40 / 70
社内恋愛の事情を知ってしまいました!
3
しおりを挟む
声が聞こえたので、後ろを振り返るとショルダーバッグを手に握りしめている吉沢さんが居た。高見沢さんの背中に当たった何かはバッグで、ぶつけたのは吉沢さんらしい。
「見かけたから話をかけようと思ったら…私の話をしてたから聞かないように遠回りして行こうと思ったけど、話、聞こえちゃって…」
「吉、ざ…わ…」
大きな目からは今にも涙が零れ落ちそうな位に溜まっている。震えている声。
「高見、沢…ごめん…ね、彼氏の話したり、して…。も、しない…から」と言って、吉沢さんは走って行ってしまった。
高見沢さんに追いかけるように促したけれど、そんな素振りも見せずに早歩きで行ってしまった。私がふざけて高見沢さんを茶化したからいけないんだ。二人を傷つけてしまったに違いない……。
今日の始まりはとても憂鬱だった。仕事中も高見沢さんは口数少なくて、黙々と仕事をこなしているだけ。吉沢さんは休憩室にも顔を出さず、高見沢さんと会わないように避けているらしい。自分の巻いた種とは言え、………辛い、辛すぎる。どうして良いのか分からず、仕事の合間を見て、フラフラと一颯さんに会いに来てしまった。
「どうした?仕事中に会いに来るなんて珍しいな」
社内専用のスマホから一颯さんに電話をし、支配人室に行って良いかの確認をしてから向かった。一颯さんはPCで仕事をしていたが、私が入室すると手を休めた。
「あの…高見沢さんが…」
私は一颯さんのデスクの前に立ち、話を始める。
「高見沢?今日は元気がなさそうだったな。最近、アイツは上の空だったりして、仕事に身が入ってない気がする…」
「私のせいなんです!私が吉沢さんの話をしなければ、高見沢さんも傷付けなくてすんだのに。高見沢さんから何か聞いていませんか?一颯さんなら何か知ってるんじゃないかと思って。それに…私と一颯さんの関係にもショックを受けてるみたいです…」
「あぁ、高見沢と吉沢か……。高見沢からは何も聞いてないが、二人は大学の先輩後輩だとは言っていたな。……高見沢は吉沢が好きなんだろ?見てれば分かる。知らない人は居ないんじゃないか?って位に分かりやすい」
一颯さんは立ち上がり、私の頭を優しく撫でると「あんまり悩むな。後は当人同士の問題だから」と言ったが、私は気が重かった。
「……それから、誰が何と言おうがお前を選んだのは俺なんだから、手放す気もない。お前は違うのか?」
「………私も手離したくない、です」
一颯さんの手の温もりが頬に降りて、撫でられた。優しい目で私を見て、微笑んだ。一颯さんに見つめられると目を反らせない。
「なら、良かった。仕事に戻りなさい。戻りたくないなら、居ても良いけど…今は構ってはあげられないよ?」
「も、戻ります!邪魔してごめんなさい!」
「………仕事が終わったら、沢山構ってあげるから」
クスクスと笑う一颯さんは「仕事が終わったら連絡して」と言って、もう一度、私の頭を撫でた。名残惜しいが、支配人室を後にして、仕事に戻る。
エグゼクティブフロアにあるブッフェレストランの影から、吉沢さんが居ないかどうか見ていると私を見つけて駆け寄ってくれた。
「篠宮ちゃん、どしたの?」
「あ、えっと…、その…」
「朝の件かな?もうすぐ休憩入れるから、そしたら話そ!」
吉沢さんは私を見ては察したようで、笑顔で迎えてくれた。
休憩中に話をしたら、吉沢さんはいつも笑顔でいるけれど、その裏には抱えきれない程の寂しさを持ち合わせていた。正直、聞かなきゃ良かったなどと身勝手な事を思ってしまった。吉沢さんが彼氏を好きだと言う気持ちがある限り、高見沢さんは救ってあげられない。
「高見沢さん…、コーヒーこぼれてますよ…」
ルームサービスに持って行くコーヒーを用意していた高見沢さんは、コーヒーポットが満タンになっているのにも関わらず注ぎ続けていた。
「あぁ、しまった。どうかしてるな、俺…」
「私が代わりに運びますよ。高見沢さんは休んでいて下さい」
私は高見沢さんの代わりにルームサービスのスイーツセットを客室に運び、こぼしたコーヒーを片付けた。
壁に寄りかかり、項垂れている高見沢さん。
「吉沢に会った?」
「あ、えっと…はい、先程、少しだけ…」
私はいきなりの吉沢さんの話題だったので、どぎまぎしてしまった。
「吉沢の彼氏は浮気性でどうしようもないって話はしただろ?吉沢も何度も別れようとしたんだけど…その度に丸め込まれて信じて泣かされて…。何で別れないのか?って思ってたけど、それはつまり、吉沢が彼氏を忘れる事が出来ないからだ。俺が気持ちを伝えないのも…、現状が居心地が良いから……」
吉沢さんは高見沢さんの気持ちを薄々、気付いてはいたのだと思う。お互いに"友達"というカテゴリーを壊したくなくて、一歩を踏み出したくはなかった。こんなにも思ってくれている高見沢さんとお付き合いしたら、吉沢さんは幸せになれるはずなのに……恋は盲目なのだろう。彼氏を捨てられない。
