上 下
36 / 70
支配人の大切なお客様です。

しおりを挟む
───都内にあるが、周りには木々が沢山植えてあり、森に囲まれたような空間のカフェに一条様をお連れした。

以前、一人で探索に出掛けた時に偶然にも見つけて私にとっても癒しのカフェである。軽食もスイーツもドリンクメニューも充実していて、一条様のお口に合えば良いのだけれども……。

「私はダージリンとスコーンandケーキセットにするわ。貴方も好きな物を注文なさい。遠慮は皆無よ」

「一条様がこうおしゃってますから、篠宮様もどうぞ。申し遅れましたが、ボディガードをしております、武井と申します。以後、お見知りおきを…」

やっぱりボディガードだったのか。武井さんに勧められても、現在は業務中だ。一緒にご馳走になる訳にはいかない。

「私は篠宮と申します。宜しくお願い致します。私は業務中ですので結構で御座います」

丁寧にお断りしたのに、「武井も業務ですけど一緒にお茶するわよ」と言って、一条様は同じ物を三人分注文した。ダージリンティーとスコーンandケーキが届くと一条様は私に自分が何者かを話し始めた。

「今度、私が社長に就任するのよ。就任してからは外資系ホテルとも手を組もうかと思ってる。フランチャイズとして、外資系ホテルを増やしていこうと思っているのよ。その為にはね、優秀な人材が必要なの」

ティーカップを持つ指が美しい。口に運ぶ姿も洗練されている、気品溢れる女性。英語の時は急ぎ足の様な会話だったけれど、私には日本語でゆっくりと話をしてくれている。これが本来の一条様の姿なのかもしれない。

「一颯にも拓斗にも前々から話しているのだけれど、良い返事が貰えないの。あの二人をもっと大きな舞台に連れて行ってあげたいのに気乗りしないみたいね」

今まで誤解をしていたが、笑うと目尻が下がって優しく見える。私が思うよりも一条様は接しやすいのかもしれない。

「女社長になる器だから、男に舐められたら終わりなのよ。同等に生きていく為には、泣き言なんて言えないわ。貴方も同じね。自分の芯を曲げない、信念の持ち主。今は男に頼らない時代よ、共に頑張りましょう」

「はい、頑張ります」

一条様は私の手を両手で包み、微笑んだ。

「私が貴方から挑発を受けたと言ったら、一颯も拓斗も笑ってたのよ。私にとっては珍しい人種だから話してみる価値はあるって……」

「……私は支配人や高見沢さんのように優秀ではありません。ただ、お客様と接するのは大好きなので仕事を続けているのです。聞いてお分かりかと思いますが英語もぎこちないですからね、出来る事は限られています」

「あら、自分をそんなに卑下してはいけないのよ。もっと自信を持たなくちゃいけないわ。まだ若いんだから!」

一条様はそんな仕事の話から、若き頃の恋の御相手などを話してくれた。あっという間に二時間位が過ぎてしまったが帰る様子はなかった。

ホテルから着信があったが、一条様は私を帰そうとはしなかった。

「……一颯も心配症ね。貴方はスイートのバトラーのサブなんでしょ?だったら、あの子達に任せて、もっと色んな場所に行きましょうか!」

一条様は立ち上がり、カードで支払いを済ませて颯爽と立ち去る。車に乗り込み、「スコーンの味はイマイチだったけれど、癒しの空間だったわよ」と感想を述べた。確かにケーキandスコーンセットは日替わりで内容が代わるのだが、今日の抹茶スコーンはイマイチだった。

その後は一条グループのホテルを車から拝見したり、一颯さんと高見沢さんにお土産のケーキを購入したりした。気付けば制服のままで公共の場をウロウロしていた。今更、気にしても遅いけれども……。

「一条様、そろそろ篠宮を返して頂いても宜しいですか?」

「勿論、お返しするわ。今日は有難う、篠宮さん」

「こちらこそ、有難う御座いました」

ホテル付近になった時にメールを入れておいたので、私達を乗せた車が到着するのを見計らい、一颯さんと高見沢さんがロータリーで待機していた。一条様が降りる際には一颯さんが左手を取り、エスコートしていた。まるで映画みたいなワンシーン。一颯さんの立ち振る舞いに見惚れていると、その事に気付いた一条様が優しく微笑んだ。

「……一颯、ルームサービスを取りやめて、フレンチの席を予約して下さる?」

「かしこまりました。時間は追って連絡致します」

一条様はルームサービスをキャンセルし、エグゼクティブフロア専用のフレンチのお店を予約した。何故、心変わりをしたのだろう?

「それから、食事の間にシャンパンの用意とバスタブの用意が終わったら、今日は用事はないから、一颯は解放するわ。明日の朝、……そうね、10時になったら篠宮さんに荷造りをお願いしたいわ」

「……えぇ、一条様の指示ならば喜んで承ります」

一条様はバトラーとしての一颯さんを解任し、翌日は私がお伺いする事になった。ロイヤルスイートルームはチェックアウトが最大12時まで延長出来る。

一条様を客室にお送りし、別れ際に呼ばれたので近寄ると「貴方、一颯が好きなのね。見ていればすぐ分かるわよ。……良いクリスマスを!」と耳元で英語で囁かれた。見抜かれていた私はとても恥ずかしく、顔が火照った。

仕事も一段落を迎えて帰ろうとした時、
一颯さんからスマホアプリにメッセージが届いていた。今から帰るから少しだけでも会いたい、って。一颯さんのマンションの近くのコンビニまで歩き、待ち合わせ。

コンビニにはクリスマスの売れ残りのケーキが少しだけ残っていたので、飲みきりワインと甘めなカクテルと共に購入した。その他にもおつまみとか色々購入した。

「お疲れ様です!」

「……随分と買い込んだな」

沢山詰まった買い物袋を見るなり、笑われた。さりげなく買い物袋をヒョイッと持ち上げられ、軽くなった右手には一颯さんの左手が繋がれた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

処理中です...