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お客様は神さま!……ではありません?
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まず初めに幸田様にシャンパンを注いだ後、前菜を提供した。締めくくりのデセール(食後のデザート)を提供するまで、私達は食事をなさっている幸田様のお話を聞きながら、傍に立って居た。
幸田様の大学時代の話や配膳会での笑い話など、話を聞いている限りでは至って普通だった。私が思っていたよりも、親しみ易い方だったのかもしれない。毛嫌いしていた事を申し訳なく感じる。
「ご馳走様でした。篠宮さんと中里さんにサービスして貰って良かった。最高の卒業旅行になりそうだよ」
デセールを食べ終わり、最後のコーヒー一口を飲み干した幸田様は笑顔を見せた。
「篠宮さんと中里さんにプレゼントがあるんだ。来てくれると想定して用意してた、ベルギー産のチョコレート。本場限定品なんだよ」
「お気持ちは有難いのですが、貴重なチョコレートを私共は頂く事は出来ません!」
ついつい受け取りそうになってしまったが、我がホテルでは個人的な贈り物は、一先ずお断りするのがルールとなっている。後々のトラブルを避ける為だ。
「そう固いことは言わずに受け取ってよね?はい!…受け取ってくれないとゴミ箱行きだから可哀想でしょ?」
無理矢理に渡されたチョコレートを手の内に収められる。仕方なく受け取ったと言えば聞こえは悪いが、再度渡されたのでお礼を言った。素直に喜ぶ事が出来たら良かったのだが、幸田様には裏があるような気がしてならない。わだかまりを溶かしつつも、疑いは晴れないままだ。
このチョコレートは支配人室で食べたメーカーの物だった。強いて言えばパッケージは食べた物よりも小さいが、見た目が同じようなので想像するに中身はほぼ一緒なのかもしれない。
「この後はラウンジに友達を呼んであるんだ。良かったら、顔出してね」
「勤務中ですので、お伺い出来るかどうかはお約束出来ません」
「相変わらず、篠宮さんは真面目だね。ちょっと…本のちょっとで良いんだ。顔を見せてくれるだけで」
「……かしこまりました。お友達がいらっしゃいましたら、御挨拶にお伺い致します」
「宜しくね。中里さんも来れたら来てね」
幸田様は笑顔を絶やさずに居たが、私の表情は強ばっていたかもしれない。ルームサービスを終えて、客室を出た後に優月ちゃんが私の顔色の悪さに気付いた。
「大丈夫?気分悪い?」
「だ、大丈夫だよ。……こんな事は言っちゃいけないんだけど、幸田様の笑顔の裏には何かありそうで…やっぱり怖い」
一颯さんのマンションに向かう途中に後をつけられていた事、勤務中にも関わらずに執拗にプライベートを聞き出そうとする姿勢、私には初めての経験で何だか怖い。男性との付き合いの経験も乏しい私には上手く交わせなくて、ついつい怒っているような突っぱねてしまっているような態度をとってしまいがち。そんな態度が余計に幸田様の機嫌を損ねているとしたら……?
「恵里奈ちゃんは怖い思いもしてるんだから、そう思っても仕方ないよ。私も一緒にラウンジに行こうか?」
「ううん、大丈夫。フロアには高見沢さんも居るから何とかなりそうだよ。それよりも、遅い時間まで有難う」
私は首を横に振り、優月ちゃんの好意を断った。傍についていてくれた星野さんが一颯さんに電話で様子を伝えてくれて、ラウンジに立ち寄る時は傍で見守ってくれる事になった。
「支配人には連絡したから、緊急時はすぐ対処出来ると思う。篠宮さん、一人で解決しようとせず、皆を頼ってくれて良いんだよ。皆、仲間なんだから…」
「はい、有難う御座います!心強いです」
「とりあえずは夜は支配人に任せる事にして、翌朝は俺がラウンジに様子を見に来るね」
私は星野さんと優月ちゃんに助けられ、幸田様の宿泊を乗り切ろうとした。……が、しかし、先程はあんなにも笑顔を見せていた幸田様が暴走するとは───……
幸田様のお友達が来店したとの連絡を受けて、私もラウンジに向かった。お友達は清楚な格好をしていて、品のある大学生に見える方々だった。見かけで人を判断してはいけないのだが、その姿を見ては胸を撫で下ろす。
「篠宮さん、来てくれたんだね!」
幸田様は私を見つけるなり、手招きをして呼び寄せる。
「初めまして、篠宮と申します。幸田様には配膳会の繋がりでお世話になっております。皆様、本日はお越しくださり有難う御座います。時間の許す限り、皆様で御歓談していって下さいね」
「へぇー、篠宮さんって言うんだ。可愛いね」
「可愛いけど、隼人よりも年上なの?見えないねー。同じ位かと思った!」
私は精一杯の挨拶をして、自分なりの最上級の笑顔を見せた。お友達が私を見てはひやかし、私の手を取っては握手をして来たりした。早く去りたいけれど、私が早々と去った事により問題を起こされては困るので我慢した。
「篠宮さん、何時に上がれる?」