痛い位に伝わる高見沢さんの気持ちが切ない。
「見かけたから話をかけようと思ったら…私の話をしてたから聞かないように遠回りして行こうと思ったけど、話、聞こえちゃって…」
「吉、ざ…わ…」
大きな目からは今にも涙が零れ落ちそうな位に溜まっている。震えている声。
「高見、沢…ごめん…ね、彼氏の話したり、して…。も、しない…から」と言って、吉沢さんは走って行ってしまった。
高見沢さんに追いかけるように促したけれど、そんな素振りも見せずに早歩きで行ってしまった。私がふざけて高見沢さんを茶化したからいけないんだ。二人を傷つけてしまったに違いない……。
今日の始まりはとても憂鬱だった。仕事中も高見沢さんは口数少なくて、黙々と仕事をこなしているだけ。吉沢さんは休憩室にも顔を出さず、高見沢さんと会わないように避けているらしい。自分の巻いた種とは言え、………辛い、辛すぎる。どうして良いのか分からず、仕事の合間を見て、フラフラと一颯さんに会いに来てしまった。
「どうした?仕事中に会いに来るなんて珍しいな」
社内専用のスマホから一颯さんに電話をし、支配人室に行って良いかの確認をしてから向かった。一颯さんはPCで仕事をしていたが、私が入室すると手を休めた。
「あの…高見沢さんが…」
私は一颯さんのデスクの前に立ち、話を始める。
「高見沢?今日は元気がなさそうだったな。最近、アイツは上の空だったりして、仕事に身が入ってない気がする…」
「私のせいなんです!私が吉沢さんの話をしなければ、高見沢さんも傷付けなくてすんだのに。高見沢さんから何か聞いていませんか?一颯さんなら何か知ってるんじゃないかと思って。それに…私と一颯さんの関係にもショックを受けてるみたいです…」
「あぁ、高見沢と吉沢か……。高見沢からは何も聞いてないが、二人は大学の先輩後輩だとは言っていたな。……高見沢は吉沢が好きなんだろ?見てれば分かる。知らない人は居ないんじゃないか?って位に分かりやすい」
一颯さんは立ち上がり、私の頭を優しく撫でると「あんまり悩むな。後は当人同士の問題だから」と言ったが、私は気が重かった。
「……それから、誰が何と言おうがお前を選んだのは俺なんだから、手放す気もない。お前は違うのか?」
「………私も手離したくない、です」
一颯さんの手の温もりが頬に降りて、撫でられた。優しい目で私を見て、微笑んだ。一颯さんに見つめられると目を反らせない。
「なら、良かった。仕事に戻りなさい。戻りたくないなら、居ても良いけど…今は構ってはあげられないよ?」
「も、戻ります!邪魔してごめんなさい!」
「………仕事が終わったら、沢山構ってあげるから」
クスクスと笑う一颯さんは「仕事が終わったら連絡して」と言って、もう一度、私の頭を撫でた。名残惜しいが、支配人室を後にして、仕事に戻る。
エグゼクティブフロアにあるブッフェレストランの影から、吉沢さんが居ないかどうか見ていると私を見つけて駆け寄ってくれた。
「篠宮ちゃん、どしたの?」
「あ、えっと…、その…」
「朝の件かな?もうすぐ休憩入れるから、そしたら話そ!」
吉沢さんは私を見ては察したようで、笑顔で迎えてくれた。
休憩中に話をしたら、吉沢さんはいつも笑顔でいるけれど、その裏には抱えきれない程の寂しさを持ち合わせていた。正直、聞かなきゃ良かったなどと身勝手な事を思ってしまった。吉沢さんが彼氏を好きだと言う気持ちがある限り、高見沢さんは救ってあげられない。
「高見沢さん…、コーヒーこぼれてますよ…」
ルームサービスに持って行くコーヒーを用意していた高見沢さんは、コーヒーポットが満タンになっているのにも関わらず注ぎ続けていた。
「あぁ、しまった。どうかしてるな、俺…」
「私が代わりに運びますよ。高見沢さんは休んでいて下さい」
私は高見沢さんの代わりにルームサービスのスイーツセットを客室に運び、こぼしたコーヒーを片付けた。
壁に寄りかかり、項垂れている高見沢さん。
「吉沢に会った?」
「あ、えっと…はい、先程、少しだけ…」
私はいきなりの吉沢さんの話題だったので、どぎまぎしてしまった。
「吉沢の彼氏は浮気性でどうしようもないって話はしただろ?吉沢も何度も別れようとしたんだけど…その度に丸め込まれて信じて泣かされて…。何で別れないのか?って思ってたけど、それはつまり、吉沢が彼氏を忘れる事が出来ないからだ。俺が気持ちを伝えないのも…、現状が居心地が良いから……」
吉沢さんは高見沢さんの気持ちを薄々、気付いてはいたのだと思う。お互いに"友達"というカテゴリーを壊したくなくて、一歩を踏み出したくはなかった。こんなにも思ってくれている高見沢さんとお付き合いしたら、吉沢さんは幸せになれるはずなのに……恋は盲目なのだろう。彼氏を捨てられない。
痛い位に伝わる高見沢さんの気持ちが切ない。
1
お気に入りに追加
345
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる