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バトラーを目指す方向性に決まりました。
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本日の業務が終了し、明日の公休に備えて買い出しに行って来たのだけれども…
重い…、とてつもなく重い。
仕事帰りに夜間まで開いているスーパーで買い物をし、食材をあらかじめ持って来た保冷バッグに詰め込み、支配人の住むマンションに移動中。
ホテル勤務の遅番だと夜10時を過ぎる事など当たり前で、夜間まで開いているスーパーは大変有難いのだが…正直、行き帰りに不安がない訳ではない。
女性の夜間の一人歩きは危険な事は充分承知なのだが、いつも帰り際にしか立ち寄れない為、仕方なく足を運んでいた。
支配人のマンションと私が住む社員寮は勤務先のホテルの裏側に位置しているが、マンションは社員寮を通り越し、静かな住宅地に位置している。
ホテルの表側は人通りも多いが、裏側はスーパーはあるが、夜遅くの人通りは少ない。
街灯は明るいが人通りが少ないので、背後から近付く足音に怯えてビクッとしながら、自然と早足になる。
まるで追いかけっこのような足音。私の足音に合わせるかのように、背後の足音も早くなる。
怖いから後ろは振り向けないが、荷物が重くて走れない。
「篠宮っ!」
背後から大きな声で私を呼ぶ声がしたので振り向くと同時に、私の横を誰かが走り去った。
「支配人…?」
「大丈夫か?何もされてないか?」
「………?大丈夫です、けど?」
私を呼び止めたのは支配人で駆け寄って来て、抱きしめられる。
耳元に近い場所で心配そうに呟いて、抱きしめられている腕に力が入り、私は身動きが取れずに両手に持っていた荷物をアスファルトの歩道上に落としてしまった。
グシャリ、と言う鈍い音が聞こえたので卵のパックに何かがぶつかり卵が割れたのだと思う。
「明日、朝御飯から作ろうと思って…買い出しに行って来ました。とりあえず、冷蔵庫に入れさせて貰おうと思ったんです」
塞がっていた両手が空いたので、支配人の背中に手を回してジャケットの生地を軽く掴む。
「はぁー、お前は馬鹿か?」
大きな溜め息をつきながら私の事を引き離し、顔を見て真剣な顔つきで注意をされる。
「買い出しなら明日の朝にすれば良かっただろ!わざわざ夜間に女が一人で行くなんて、危険すぎる!何事もなかったから良かったものの…気をつけろ」
「そうなんですけど…でも、」
「でも、何だ?」
私の両腕を横側から掴み、まるで子供に注意をするかのように逃げられないようにガードされる。
一人歩きに多少の不安もあったけれど、明日の朝御飯から用意したかったし、それに何より…。
「食材を冷蔵庫に入れている間に帰って来るかな…と思ったので…」
プライベートで会いたくなっただけ。
絶対的な支配領域を持つ職場では、彼は近くに居ても手の届かない遠い存在。
「……つまり、先に行って待ってようと思ったのか?」
「はい、支配人のお顔を見たら帰ろうと思ってました…」
「本当に馬鹿な奴だな」
「……っう、すみ…まひぇん…」
一通り怒られた後に両腕を解放されたが、頬を軽くつねられた。
つねられながらも小さな声で謝り、スーパーの買い物袋を拾う。やっぱり卵が割れていてパックから流れ出し、他の食材にまとわりついてベタベタしている。
割れた卵に嫌気がさして「はぁ…」と溜め息をつき歩き出そうとした時、両手の重みがふわっとなくなり、支配人が持ち上げた事に気付く。
さり気ない優しさが好き。
「ありがとうございます…。卵割れてるからスーツ汚さないで下さいね」
「割れてるのは知ってる。汚れたら、責任持って明日、クリーニング出して来い。取りに行くのは次の公休で大丈夫だ」
「はい、分かりました」
分かりずらいけれど、ソレは次の公休も会いに来いよって言う意味だと勝手に解釈する。
『勘違いしてろよ』と言う先日の言葉、鵜呑みにしている私。
からかわれているだけかもしれないから、傷付くのは私だと理解はしているが、認めてしまった恋心は引き返せない。
前身あるのみ。
「これでよしっ、と。」
