくり静養してから帰るんだぞ。話は以上だ、行くぞ、篠宮」
「え、あ、はいっ」
私は一颯さんに手を引っ張られ、客室を出た。出た瞬間に「何も喋らないで着いてこい」と小声で言われたので静かにうなづいた。
行先は支配人室だった。入るなり、扉をの鍵を閉めて抱き締められる。
「一颯さん……?」
「無理させないようにと見守っていたけど、俺が出て行って言おうとしていたセリフをお前に横取りされた」
「えっと……、思い当たるのはお引き取り願えますかですか?」
「その通り」
一颯さんからは笑みが零れていたけれど、抱き締める力が強くて少しだけ痛い。
「……お前が来るな、と言ったのを鵜呑みにして、どう対処するのかも気になって様子見をしていてごめん。良く頑張ったな。あれ以上はお客様にももっと御迷惑がかかるし、お前も限界だったから出て行ったんだ」
「……本当はね、怖かったんです、とっても。でもね、幸田様は私が標的だったから頑張りました。それに……一颯さんとも別れたくなかったし…っん、」
話を遮るように口を塞がれた。
「今度の公休日はいっぱい甘やかしてやる。それにお仕置きもたっぷりとしてやるからな、覚悟しとけ!」
「な、何でお仕置きも?」
「支配人の俺を差し置いて、美味しいセリフを持って行った件について」
「わ、それって…私のせいですか?酷い…」
一颯さんは笑いながら、優しく私の頭を撫でてくれた。
先程に理解出来なかった件は一颯さんに説明してもらって納得がいった。幸田様は一条様の一人息子で、離婚して父方の幸田の姓を名乗っている。そんな訳で、私が幸田様を知らなかった事にも腹を立てていたらしい。離婚したとしても知る人ぞ知る一条グループの御子息なので、近寄って来る人達も多かったのだとか。
幸田様の存在は知っていたが、一条様の立場もあり、守秘義務もあるので一颯さんは私にも明かさなかったらしい。明かさないつもりなら全力で守ろうという誓いを立てた矢先の今回の出来事だった。ちなみに一条様から一人息子が居るとは聞いていたが、離婚していた上に父方に引き取られている事はトップシークレットだったので一颯さんも知らなかったらしい。幸田様は配膳会には一条で登録していたとの事なので、幸田様の事を予約の時点で気付けなかったのも仕方のないことなのかもしれない。
「あぁー、たまたま居合わせただけじゃないですか?」
「そうか?篠宮の仕事帰りにも後をつけていた事があっただろう?」
「その日は友達の家に行く途中でした。なのに、勘違いしちゃって酷いなー」
一颯さんが口を開き始めたら、幸田様を質問責めにしていた。幸田様は動じずに否定しながらニヤニヤと笑っている。仕事帰りに後をつけられていた時は、一颯さんのマンションに向かう時だった。そうだ、あの時は買い物した卵が割れてしまったんだっけ?
もう一度はいつ?
そう言えば、海岸近くのショッピングモールを歩いていた時に一颯さんが急に走り出した時があった。その時は聞いてもはぐらかされたけれど、もしかして、幸田様が居たって事かな?
「今回の事を含めて器物破損やストーカー行為に値するので警察沙汰にしても良いが、他のお客様や従業員が怪我を負ったりした訳ではないので見逃してはやるつもりだ。だが…篠宮が精神的苦痛を味わっていて、訴えたいと言うならば話は別だ。
それとも何か?警察沙汰よりも精神的苦痛になるように仕向けようか?例えば、お前の母親に引き取りに来てもらうとかだ?」
「随分と考えている事がえげつないねぇ」
私が「訴えなくて良い」と言おうとして「訴えな…」まで発したのだが言葉を止めるように、私の左手に一颯さんの右手が覆いかぶさった。幸田様の目の前で手を合わせるなんて良いのかな?
「支配人が母親に認められてるのは知ってるよ。息子を認めないで、一族でもないあんたに肩入れしてるから腹が立つんだよ!だからこそ、あんたには潰れて欲しかった!」
「だからって篠宮は関係ないだろう?」
「篠宮さんはね、例のリゾートホテルで見かけて本当に可愛くて一目惚れして、このホテルで再会出来たのが何かの縁だと思ったんだ。だけどね、あんたを見てる視線だとかに気付いた時に憎悪が生まれたよ。あぁ、そうだ、潰すにはこの子を利用しようってね。極めつけが篠宮さんがあんたのマンションに行く所だった事が分かった時だよ!
でもさ、ベルギー産のチョコをあげても言葉で誘導しても、篠宮さんは俺の存在価値にも気付いてはくれなくて……使えない駒だったって訳!」
上手く頭の中が整理できない。
「……そうか。言いたい事はそれだけか?」
「あんたに話す事なんてもう何もないよ」
「一条様も一人息子がこんなに馬鹿じゃなかったら苦労もしなかったのにな。修行の為とは言え、一条様のホテルグループにも入れてもらえず、就職も決まらず……、それでも一条グループの御曹司か?」
「御曹司なんかじゃないぞ、そもそも父親に引き取られてるんだからな!」
「父親に引き取られていたとしても、ホテル業界に骨を埋めようとしたのは自分自身だろ?離縁しようと一条様はお前を後継者としても考えているのだから、一からやり直せ!」
一颯さんは淡々と話し、幸田様は目線を外して聞いていた。
「自分だけが可哀想だなんて思ってないで、次のステップに進めるように考え直せ。明日までゆっくり静養してから帰るんだぞ。話は以上だ、行くぞ、篠宮」
「え、あ、はいっ」
私は一颯さんに手を引っ張られ、客室を出た。出た瞬間に「何も喋らないで着いてこい」と小声で言われたので静かにうなづいた。
行先は支配人室だった。入るなり、扉をの鍵を閉めて抱き締められる。
「一颯さん……?」
「無理させないようにと見守っていたけど、俺が出て行って言おうとしていたセリフをお前に横取りされた」
「えっと……、思い当たるのはお引き取り願えますかですか?」
「その通り」
一颯さんからは笑みが零れていたけれど、抱き締める力が強くて少しだけ痛い。
「……お前が来るな、と言ったのを鵜呑みにして、どう対処するのかも気になって様子見をしていてごめん。良く頑張ったな。あれ以上はお客様にももっと御迷惑がかかるし、お前も限界だったから出て行ったんだ」
「……本当はね、怖かったんです、とっても。でもね、幸田様は私が標的だったから頑張りました。それに……一颯さんとも別れたくなかったし…っん、」
話を遮るように口を塞がれた。
「今度の公休日はいっぱい甘やかしてやる。それにお仕置きもたっぷりとしてやるからな、覚悟しとけ!」
「な、何でお仕置きも?」
「支配人の俺を差し置いて、美味しいセリフを持って行った件について」
「わ、それって…私のせいですか?酷い…」
一颯さんは笑いながら、優しく私の頭を撫でてくれた。
先程に理解出来なかった件は一颯さんに説明してもらって納得がいった。幸田様は一条様の一人息子で、離婚して父方の幸田の姓を名乗っている。そんな訳で、私が幸田様を知らなかった事にも腹を立てていたらしい。離婚したとしても知る人ぞ知る一条グループの御子息なので、近寄って来る人達も多かったのだとか。
幸田様の存在は知っていたが、一条様の立場もあり、守秘義務もあるので一颯さんは私にも明かさなかったらしい。明かさないつもりなら全力で守ろうという誓いを立てた矢先の今回の出来事だった。ちなみに一条様から一人息子が居るとは聞いていたが、離婚していた上に父方に引き取られている事はトップシークレットだったので一颯さんも知らなかったらしい。幸田様は配膳会には一条で登録していたとの事なので、幸田様の事を予約の時点で気付けなかったのも仕方のないことなのかもしれない。
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