「今日は遅番なので、まだ退勤を押す時間にはなりません」
「一緒に飲も?」
「お客様と御一緒する事は出来かねます」
奥側に座っていた幸田様がニヤリ、と笑ってお酒を交わす誘いをして来たが私は直ぐ様、断りを入れた。
幸田様の大学時代の話や配膳会での笑い話など、話を聞いている限りでは至って普通だった。私が思っていたよりも、親しみ易い方だったのかもしれない。毛嫌いしていた事を申し訳なく感じる。
「ご馳走様でした。篠宮さんと中里さんにサービスして貰って良かった。最高の卒業旅行になりそうだよ」
デセールを食べ終わり、最後のコーヒー一口を飲み干した幸田様は笑顔を見せた。
「篠宮さんと中里さんにプレゼントがあるんだ。来てくれると想定して用意してた、ベルギー産のチョコレート。本場限定品なんだよ」
「お気持ちは有難いのですが、貴重なチョコレートを私共は頂く事は出来ません!」
ついつい受け取りそうになってしまったが、我がホテルでは個人的な贈り物は、一先ずお断りするのがルールとなっている。後々のトラブルを避ける為だ。
「そう固いことは言わずに受け取ってよね?はい!…受け取ってくれないとゴミ箱行きだから可哀想でしょ?」
無理矢理に渡されたチョコレートを手の内に収められる。仕方なく受け取ったと言えば聞こえは悪いが、再度渡されたのでお礼を言った。素直に喜ぶ事が出来たら良かったのだが、幸田様には裏があるような気がしてならない。わだかまりを溶かしつつも、疑いは晴れないままだ。
このチョコレートは支配人室で食べたメーカーの物だった。強いて言えばパッケージは食べた物よりも小さいが、見た目が同じようなので想像するに中身はほぼ一緒なのかもしれない。
「この後はラウンジに友達を呼んであるんだ。良かったら、顔出してね」
「勤務中ですので、お伺い出来るかどうかはお約束出来ません」
「相変わらず、篠宮さんは真面目だね。ちょっと…本のちょっとで良いんだ。顔を見せてくれるだけで」
「……かしこまりました。お友達がいらっしゃいましたら、御挨拶にお伺い致します」
「宜しくね。中里さんも来れたら来てね」
幸田様は笑顔を絶やさずに居たが、私の表情は強ばっていたかもしれない。ルームサービスを終えて、客室を出た後に優月ちゃんが私の顔色の悪さに気付いた。
「大丈夫?気分悪い?」
「だ、大丈夫だよ。……こんな事は言っちゃいけないんだけど、幸田様の笑顔の裏には何かありそうで…やっぱり怖い」
一颯さんのマンションに向かう途中に後をつけられていた事、勤務中にも関わらずに執拗にプライベートを聞き出そうとする姿勢、私には初めての経験で何だか怖い。男性との付き合いの経験も乏しい私には上手く交わせなくて、ついつい怒っているような突っぱねてしまっているような態度をとってしまいがち。そんな態度が余計に幸田様の機嫌を損ねているとしたら……?
「恵里奈ちゃんは怖い思いもしてるんだから、そう思っても仕方ないよ。私も一緒にラウンジに行こうか?」
「ううん、大丈夫。フロアには高見沢さんも居るから何とかなりそうだよ。それよりも、遅い時間まで有難う」
私は首を横に振り、優月ちゃんの好意を断った。傍についていてくれた星野さんが一颯さんに電話で様子を伝えてくれて、ラウンジに立ち寄る時は傍で見守ってくれる事になった。
「支配人には連絡したから、緊急時はすぐ対処出来ると思う。篠宮さん、一人で解決しようとせず、皆を頼ってくれて良いんだよ。皆、仲間なんだから…」
「はい、有難う御座います!心強いです」
「とりあえずは夜は支配人に任せる事にして、翌朝は俺がラウンジに様子を見に来るね」
私は星野さんと優月ちゃんに助けられ、幸田様の宿泊を乗り切ろうとした。……が、しかし、先程はあんなにも笑顔を見せていた幸田様が暴走するとは───……
幸田様のお友達が来店したとの連絡を受けて、私もラウンジに向かった。お友達は清楚な格好をしていて、品のある大学生に見える方々だった。見かけで人を判断してはいけないのだが、その姿を見ては胸を撫で下ろす。
「篠宮さん、来てくれたんだね!」
幸田様は私を見つけるなり、手招きをして呼び寄せる。
「初めまして、篠宮と申します。幸田様には配膳会の繋がりでお世話になっております。皆様、本日はお越しくださり有難う御座います。時間の許す限り、皆様で御歓談していって下さいね」
「へぇー、篠宮さんって言うんだ。可愛いね」
「可愛いけど、隼人よりも年上なの?見えないねー。同じ位かと思った!」
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「篠宮さん、何時に上がれる?」
「今日は遅番なので、まだ退勤を押す時間にはなりません」
「一緒に飲も?」
「お客様と御一緒する事は出来かねます」
奥側に座っていた幸田様がニヤリ、と笑ってお酒を交わす誘いをして来たが私は直ぐ様、断りを入れた。
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