支配人のマンションに着き、真っ先に割れた卵でベタベタになった食材を拭きながら冷蔵庫にしまった。
ベタベタになってしまった手を洗い流し、シャワーを浴びている支配人を待つ。
待つ間にソファーで横になりながらテレビのスイッチを入れ、たまたま放送されている恋愛ドラマを見る。
キスしたりイチャイチャしているシーンで支配人がちょうど浴室から出て来て、私達は目が合う。
普段からは想像出来ないルームウェアに身を包み、濡れたままの髪を拭きながら隣に座り、何かを言いたげな表情をして私の顔を見つめる。濡れている髪が、より一層に色気を引き立たせる。
何も言わないので、目の前のイチャイチャシーンからの流れのベッドシーンに対して後ろめたくなり、支配人から顔を背けた。
「…可愛いな、お前。ベッドシーンに反応して顔が赤いのか?それとも、何かを期待しているのか?」
無理矢理に顔を自分側に向け、ニヤリと不敵な笑いを浮かべて頬に触れてきたが、私の身体は強ばってしまう。
顔が近付いてきて目をギュッとつむったが、唇が重なる寸前で止められた。
「………?」
「髪、乾かしてくる」
寸止めされた私はゆっくりと目を開き、支配人の言葉を受け入れるように頷く。
いつの間にかベッドシーンは終わっていて、ドラマの内容などは全然と言っていい程、頭の中には入っていない。支配人が戻って来る前に帰り支度を済ませて、帰ろう。
「…まさか、今から帰ろうとか思ってないよな?」
「…か、帰ってまた明日来ますっ」
帰り支度をしている途中で支配人が戻って来て、私に問いかける。
「夜中に一人で出歩くな、とさっき言ったばかりだろ!俺はシャワーを浴びたし、送るつもりはないからな。…大人しく、泊まって行くように」
ギロリ、と睨まれて「業務命令だ!」とトドメを刺された事に対して、「勤務中ではありません…」と口答えをする。
口答えをしてしまったので倍返しの叱責を想像したが、その逆で「お前の意思でココに来たんだから、ゆっくりと話をしよう。絶対に手は出さない、約束する」と優しく語りかけてきた。
「はい…」と短く返事をし、手に持っていたバッグをフローリングの床に下ろす。
シャワーを浴び、支配人から借りたTシャツに袖を通すとブカブカで肩がズレていた。
生憎、私服にキャミソールを着てきたので、Tシャツの中に着る事により、肩ズレによる下着のチラ見せはなくなる。
良かった…。
「やっぱり大きかったよな?今度来る時は着替えも持って来るように」
「…はい」
ドライヤーで髪を乾かした後、支配人の待つソファーまで移動するとテーブルにはワインとクラッカーなどが用意されていた。
グラスにワインを注ぐ姿が、何とも言えずに素敵で様になっている。
「お疲れ様」と言って乾杯をし、口に含むとフルーティな酸味と甘みのバランスが良い辛口の白ワインの味わいが広がった。
甘みが少なくピリッとした舌に残る感覚が私には苦手に感じて、二口飲んだだけで口に運べずにいると左隣から視線を感じた。
「どうした?苦手か?」
「私には辛口過ぎるようです。甘口しか飲んだ事がないので…すみません」
支配人は「お子様だな…」と言いながら、仕方なさそうに立ち上がり、キッチンへと向かう。
「お茶下さい!」とソファーから声をかけたが、聞く耳持たずに出されたのはフルーツ入りのサングリア。
「空いてた赤ワインとお前が買ってきたフルーツを入れてみた。足りない分のフルーツは明日買い足す」
「いただきますっ」
ボルドーの赤ワインに生搾りのオレンジを足し、キウイとイチゴも加えてある。
一口飲むと甘みが増した赤ワインが口の中に広がる。
「美味しっ」
ご丁寧にもフルーツも食べられるようにとスプーン付きだったので、フルーツを掬い支配人に「食べます?」と聞く。
私がスプーンを持つ手を握り、自分の口をスプーンまで近付けてパクリと食べた。
「…味見はしたが、フルーツを食べると想像よりも甘かったな」
「甘くて、一日の疲れが取れますね」
支配人には甘すぎたのか、辛口の白ワインを口に含み、口直しをしているみたいだ。隠れ甘党男子でも、いや、隠れだからこそ、お酒は辛口が好きらしい。
「……支配人はワイン好きですか?」
「そうだな。辛口を好むから主に白だな。お前は甘い酒なら飲めるのか?」
「はい。甘いお酒ならなんでも飲みます」
「そうか、覚えておく」
サングリアを飲みながら、途中でフルーツも食べる。繰り返している内に思考回路がグルグルとしてきて、眠気も襲ってくる。
支配人がテレビを見ながら世間話をしていたが、その回虚しく瞼が重くなっていた。
重い…、とてつもなく重い。
仕事帰りに夜間まで開いているスーパーで買い物をし、食材をあらかじめ持って来た保冷バッグに詰め込み、支配人の住むマンションに移動中。
ホテル勤務の遅番だと夜10時を過ぎる事など当たり前で、夜間まで開いているスーパーは大変有難いのだが…正直、行き帰りに不安がない訳ではない。
女性の夜間の一人歩きは危険な事は充分承知なのだが、いつも帰り際にしか立ち寄れない為、仕方なく足を運んでいた。
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街灯は明るいが人通りが少ないので、背後から近付く足音に怯えてビクッとしながら、自然と早足になる。
まるで追いかけっこのような足音。私の足音に合わせるかのように、背後の足音も早くなる。
怖いから後ろは振り向けないが、荷物が重くて走れない。
「篠宮っ!」
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「支配人…?」
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グシャリ、と言う鈍い音が聞こえたので卵のパックに何かがぶつかり卵が割れたのだと思う。
「明日、朝御飯から作ろうと思って…買い出しに行って来ました。とりあえず、冷蔵庫に入れさせて貰おうと思ったんです」
塞がっていた両手が空いたので、支配人の背中に手を回してジャケットの生地を軽く掴む。
「はぁー、お前は馬鹿か?」
大きな溜め息をつきながら私の事を引き離し、顔を見て真剣な顔つきで注意をされる。
「買い出しなら明日の朝にすれば良かっただろ!わざわざ夜間に女が一人で行くなんて、危険すぎる!何事もなかったから良かったものの…気をつけろ」
「そうなんですけど…でも、」
「でも、何だ?」
私の両腕を横側から掴み、まるで子供に注意をするかのように逃げられないようにガードされる。
一人歩きに多少の不安もあったけれど、明日の朝御飯から用意したかったし、それに何より…。
「食材を冷蔵庫に入れている間に帰って来るかな…と思ったので…」
プライベートで会いたくなっただけ。
絶対的な支配領域を持つ職場では、彼は近くに居ても手の届かない遠い存在。
「……つまり、先に行って待ってようと思ったのか?」
「はい、支配人のお顔を見たら帰ろうと思ってました…」
「本当に馬鹿な奴だな」
「……っう、すみ…まひぇん…」
一通り怒られた後に両腕を解放されたが、頬を軽くつねられた。
つねられながらも小さな声で謝り、スーパーの買い物袋を拾う。やっぱり卵が割れていてパックから流れ出し、他の食材にまとわりついてベタベタしている。
割れた卵に嫌気がさして「はぁ…」と溜め息をつき歩き出そうとした時、両手の重みがふわっとなくなり、支配人が持ち上げた事に気付く。
さり気ない優しさが好き。
「ありがとうございます…。卵割れてるからスーツ汚さないで下さいね」
「割れてるのは知ってる。汚れたら、責任持って明日、クリーニング出して来い。取りに行くのは次の公休で大丈夫だ」
「はい、分かりました」
分かりずらいけれど、ソレは次の公休も会いに来いよって言う意味だと勝手に解釈する。
『勘違いしてろよ』と言う先日の言葉、鵜呑みにしている私。
からかわれているだけかもしれないから、傷付くのは私だと理解はしているが、認めてしまった恋心は引き返せない。
前身あるのみ。
「これでよしっ、と。」
支配人のマンションに着き、真っ先に割れた卵でベタベタになった食材を拭きながら冷蔵庫にしまった。
ベタベタになってしまった手を洗い流し、シャワーを浴びている支配人を待つ。
待つ間にソファーで横になりながらテレビのスイッチを入れ、たまたま放送されている恋愛ドラマを見る。
キスしたりイチャイチャしているシーンで支配人がちょうど浴室から出て来て、私達は目が合う。
普段からは想像出来ないルームウェアに身を包み、濡れたままの髪を拭きながら隣に座り、何かを言いたげな表情をして私の顔を見つめる。濡れている髪が、より一層に色気を引き立たせる。
何も言わないので、目の前のイチャイチャシーンからの流れのベッドシーンに対して後ろめたくなり、支配人から顔を背けた。
「…可愛いな、お前。ベッドシーンに反応して顔が赤いのか?それとも、何かを期待しているのか?」
無理矢理に顔を自分側に向け、ニヤリと不敵な笑いを浮かべて頬に触れてきたが、私の身体は強ばってしまう。
顔が近付いてきて目をギュッとつむったが、唇が重なる寸前で止められた。
「………?」
「髪、乾かしてくる」
寸止めされた私はゆっくりと目を開き、支配人の言葉を受け入れるように頷く。
いつの間にかベッドシーンは終わっていて、ドラマの内容などは全然と言っていい程、頭の中には入っていない。支配人が戻って来る前に帰り支度を済ませて、帰ろう。
「…まさか、今から帰ろうとか思ってないよな?」
「…か、帰ってまた明日来ますっ」
帰り支度をしている途中で支配人が戻って来て、私に問いかける。
「夜中に一人で出歩くな、とさっき言ったばかりだろ!俺はシャワーを浴びたし、送るつもりはないからな。…大人しく、泊まって行くように」
ギロリ、と睨まれて「業務命令だ!」とトドメを刺された事に対して、「勤務中ではありません…」と口答えをする。
口答えをしてしまったので倍返しの叱責を想像したが、その逆で「お前の意思でココに来たんだから、ゆっくりと話をしよう。絶対に手は出さない、約束する」と優しく語りかけてきた。
「はい…」と短く返事をし、手に持っていたバッグをフローリングの床に下ろす。
シャワーを浴び、支配人から借りたTシャツに袖を通すとブカブカで肩がズレていた。
生憎、私服にキャミソールを着てきたので、Tシャツの中に着る事により、肩ズレによる下着のチラ見せはなくなる。
良かった…。
「やっぱり大きかったよな?今度来る時は着替えも持って来るように」
「…はい」
ドライヤーで髪を乾かした後、支配人の待つソファーまで移動するとテーブルにはワインとクラッカーなどが用意されていた。
グラスにワインを注ぐ姿が、何とも言えずに素敵で様になっている。
「お疲れ様」と言って乾杯をし、口に含むとフルーティな酸味と甘みのバランスが良い辛口の白ワインの味わいが広がった。
甘みが少なくピリッとした舌に残る感覚が私には苦手に感じて、二口飲んだだけで口に運べずにいると左隣から視線を感じた。
「どうした?苦手か?」
「私には辛口過ぎるようです。甘口しか飲んだ事がないので…すみません」
支配人は「お子様だな…」と言いながら、仕方なさそうに立ち上がり、キッチンへと向かう。
「お茶下さい!」とソファーから声をかけたが、聞く耳持たずに出されたのはフルーツ入りのサングリア。
「空いてた赤ワインとお前が買ってきたフルーツを入れてみた。足りない分のフルーツは明日買い足す」
「いただきますっ」
ボルドーの赤ワインに生搾りのオレンジを足し、キウイとイチゴも加えてある。
一口飲むと甘みが増した赤ワインが口の中に広がる。
「美味しっ」
ご丁寧にもフルーツも食べられるようにとスプーン付きだったので、フルーツを掬い支配人に「食べます?」と聞く。
私がスプーンを持つ手を握り、自分の口をスプーンまで近付けてパクリと食べた。
「…味見はしたが、フルーツを食べると想像よりも甘かったな」
「甘くて、一日の疲れが取れますね」
支配人には甘すぎたのか、辛口の白ワインを口に含み、口直しをしているみたいだ。隠れ甘党男子でも、いや、隠れだからこそ、お酒は辛口が好きらしい。
「……支配人はワイン好きですか?」
「そうだな。辛口を好むから主に白だな。お前は甘い酒なら飲めるのか?」
「はい。甘いお酒ならなんでも飲みます」
「そうか、覚えておく」
サングリアを飲みながら、途中でフルーツも食べる。繰り返している内に思考回路がグルグルとしてきて、眠気も襲ってくる。
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